第2話
昨日、勇気を出してした告白。
その返答は「保留」になった。九条さんは俺が告白する前に裏アカを見ていたので、正直拒否してくるものだと思っていたので命拾いしたと言えるが……。
俺の片思いはまだ続いている。
「はぁ」
夏が終わり、秋という一番好きな季節が始まったというのに、学校へと進んでいる足取りが重くなっているのを感じる。
九条さんがするとは思えないが、もし学校中に俺の裏アカの存在をバラさられていたらと鳥肌が立つ。
俺は亀のようにのっそのっそと学校へ足を進めていた。
が。
トントン
「おはよ」
「っ!?」
ひょこっと後ろから顔を出して女の人から声をかけられた。
後ろから横に移動してきたのは、片思い中の九条さん。
思わず一歩距離を取る。
「なんで距離取ったの」
「……急に声をかけられたので思わず」
「そっかそっか。それは申し訳ないことしちゃったね。もう急には話しかけないから近づいて?」
正面からお願いしてくる九条さん。
もちろん逆らうことはできず、俺は恥ずかしいが肩と肩が当たりそうな距離まで近づいた。
この甘い匂いは……香水かな?
「そういえば柳くんに聞きたいことがあるんだけど」
九条さんは少し怒った顔を向けてきた。
「な、なんですか?」
「昨日から柳くん裏アカから新しい投稿されてないんだけど、これ一体どうなってるの?」
「それは……昨日九条さんに見られてるってわかったので、恥ずかしくて」
「それだけの理由で投稿するのやめたの?」
「あ、はい」
「ふぅ〜ん。恥ずかしくなると私が好きな気持ちを発散したくなくなるんだ」
な、なんなんだ……?
なんで九条さんは俺が愛のメッセージを投稿しなくなって、不満そうな顔をしているんだろう?
「そりゃもちろん、好きな気持ちを発散したいですけど……」
「あ。いいこと思いついた」
九条さんは突然俺の耳に手を当て、さわさわっと耳を撫でるように触り、耳に口を近づけてきた。
ビクッと体を震わせた俺を無視し。
「ねぇ。せっかく私がここにいるんだから、好きって気持ち本人前で発散してみない?」
耳から直接九条さんの声が聞こえてくる。
言ってきた内容が頭に入ってこず、吐息が耳にかかって全身鳥肌が立った。
「あっ、はい」
首を縦に振ることしかできない。
まるで悪魔の囁きだ。
「やった。じゃあ柳くんも私の耳元で愛を囁いて?」
悪魔の囁きに浸っている俺のことをおき、話は進んでいた。
どうやら俺は九条さん本人に愛を囁かないといけないらしい。
もう裏アカでなんども愛のメッセージを投稿していたので、不思議と緊張はなかった。
「ぴゃっ」
耳を触るとイルカと共鳴するのかと思うような声が九条さんから聞こえた。
普段見ないような反応だ。
「ぴゃっ」
耳に熱がこもり始めた。
反応を見てみたいと思って耳をいじってみたけど、さすがにやりすぎたのかもしれない。
俺が耳を触り始めてから九条さんは静かだ。
もっと触って、触り尽くしたいけど我慢。耳を両手で囲い、口を近づけた。
「かわいい。大好き」
「ひょひゃぴょっ!?」
ピョコッと飛び跳ねた。
そして、すばやく俺から距離を取り、電柱に隠れた。
これじゃあまるで、俺が悪いことをしてしまったようだ。
「どうでした?」
「……中々いいんじゃない」
「ちょ、なんで不機嫌なんですか」
「知らない。私、全然不機嫌じゃないけど?」
口ではそう言っているが、ぷいっと顔を逸らし声が不機嫌そのもの。
「まだ愛の囁きが足りなかったんですか?」
「ち、違うから。もう……。今後はちゃんと裏アカで投稿するんだよ」
「はい。わかりました」
その後、学校までの道のりで九条さんの不機嫌が治ることはなく、最後まで顔を合わしてくれることはなかった。
が。
態度とは裏腹に、終始耳が真っ赤になっていたのは見逃さなかった。
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