第34話 蠢く影

 一日目が終わりレント達は食堂にて作戦会議をしていた。


「次の相手ってあの魔術士団でしょ?」

「そうだね。真面目にやらないと勝てなさそうだ」

「ずっと真面目」


 リンシアの言う通りだ。

 レントも1戦目から真面目に戦っている。

 もしかしてミラは適当に戦ってたんだろうか?


「いや、今まで以上にって話だよ。相手はこの星の最強格と言っても過言じゃないからね」

「まぁ、学生に負ける訳には行かないもんなぁ」


 コウ先輩達が敗れたように圧倒的な防御、そして隙を突いて打ち出してくる攻撃、その全てを高水準で繰り出してくる人達だ。

 生半可な力では突破できないだろう。

 何より相手は王道の戦い方をしてくるようだからこちらも王道で戦っていては練度の違いで勝ちなど見えてこない。


「と、なれば邪道……僕の魔術か」

「まぁ、レントの魔術がキーになるのは間違いないだろうね」

「正攻法じゃ難しそう」


 律儀に攻撃と防御を繰り返しても、魔術士団の防御は割れず攻撃は凌げずコウ先輩の二の舞になるのは明らかだろう。

 かといって、レントは奥の手を出すにはまだ早いとしか思えないのも事実。


「一応僕にも奥の手というか必殺技というかその手の魔術がないことも無いんだけどね」

「ほう?」


 ミラがその言葉に反応してきた。

 どうやら見てみたいようでその目はキラキラを超えてギラギラしていた。


「そうだなぁ、連携も必要だと思うしこの後練習でもするか?」

「是非しよう。そうしよう」

「わかった」


 ミラとリンシアはその提案を承諾し、さっさと夕食を済ませることにした。

 残された時間も多くない、時間は貴重なのだ。







「さて、今から使うのが僕の奥の手の1つだよ。連携という意味で見せるのはこの一つだけにしようと思う」

「ん? 全部は見せてくれないのかい?」

「中には虚をてらった方がいいものもあるというか、こちらの考えすら読んできそうなんだよね」


 魔術士団程の強者となると相手の目線や動きで次の手がわかると聞く。

 その上で全て教えてしまうとこちらの行動に合わせた動きをされてしまいかねないのだ。

 それならいっそチームすら知らない魔術もあって然るべきだろう。これがレントの意見だった。


「うーん、確かにそうかも? ならそのひとつを見せてもらおうかな」

「これは実質的に協力が不可避だからね。事前に見せられて良かったよ」


 レントはそう言うとミラ達を安全なところまで下がらせた。

 その上で魔術を展開していく。


『星影魔術・奇々傀儡ききかいらい


 その瞬間にレントの影がうねうねと蠢き始めた。

 見た目はかなりキツいものだが、この魔術はレント1人では何も出来ないのが欠点であった。

 なおもうねうねさせているレントはミラに対して指示した。


「ちょっとミラこっち来てくれない?」

「えっ? 大丈夫? それ」

「大丈夫、大丈夫」


 不安がるのも不思議では無いが術者……仲間が大丈夫って言っているので、本当に大丈夫なんだろうと覚悟を決めるとレントの近くに寄っていく。

 そして有効範囲内に入ったのか蠢く影のうち1本がミラへと襲いかかる。


「うわぁ!?」


 ミラに近づいていった影はミラの影と同化して2人の影が繋がった状態となる。


「……だ、大丈夫なの……か? 身体はなんともない」

「大丈夫って言ったじゃない。本来この魔術は影で繋がった相手を自分の好きなように動かすことの出来る魔術だよ」

「ふぇっ!? なんだその敵が使ってそうな魔術は!」


 それに関しては何も言えない。

 まさにレントもこの魔術を知ってから、少なくとも正義側が使うものでは無いという自覚はある。


「本来はって言ったでしょ? 違う使い方をするんだよ。ほら」


 影で繋がりながらもミラは比較的自由気ままに動けている。

 これでは拘束力としても同士討ちとしても使えないだろう。

 この魔術は術者の魔力を流して相手を操作するもの。しかしレントは魔力を流すということに注目して調整を繰り返した。

 その結果、


「魔力だけを相手に受け渡すことが出来るようになったんだよ。その状態のミラはある程度の影魔術が使えるよ」

「え? 僕の魔術って影と相反する天なんだけど……」


 属性魔術というのは相反属性の魔術を使えないとされているのだ。

 これはその法則を覆すものだ。

 もちろん使えると言っても全て使える訳ではなく、初歩的なものしか扱えない。

 しかも、この影の繋がりを絶たれると瞬時に使えなくなる。


「使い勝手は悪いかもだけど、相反する天魔術の使い手のミラなら相手を驚かせることくらいは出来ると思うんだよね」

「それはまぁ、確かに?」


 ミラは試しに手のひらにレントの魔力を用いて影弾を作り出そうとした。

 これはレントがよく小手調べに使うレベルのものだ。

 いわゆる弾系の魔術である。


「うお!? なんだこれ! ひたすら重いぞ……」

