7.出征―7『〈幌筵〉星系警備府―4』
(ふッざけンなぁあああぁあああ……ッ!!)
アタシは(心の中で)爆裂怒号した。
(ふざけんな!
なんなの!? 一体なんなの、この遅れ! 人にはほぼほぼ達成ムリな期限を課しといて、自分たちは遅刻するとか一体なんなの!?
これってパワハラ? それとも、応召者の愛国心とか忠誠心だとかを試す
どっちにしたって、ふ・ざ・け・ん・な!
アタシの華々しい(に決まってる)競技者人生を完璧メチャクチャにしてくれたうえでの、この対応って、いったい何なの!?
ホント、血管ブチ切れそう。これで案内人とやらが悪びれもせず、のほほんとやって来るようだったら、まぢ、ぶちのめす!
と、
アタシの手許で、レッドカードがピーッ! と鳴った。
操作している手指に知らず力がこもりすぎてたらしい。
人間の握力程度じゃ壊れやしないくせに、ナマイキな。
じゃ、なくて!
あ~、イカン。心身共に限界で、思考が不穏になりすぎている。
ふしゅるるる~~ッと、アタシは冷静になるべく息を深く吐く。
ついでに、長時間、座りっぱなしなので身体をほぐす事にした。
調べられる範囲の事は、ほぼ調べあげたんじゃないかと思うし。
学校の教室くらいの広さの部屋。
アタシが入ってきた扉の他には、窓ひとつ無い……、
イコール、情報の入手手段も外部との連絡設備も、息抜きの娯楽やくつろぐ為の
ウン。『荒涼とした』なんて、部屋内部の形容としてはおかしいかも知れないけれど、でも、この表現が一番シックリくるわ。
つまりは自分が呼びつけた相手を何時間もほったらかしにして、待ちぼうけを食わせるのにふさわしい場所じゃないって事ね。
(さんざん人を
ゆっくりと時間をかけ、
とにかく、我慢の子でいることを終わりも見えず強要される。
兵隊になるのはまだヨシとして、この現状が納得いくものか。
なんともストレスフルな状況で、
アドレナリンのおかげか、眠気もどこかに飛んでっちゃった。
もう、いつ寝落ちしたっておかしくはない体調だったのにね。
あぁ、もう、ホント……!
「だいたい、なぁにが『
あ、つい声に出ちゃった。
けど、まぁ、そうだね――
レッドカードが告げるアタシの配属先――大倭皇国連邦宇宙軍の
大倭皇国連邦宇宙軍を構成している四つの大艦隊の中のひとつ。
日常的にはまず使わない『逓』の字を名の一字にもつ任務集団。
その大艦隊の第二艦隊に、巡洋艦〈あやせ〉は配属されてるの。
ま、ね、字の読みからして、『逓』って偵察の『偵』の旧字だろうって思うんだ。
聯合艦隊の『聯』の字と一緒。普通に『連』と書けばいいものをカッコ付けでサ。
つくづく、素直に『連合』って書き、『偵察』と書けばいいのにって思っちゃう。
やっぱり、軍人にも役人根性ってあるのかなぁ? 妙なところにこだわるわよね。
通達文は表現が文語調で読むのに一苦労だし、上から目線の物言いが鼻につくし。
文章をことさらわかりにくいものにしたら自分が偉いとでも思ってるのかしらん。
って、まぁいいわ。
とにかく、逓察艦隊、よ。
アタシ調べた。
調べまくった。
なにしろ、幸いなことに(←皮肉よ。モチロン)憤死する程ムダに時間はあったから、この四時間(以上)というもの、アタシは勉強しました。させていただきました。
で、わかった事。
まず一つ目は、逓察艦隊というのは、何て言うか、こう――純然たる(?)戦闘部隊じゃないらしいって事。
いや、もちろん、複数の戦闘航宙艦からなる艦隊だから、まったく戦わないワケじゃないだろうけど、なんて言うのか、こう、名称通り、偵察行動をまず第一として動く部隊というか、要は、敵と直接砲火を交えるのではなく、必要な情報をゲットできたら、あとはムダに戦うことなく危険な場所からとっとと退散しちゃうみたいなの。
をを、やったね!――それと知った時は、思わず
これが聯合艦隊とかなら、正面きって敵とドンパチやるのが
つまり、徴兵期間を無事にクリアできれば、もはや誰に邪魔されることなく陸上競技にも家業にも復帰できようってもんじゃない?
