お誘いは帰り道で
リコットちゃんはね。そう――奇想天外、とでも言えばいいのかしらね。
◇
「あーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!」
他愛もない会話をしながら三人で歩く下校中、唐突にひっくり返りそうな叫び声をあげる
すれ違いざまのおじさんが驚いてひっくりかえっていたけど。
この子の行動、奇想天外で全然読めない。
「どうしたのリコット?」
動じず聞き返す
「き……」
「木?」
「きょ、今日……、フィグとカミワイバーン飛ばし対決やる約束だったのです! 負けたら一か月トイレ掃除なのです! 間に合わなかったら不戦敗なのです!」
「なにそれ……」
カミワイバーン? トイレ掃除?
「カミワイバーンというのは紙を折って作る、
なにそれ、はカミワイバーンもそうだけど、その対決の設定おかしいでしょという意味も込められていたんだけど伝わらないよね。
引き留めても悪いし説明するのも回答受けるのも時間かかりそうだしまあいいか。
あとフィグって誰だろう。
オーバーオールに作業用の(おそらく鉄板入りの)頑強な
走りながら首だけ振り返る。
「あ! 明日おうちで待ってるのです! お昼くらいに来てくれたらいいのです! おーくるおーどちゃんもまた明日なのです!」
言い終わらないうちに首を正面に戻して疾走する。
え。
あんな鈍重な靴履いても私より脚速いんじゃ……。
っと、それより。
「明日?」
「明日はお休みでしょ。リコットとちょっと足を延ばして遊びに行くんだ。オークルオードさんも来るでしょ?」
「へ?」
遊びに誘われたこと自体片手の数にも満たないのに、いきなり……。
いきなりデートの間女になれなんて!
感情が追い付かないし、どんな顔をしていいのか分からない。
黙り込んでいる私を不審に思ったらソラ君が声をかけてきた。
「あれ? 用事あった?」
「特に無いけど……」
「じゃあ来られるってことだよね?」
やっとの思いで絞り出した答えも即座に切り返される。
「ま、待って待って待って待って。何かおかしいわ。…………そう、私たち今日話すようになったばかりなのよ?」
「それで? もう楽しい時間過ごせているからいいんじゃないの?」
「………………」
もっともだけれど、もっともなのだけれど!
「あれ、嫌だった?」
「い、嫌じゃない……嫌じゃないわ……唐突だったから感情が付いていけなかったのよ……」
いきなりいいのかしら。
そういうのってもっと仲良くならないと私だけ浮いちゃうんじゃないか……気まずい空気になるんじゃないかって、私は右手の甲を口に当て悶々とする。
「リコットの中では決定事項だと思うから、オークルオードさんが来なかったら悲しむと思うな―」
私の思考を読んだようにソラ君が言う。
なにそれ脅しなのかしら。
というか決定事項って……。
「思い込みが激しいからねー」
視線を上げると、見通しのいい通りなのにただでさえ小さい背中があっという間に見えなくなっている。
「カミワイバーンかぁ。相変わらず面白いことするんだなー。」
「ソラ君、楽しそうね?」
「リコット、見てて飽きないよね。何をするにも全力なんだ」
彼の頬が赤く見えるのは、傾いてきた陽に照らされているからなんだろう。
見えなくなった背中をいつまでも見送る瞳も輝いていたことには、私は気付かなかったことにした。
おかげでいくつかの疑問については聞きそびれてしまった。
◇
明けて翌日。
何を着ていこうか、どんな髪型にしようか――。
ソラ君と休日を一緒に過ごせるなんてドキドキしてしまってほとんど眠れなかった。
枕を抱いてゴロゴロ。
何度も
私ってば似通った地味なものしか持ってない。
見た目が地味なら趣味も地味。
おしゃれをしたいけど、勉強一筋できてしまった私には縁遠い話だし、親にはとても聞けなかった。
そんなことする暇があったら勉強しろ、と言われるのが関の山だ。
出かけるのも友達と勉強会ということにしていた。
なにせ、おばあちゃんのお茶を探すのさえ小言を言われるのだから――。
ソラ君と、昨日の帰り道に分かれたところで待ち合わせ。
私たちは同じ地区住まいで、言ってしまえばご近所さん。
リコットちゃんのおうちは大通りを挟んだ向かいの地区の、さらに奥のほうだとか。
ずいぶん遠くから学園に通っているのね……。
でも、あの足の速さならへっちゃらなのかな。
悩んだ末に
あの娘はどんな服を着てくるのだろう。
「お待たせ―」
声に振り返る。
この季節の爽やかな気候によく合う、薄い灰色をした薄手の
いつもの
これは……割とボーイッシュ女子。
フリルのワンピースかな、とか考えたけれど、予想外。なのにすごく似合っていてかわいい。
いやむしろ男子なのに女子と呼称するほうが似合うってどういうこと……。
初めての私服姿に思わずまざまざ見つめてしまう。
凹凸の無い体に馴染んだ服が、美少年と美少女の中間の見た目を引き立たせていて胸が高鳴る。
「かわいい……」
おもわず口からそう出てしまい、慌てて口を押える。
余計なことを言ってまた嫌われたらどうしよう。
「うん、ありがと。オークルオードさんは
そう言って微笑む彼を見ると、安心を通り越して顔が火照ってしまう。
発言を受け入れられ、その上自分も肯定されて……脳内の私はスキップダンスを繰り広げる。
……私はどうかしている。
◇
好きな人の私服が見られるのって特別な経験、そう思わないかしら?
って、私は何を言ってるのかしら……。
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