14.巡洋艦〈あやせ〉―4『出頭―2』
難波一子少佐――巡洋艦〈あやせ〉の副長サンは、(色んな意味で)『大人』な人だった。
大女とかガチムチじゃないけど長身で
でもって、それと同じくらいにボンキュッボン! の(スんゴい)グラマーな人だった。
……え? どゆこと?
それって両立する……、両立可能な要素なワケ?
別に
いや、フィットネスは本人の意識と努力の
でもさぁ……、
身体つきがそうなら、
もう文句ナシで美人!
職業はモデルとか女優と
同性ながら眼福だけど、だからこそ余計にズルいなぁって思っちゃう。
つくづく神様は公平じゃないわよね。
ただ……、
そんな副長サンだけど、でも多分、たとえば街を歩いても、男の人が振り返ったりはしないんじゃないかな、とも思った――どうにも近寄りがたくって。
興味本位じゃ、とてもとても、じっくり見つめるなんて出来っこない。
ま、ろくに恋愛経験も無いアタシの感想だから、どこまで的を射てるかなんてわからないよ? でも、副長サンが、その身に
アイスドールって言うのかな?
見たところ、二十代
難しい言葉でいうなら
つまりは完璧すぎるんだね、人として。
で、
そんな見るからに怖そうな人がだよ? すい、と艦長の座る机の角をまわりこみ、アタシの目の前に移動してきたの。
なにかな? なにかな?
艦長に紹介されたから?
だから近くに寄ってきた?
そんな
ザワリ、と背筋が冷たくなる。
ほんの二、三歩の所に立った。
近い近い近い……。
怖い怖い怖い……。
アタシ、何にもしていないよね? 子供艦長の長口舌をただ聞いていた……聞かされていただけだよね? 怒られないよね?
これまでだって気をつけの姿勢でいたけれど、すぐ目の前にまで副長サンに近づいてこられて、直立不動で硬直してしまう。
と、
「楽にしなさい」
気のせいかな?――
そして、
「あまり時間がないので残りは私が説明しよう。田仲一等兵が」「コラ~! 見えな~い! 難波ちゃん、邪魔~!」
副長サンが話しはじめた途端、
例の女の子――子供艦長が爆発したのだった。
落ち着いた声と、きいろい声とが入り混じる。
「そのデカいお尻と塗り壁みたいな背中をとっととアタクシ様の前からどけなさいよぉ! 部下のくせしてアタクシ様の視界をさえぎるなんて、不遜よ、不遜! 上官
副長サンが口をつぐむと、キャンキャン声は更に勢いを強めて、その場の空気を不快な色に染めあげていく。
見れば、確かに子供艦長の姿は、副長サンの背中にスッポリ
あぁ、なるほど……。副長サンがわざわざ立ち位置を変え、アタシの前までやって来たのは、話が進まないから
でもって、当然、子供艦長の方は、それを不満不快に感じた、と。
でも、
「だいたい――!」と、きいろい声がなおも何かを言いつのろうとした矢先、
パンッ! と鋭い響きが、部屋の空気を引き裂いた。
副長サンが、小脇に
途端、副長サンの向こう側――大きな机の後ろ側から発されていた、きいろい声がピタリとやむ。
「田仲一等兵が既に聞き知っていることもあるかも知れないが、本艦、および本艦がおかれている現状を概略ここで伝えておく」
背後の騒音源が完全に沈黙したと見極めた後、副長サンは説明の言葉を再開した。
……何て言ったらいいのか、中尉殿といい、このフネではタブレットは打撃武器として使用されるのが通例なのかしらん。
精密機械としては
とまれ、
「まず、本艦の所属は、宇宙軍に四つ設けられてある大艦隊のうち逓察艦隊――逓信偵察艦隊である」
謹聴に適した静けさが戻った室内に、副長サンの声が淡々と響く。
「偵察はともかく、逓信という語は、あるいは耳に
「我々が任務とするのは高位指揮連絡ならびに戦略情報収集――すなわち通信と偵察」と、そこで副長サンは、いったん言葉を切った。
「この宇宙において、もっとも速いものは光である――これはいいかな?」
「は、はい」
突然の問いに、ビクッとなりながらも応えると、頷いてくれる。
「結構。さて、光こそがもっとも速いとなると、広大な恒星間宇宙で人類が活動するのに際して大なる障害が生起してしまう。何をするにも無用に時間がかかりすぎてしまうからだ。
「隣の恒星系へ通信ひとつ送るだけでも年単位の時間が必要だなどという物理的な制約を課せられ、かつ、それをそのまま許容していては、到底、宇宙を生活空間として利用することなど出来ない。人類種族の寿命を含む生理時間との
「そこで生み出されたのが超光速航行技術という事になるが、残念ながら、移動はともかく、こと通信に関しては、未だに光速を超える手段はない。
「通信だけは、古代・銀河帝国の往古から現在に至るもなお光速ででしかおこなえていないのが実情なのだ。
「そこで、単一の恒星系内部ならばともかく、他の恒星系への連絡が必要な場合は超光速移動の可能な航宙船の使用をもって、この不足面を補完する術となしている。この〈ホロカ=ウェル〉銀河系に存する国家群、我が国の官公庁、私企業――すべからくそうだ。
「そして、軍事力という側面から国家の安全保障を担任している軍組織においては、国家版図、時にはその境界を越えた外側までもを含めた上での指揮連絡、また種々の情報収集活動が必要で、だから、それ専門の部署をもたねばならない事となる」
「それが逓察艦隊……」
整然とした副長サンの説明に、知らずアタシはそう呟いている。
「その通り」
「つまり、逓察艦隊は、かかる必要性から生み出された国家戦略策定、また、遂行のための支援組織なのだ。
「従って、大倭皇国連邦宇宙軍の指揮系統上、逓察艦隊は国家大戦略を策定する大本営直属ということになり、大本営の
と、
「まァ、
どこかアンニュイな調子の声が、副長サンの背中越しに聞こえてくる。
「
アタシにも勧めてくれた、いただき物とやらを口にしているのかもしれない。
退屈しきっているようだった。
職責にふさわしいスタイルでの説明をしなかったんだから、その役目を取り上げられても自業自得と思うけど、結果、することがなくなってしまってヒマをもてあましているらしい。
いずれにしても、せっかくの(?)マジメな雰囲気が色々台無し。
が、
「逓察艦隊の任務については以上だが、次に本艦の現状を説明しておく」
そんな上官の余計言を踏みつぶす感じで、副長サンは言葉を続ける。
一瞬、ピクリと片方の眉が
って言うか、
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