第14話 「方針」

 「おいおいおいおい、話が違うじゃねぇか! 何なんだよあいつは!」


 優矢から距離を取り、追撃もなく安全と思われる距離まで離れたと所で奏多達は足を止める。

 津軽は苛立ちと困惑を叫びに変換して吐き出す。

 巌本も動揺しているのか一言も言葉を発しない。 奏多も強い混乱に襲われていた。


 優矢が何故、ああなったのか彼女には全く理解できなかったからだ。

 考えるのは優矢に何があったのか。 真っ先に疑ったのはあの怪しい武器だ。

 鑑定を弾く時点で普通ではないが、名称もまた異様だった。


 免罪武装と呼称されるあの怪しい武器が、優矢から正気を奪った可能性は高い。

 次に気になるのは最後に彼が口にした言葉。 奏多の所為だと彼は言った。

 優矢の怒りを買うような真似を奏多がしてしまった? 少なくとも奏多には心当たりがない。


 「取りあえず追って来ないみたい」


 少し遅れて周囲の警戒をしていた千堂が合流。

 

 「……千堂君。 本陣の方は?」

 「遠目で見ただけだけどかなりの被害が出てる。 恐らくもう戦えないから一度下がると思う」

 「どーすんだよ! あいつがあれだけ強いなんて聞いてねぇぞ。 ってか同じ勇者なのにあそこまで差が出るとかあり得るのかよ。 どう見てもチートじゃねーか!」


 巌本はどうしたものかと頭を抱える。

 一番無難な選択肢はこのまま人族の軍と合流して下がる事だ。

 津軽も千堂も察している事ではあるが、言い出さない事には理由があった。


 仮に下がったとして優矢と戦って勝てるのかといった疑問だ。

 あの一撃がどれほどの消耗を強いるのかは不明で、もしかしたら一日に一発しか撃てない攻撃なのかもしれない。 そうであるなら対処のしようはあるが、そうでない場合は確実に殺される。


 それだけ優矢の放った一撃は全員の目に焼き付き、敵わないという認識を植え付けた。

 特に津軽はその点が顕著で今までそこまでの苦戦をせずにここまで来た事もあって、常に自分が優位の状況、優位のステータス、上質な武具。


 これだけが揃った状態ならまず負けないといった前提があり、高い勝率が担保されていたからこそ今までやって来れたのだ。 

 それが一撃喰らえば確実に死ぬ攻撃を目の当たりにして心が折れかけてしまっていた。


 「なぁ、奏多ちゃんよ。 知り合いなんだろ? どうにかならねぇのかよ! そもそも声なんてかけずに魔法で焼き殺してればこんな事には――」

 「津軽君。 たらればを言っても仕方がない。 それに攻撃を開始してからそれなりの時間が経過していたにもかかわらず霜原君は生きていたんだ。 続けたとしても死ななかった可能性は高い」

 「……じゃあどうするんだよ! 俺はあんなのと戦うとかやってられねぇぞ!」

 「アレをまともに受ければ我々でもただでは済まない事は分かるが、そもそも彼の身に一体何が起こったんだ? 少なくとも最初に会った時は普通に会話が成立していた」

 「そうだな。 あいつ完全に目がイってた。 奏多ちゃん、最後に喋ったのは君だ。 何か心当たりはないのかよ」


 奏多は力なく首を振る。

 

 「分からない。 せっかく会えたのに何で……」


 思わず頭を抱えた。

 彼女には本当に心当たりはなかったのでそうとしか答えられない。

 少なくとも優矢と自分の仲は事故に遭うまでは良好だったのだ。

 

 あのような態度をされる理由に心当たりはない。

 奏多からすれば優矢が唐突に怒りの声を上げてああなったようにしか見えなかった。


 「……やはりあの武器の所為と見るべきか。 経験上、ステータス差は絶対だ。 それを覆せる以上は装備で補っていると考えるのは自然だ」

 「ゲームとかでよくある呪いの装備的な奴かもしれないっすね」

 「呪いの装備?」

 「あぁ、巌本サンはあんまりゲームやらないから疎かったか。 要は凄ぇチートみたいな性能があるけど何かしらのデメリットがある感じの武器っすね。 セオリーで考えるなら使えば使う程に感情的なものが取られて最後には理性が消えるとかですかね」

 

 状況だけで見るならその可能性は高い。 

 優矢はあの免罪武装という謎の武器によって理性を奪われてあのような事になった。

 仮にそうだとしたら――


 「……魔族側は召喚した勇者にあんな武器を持たせて送り込んで来るのか。 だが、それだと彼の発言と辻褄が合わないが……」

 「いや、明らかにあいつ正気じゃなかったし、もう訳がわからなくなってたんじゃないっすかね?」

 「――となると彼は魔族に操られている可能性が出てくるな」


 それを聞いて奏多は俯いていた顔を上げる。 津軽と巌本の話を聞いて腑に落ちたからだ。 

 優矢が自分にあんな態度を取る訳がない。 魔族に操られているに決まっているのだ。

 

 「いえ、それで間違いないと思います。 今の優矢は危険ではありますが、操っている魔族を殺せばどうにかなります!」

 「いや、操ってる魔族を殺すって方針には賛成だけど、具体的に誰があいつを操ってるか分からないとどうにもなんねーぞ」

 「……これに関しては津軽君の言う通りだ。 本音を言えば避けたいが、一度下がって味方と合流を――」

 「――それは止めた方がいい」


 不意に黙っていた千堂が制止の声を上げる。


 「どういう事かな?」

 「その霜原君って子が人族の軍を追って移動を始めた。 多分だけど、合流すると巻き込まれる」

  

 何故分かるのかというと彼女の保有しているスキルによる物だ。

 対象をマーキングしてその位置を把握する事ができる。 それにより優矢の移動を察知したのだ。

 千堂がどうする?と判断を委ねるような視線を向けると、津軽は無理だと言わんばかりに首を横に振る。 


 「深谷君と古藤さんの事もある。 流石に見捨てるのは――」

 「二人なら多分死んでる。 さっきの攻撃、本陣の中央を吹き飛ばしてたから着弾点の中心に居た二人はまず助からない」


 彼女の言葉は正しく、優矢の放った攻撃が炸裂した範囲は文字通り跡形もなく消し飛んでいた。

 その為、深谷と古藤が生きている可能性はまずないと千堂は言い切ったのだ。

 巌本は悩む。 人族に疑念を抱き始めていた事もあって、積極的に助けに行こうといった気持ちになれなかった事と奏多達を危険に晒す事にもなるので合流に関しては消極的だった。


 「だったら魔族を殺しに行きましょう。 優矢が砂漠の方へ向かったのなら今の内に操っている魔族を殺して解放しましょう!」


 さっきまで塞ぎ込んでいたとは思えない程に前向きな態度で奏多は魔族を殺そうと主張する。

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