「そうか、天と違って重さもかなり違うのか」

「天弾は速い軽い消費が少ないの三拍子揃った効率のいい魔術だからね。こんな重い魔術は始めてだよ」


 影弾は遅い重いコスパはあまり良くないの三拍子だ。

 使い手の工夫無くして扱える代物とはお世辞には言えなかった。


「影魔術の最下級ってこれじゃないの?」

「影弾はそれなりの位だよ。もっと低いものがある」


 そうレントが言うと人差し指を掲げてみせた。


玉影ぎょくえい


 そう唱えると指の先端に直径1cm程の玉が出来上がった。


「これが影魔術の最下位魔術かな。もちろんこのままだとただ外に魔力を出しただけだから何かしらで加工しないといけないけど」

「ふーん?」


 それを見たミラは同じように指を立てて展開を始める。

 そうするとみるみるうちに指先に魔力が集まっているのがわかる。


「おお? これでも全然思いけど消費は少ないね。ここからどう派生させるの?」

「そこは、ほら。イメージだよ」


 指先に漂わせたままのレントは円錐状にしてみたり、さらに大きくして破裂させたりと様々な形状に変化させていた。

 ミラも真似て円錐状にしようとしていたが、これがどうしてなかなか難しい。

 そもそも管轄外の魔術で普段やらないことをしているのだ。すぐに出来たらレントの立つ瀬がない。


「うーん。なかなか難しいな……ってこれならなんとかかな」

「うん、まぁ及第点じゃないかな? やっぱりそこに辿り着くよね」


 レントにそう言わしめたのは指先に玉を纏わせたもの。

 所謂『貫手』と呼ばれるものだ。

 その指は岩すらも貫くほど固く、その貫手を弾くには重すぎるひと刺し。

 簡単で尚且つそれなりに需要のあるものだった。


「うん、そこから先は努力と反動の無視次第だけどそれが出来たなら問題ないかな」

「反動!? 反動があるのかい?」


 そういえば伝えてなかった気もするが実際に身体で覚えてもらった方がいいだろうとレントは考え直す。


「うん、あるよ。解除するね」


 そう言うとレントは『奇々傀儡』を解除すると、ミラが途端に膝を折って地面に膝を立てていた。


「おぉう……これはまた強烈な……」

「これが反動だよ。解除後は強烈に身体が重たくなるんだ」

「先に行っておいてくれないかな……」


 それはそうだとレントも思っている。

 なのでその言葉は半ば無視して説明を続けていく。


「その反動は時間×魔力量で決まるんだ。今回みたいな魔力量も時間もそこそことはいえその程度の反動は食らうことを覚えておいて」

「えぇ、この程度をやるだけでこの反動か……」

「この程度って言うけどさ影弾ってさっきも言ったようにコスパがあまり良くないんだよ。天魔術の3倍は魔力使ってると思ってもらって構わないよ」


「そんなにか……」と肩を落としたミラは、なにか思いついたのかすぐさま元気を取り戻した。


「てことはかなりでかい魔術を使っても時間さえ少なければ……?」

「あぁ、その場合は本来のその魔術よりコスパが良くなるよ」

「やっぱり! じゃあ教えてくれ! 僕に何が出来る?」


 そうだなぁ、とレントは考えると1ついい案がうかんだ。


「その状態だと厳しいけどこれなら……」


 レントは『奇々傀儡』を再び展開すると、続いて『影の支配シャドー・ステージ』も展開した。

 この状態なら影の支配の権利を多少得ることが出来る。


「この状態ならミラは基本的な影魔術を本来の影魔術よりコスパ良くなるから試してみるといいよ」


 お手本のようにレントは影弾を壁庭に置いてある的に向かって打ち出す。

 ミラも見よう見まねでさっきと同じように影弾を作り出すと窓に的中させた。


「全然重いけどさっき程の倦怠感はないかな」

「やっぱり支配領域にいると大丈夫そうだね」


 どうやら『影の支配』の中においてはミラも影魔術の特性を得られるようだ。

 使い方によっては良くも悪くもなる結果となった。


「うっぐおぉぉ!?」


 解除するとやはりミラは反動が来たようで、今度は先程より重い反動のせいなのか倒れかけてしまった。


「これは確かに奥の手だ。試合中に気軽には使えなさそうだね」

「試合が終わるまで解除しなければいい話だけどね」


 反動は解除後に来るのでずっと展開しっぱなしならミラに影響はないだろう。

 ミラに無くてもレントにはあるが。


 とはいえ、これが奥の手のひとつだった。

 これで少しでも手を止めてくれれば儲けもんだな、とレントは思うばかりである。


「終わった?」


 リンシアが近寄ってきた。

 そういえばリンシアがいたんだった。

 でも彼女に手伝ってもらうものは無いのだ。そう伝えるとあからさまに残念がっていたが諦めて欲しい。



 そうして最後のリハーサルとも言うべき練習を行った3人は、明日のために少し早めに就寝することにした。

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