ふたつ目は、逓察艦隊に配備されてる艦艇は、アタシが乗る(予定の)〈あやせ〉をはじめ、そのほとんどが巡洋艦クラスであるらしいこと。
逓察艦隊の艦隊編成表を見たら、そうなっていた。
ってかね、これは推理。
軍隊関係ど
わかんないけど、ほら、〈あやせ〉って艦名――これって河川の名前からとられてるみたいなの。
レッドカードの検索で、艦艇諸元の項目にそう書かれてる一文があった。
で、
逓察艦隊に所属している艦艇は、アタシの知ってる範囲、名前がほとんど河川のそれになっていた。
時たま観ていたドラマなんかじゃ、聯合艦隊に配備されてる有名どころの戦艦は、旧い国名をフネの名前にしていたし、同様に駆逐艦は気象が名前のもとだった。
その伝でいくと、戦艦、巡洋艦、駆逐艦――わが国の戦闘航宙艦群は、ある一定のルールに基づきフネの名前が決められている。そして、同じ艦種に属する艦艇たちは、そのルールに
だから、逓察艦隊に所属している艦艇は、その全部、もしくは大部分が巡洋艦だと思うのよ。
当たっていたら(当たっていると思うけど)、これも嬉しい要素だよね。
だって、巡洋艦って、戦艦の次に強い艦種なんでしょう? ドラマの中じゃそうなってたもん。
だったら、担う任務と考え併せると、アタシの身の安全は、更に確かなものになるよね。
そして、三つ目。
……と思ったところで、部屋出入り口から
「あなたが田仲深雪!?」
アタシの姿を認めると、叩きつけるみたいにそう
「は、はいッ!」
ほぼ反射的に背筋が伸びた。
「〈あやせ〉乗り組みの新兵なのよね!?」
アタシの目の前まで駆け寄ってくると、念押しのように更に訊かれた。
「は、はい、そうです!」
直立不動でうなずくと、
「ぃよっしゃあ~~~ッ!!」
女性はそう叫んだのだった。
「ど畜生ども、ザマぁみやがれ! これで賭け金は、まるッとアタシのもんだぁッ! いぃやッほぉおおぉお~~~ッ!!」
両手を天に突き上げ
「これまでさんざっぱら好き放題ぬかしやがって、ア○ズレどもが! もう、こうなったからにはタダじゃあおかねぇ。どいつもこいつも一人のこらず、キッチリ賭け金払わせてやる! し○の毛まで
いったい何があったというのか――まるで復讐の
「あ、あの……、あの……」
な、なんかヤバい――アタシは、たじたじ及び腰になる。
ただ、そのリアクションで、相手も我にかえったらしい。
数歩
そして、たぶん握手のつもりなのだろう――
「歓迎歓迎大歓迎だよ! まったく、よくぞ間に合ってくれたわね!」
そう言いながら、大袈裟&乱暴に、アタシの両手をブンブンと大きく上下に振りまわしてきたのだった。
あらためて見れば、喜色満面のその女性は、アタシより頭半分ほど
が、その握力
「あ、あの……、あの……」
強引なシェイクハンドに引きずられ、上半身ごと頭をがくがく揺すられながら、アタシはただただ混乱するばかりだった。
このままだと、最悪、脳震
熱烈に歓迎されてる事はわかるんだけど、何故、歓迎されているのか、理由がさっぱりわからなかった。
結局、その狂騒は、
「いいかげんにしなさい!」
たしなめるような
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます