第33話 選抜大会1日目終了
レントはグレイと会話の後、大会会場へと戻っていた。
こうなっては大会の事等二の次にせざるを得ないかもしれない。
その事を2人に伝えるのはとても気が重かった。
「うーん、大会中にかち合わなければいいんだけどなぁ」
せめて会場にいる時以外では来ないで欲しい。
とりあえず、この件のことはレイスターに伝えるべきなのでそのままギルドマスターに会いに行く事にした。
コンコンッ
「ん? 誰だ」
中から聞こえたレイスターの声。
どうやら今はこの運営控え室にいたようだ。
「レントです」
「ん? おぉ、レントか。みんな探してたぞ、入るといい」
そう言われて扉を開けると、簡素なテーブルと椅子が並べられただけの部屋が広がっていた。
そこにレイスターは座っており、指で座れと指示していた。
「で? 首尾はどうだ?」
「えぇ、目的は分かりましたよ」
そう言うとレントはさっき会ったことを事細かに伝えた。
もちろんアビスの事はリンシアと吹聴しないことを約束されてるのでそれは黙っているが。
「なるほどなぁ、大会と言うよりはお前自身に用があったんだな。その理由は分からなかったのか?」
「……はい。どうにも慎重な仲間がいるようで話す言葉を常に選んでいるようでした」
「まぁ、仕方ねぇか。場所が場所だしな」
あんなボロい建物では、いつどこで誰が聞いているかわかったものじゃないからか詳しくは話していなかった、という設定にしておいた。
肝心なのはガゼルがレントを狙っている事。それが分かれば十分だろう。
あとは……
「あ、それとどうやら僕自身というより僕の力に対して言っているようでした」
「お前の力……か。詳しくは知らねぇがお前の影魔術は普通のそれとは違うからな。目をつけられたんだろう」
「裏ギルド」は依頼があれば法で裁けない者達を抹殺、もとい人殺しですら平気で行う奴らだ。
レントの誘拐依頼が来ててもおかしくは無いようだった。
「……あ、そうそう。これ見せときます」
「ん? んだそりゃ」
そう言ってレントはポケットから1つのカードを取りだして机の上に置いた。
それを見たレイスターは目を見開いて驚いている。
「おいおい、あの"絶界のグレイ"かよ。はぁ、わかった。詳しいことは後日伝える。今日のところは大会も終わったから仲間んところに行くといい」
「分かりました」
レントは部屋を出るために立ち上がって、最後にレイスターに向かって一つだけ言っておくことにした。
「今回の事、出来ればそちらは手を出さない出もらいたいんです」
「あぁ? そりゃどういう事だ……って、おい!」
それだけ残してレントは速攻部屋を出てミラ達の下へと向かった。
どこにいるかは分からないがとりあえず心当たりのある場所から片っ端から探してみよう。
「お願いだからガゼルは出てこないでよ……?」
レントがその心配をしながら周りを見渡しながら探し始めた。
1人残されたレイスターは、最後に返事も聞かずに出て行ったレントのことについて考えていた。
「……ありゃ理由知ってんな。なにか言えない事でもあるんだろうが、手を出すな……ねぇ?」
レイスターは机に置かれたままのグレイのギルドカードを手に取った。
"絶界のグレイ"
それはかつて「表ギルド」にて過去最大の戦いをした者の名だ。
それ以降も彼を超えたものは誰一人としていない。
彼は影魔術と『星痕』を使い、その力の特性を使って結界系の魔術を得意としていた。
結界で守りを固めるのは当然のこと、それを応用して攻撃に転換したりかなり頭のキレる男だった記憶がある。
しかし、いつからか行方不明になっており「表ギルド」としても昔から探している者でもあった。
「奴が「裏ギルド」にねぇ、世も末だな。何かあったから入ってるんだろうが、今回レントに接触したのはその為なのか?」
金色のギルドカードはIVクラスの証、しかしクラス評価は最大Ⅴの黒色になる。
「グレイの『星痕』はミラの持つものと同じで属性が違うだけだ……奴がⅤクラスになれないのは己のせいだと言うのに……」
そんなことを嘆いているレイスターは、今日も綺麗に雲もなく広がる晴天を仰いで感傷に浸っていた。
時を同じくしてレントはようやくミラとリンシアに会うことが出来ていた。
「あっ! レント! どこいってたんだ? もう終わっちゃったぞ」
「ごめんごめん。ちょっと野暮用がな」
どうやら先輩達の試合は終わったしまったようだ。
あんなことがあったので仕方ないとは思うが見語ったことも事実だ。
「で、勝ったのはどっち?」
「魔術士団」
「リブラスケイルだね。先輩達も頑張ったんだけどね……」
先輩には悪いけどこの星きっての精鋭がただの学生に負けるはずがないのだ。
これで負けてたらと思うと彼らが不憫で仕方がない。
「まぁ、仕方ないよ。相手が相手だ」
話を聞くところによると善戦はしたらしい。精鋭相手に防戦になるのは避けるべきだと判断したコウ先輩は、全員でひたすら攻撃を繰り返したようだ。
しかし、流石は魔術士団だ。
この攻撃を受けてもなお壊れない結界で守りを貫いた結果、攻撃が尽きてしまった先輩達を降参においやったのだ。
力の差が見えてしまった戦いではあったが、先輩達にはいい薬とも言えるだろう。
このまま訓練に励んで欲しいところだ。
(次は誰だろう?組み合わせ的に「リブラスケイル」かもしれないけど……)
ミラ達も今から次の試合組み合わせを見に行く所だったようで一緒に見に行くことにした。
組み合わせが張り出されるところは正面玄関の壁だ。
レント達がそこに着くと既に人が群がっており、基本的にレント達より背の高い人が多いせいかなかなか見えない。
仕方ないので少し空くまで待っている事にした。
「相手が魔術士団だったら辛いなぁ」
「いやいや、残りは巨人族と龍神族だよ?」
「選べるなら私は魔術士団を選ぶ」
「え? 本当に?」
龍神族はともかく魔術士団よりは巨人族のほうがまだマシに思えるレントはその考えが理解できなかった。
段々と見ている人が離れていったのかいい具合に空いてきたので改めてレント達は組み合わせ表を覗き見る。
『準々決勝
1回戦 ギガントvsドラグニティカ
2回戦 リブラスケイルvsシャドウ』
やはりそのままの組み合わせなようだ。
相手は魔術士団という事になるが、レントは戦いぶりを見ていない。ミラとリンシアに聞くのもいいが、実際に戦った人の意見を聞いたいところだ。
「ふぅん、やっぱり魔術士団だね」
「1番マシ」
「……ちょっと先輩探してくるよ。2人は帰っててもらっていいからね」
「わかった」
リンシアが返事をするとレントはまだいるかもしれないコウ先輩を探しに走っていった。
もしかしたらもう居ないかもしれないが、それならそれで仕方ないだろう。
とりあえず選手控え室に向かうことにした。
「すみませーん、コウ先輩はいますか?」
扉を開けて開口一番そう口を出したレントは中に女の人しかいないことに気づいた。
彼女は確かコウ先輩のチームの1人だったはずだ。
名前はえーと……
「確か……リディア……さん? でしたっけ?」
「えぇ、そうよ。私に何か用?」
紫色の髪の毛にレントより高い身長スタイルもいいのだろう、大人びている風貌を前に少しレントは萎縮してしまった。
良くも悪くもこのタイプの女性は今まで会ったことがない。
聞きたいことがどこかへ一瞬にして飛んでってしまった。
「あ……えぇと。あっ! そうそう。コウ先輩どこにいるか知ってますか?」
「あら、コウのお友達かしら? やだわあの子……多分屋上よ」
この人が学生なのか甚だ怪しいところだ。
誰かの母親と言っても誰も疑わないだろう。
「分かりました。ありがとうございます」
「いいのよ。そうそう、コウと仲良くしてあげてね?」
「えっ、あっ、はい」
いや、流石に先輩に言われると困惑するのは許してくれと言いたい。
このセリフを友達の母親ならともかく、先輩の知り合いに言われることなど無いはずなのだから。
「それじゃ!」
この空間から出たくなったレントは、半ば強引に部屋から出ると後ろから追ってきてないかすごく不安になる。
そのくらいには凄みで溢れていたのだ。
「あの人は敵に回しちゃダメだね……っとコウ先輩は屋上、だな」
そう言うとレントは上に続く階段を上り、屋上へとたどり着いた。
そこにはコウ先輩が1人ただずんでおり、その手に魔力を纏わせていた。
「こんちには、先輩」
「ん? おお! レントか! 悪ぃな……負けちまった」
「いやいや、仕方ないですよ。相手だって学生に負けてたら話にならないんですから」
「そうは言っても……」とコウ先輩はもっと違う戦い方があったのでは無いかと後悔しているようだ。
この気持ちはレントにはよく分からないが、人には譲れないものがあって先輩の場合がまさにこれなんだろう。
「とにかく、後ろを振り返るのはいいですけどそれを糧に前を見ましょ。後悔ばかりだと前に進むどころか後退してしまいます」
「……それもそうだな。わりぃ、俺とした事がよ」
「いいんですよ、人には人それぞれの気持ちがありますし。僕にもあるんで」
「へぇ、所で俺に何か用か?」
危うく忘れるところだったレントはなんとかその声で思い出す。
コウ先輩にどういう戦い方してどういう戦い方をされたのか聞いてみた。
「ん? お前さん見てなかったのか。そうだな、簡単に言えば"ザ・王道"って感じだ。守る時はガッチリ固めて、攻め時はきちっと仕留める。そのメリハリが綺麗に整っていた。しかも相手が学生だからと油断もなく来やがるから付け入る隙すらねぇ」
「やっぱりこの人達が1番戦いたくないなぁ」
「やっぱり?」
「えぇと、仲間と組み合わせ表を見る前に誰が相手だろうって予想してたんですけど……僕は巨人族かなぁ、って言ったら魔術士団が一番マシって言ってたので」
今コウ先輩から聞いた話で余計にそう思えて仕方ない。リンシアはこれを知らないのだろうか?
「なんだ、そういうことなら魔術士団が1番マシだな。なんてったって自分たちの知らない魔術を使ってくる事が少ねぇんだから」
「知らない魔術……」
「そうだ。どんなに相手が強くても魔術が分かってればそれまでだ。相手は弱いけど何か得体の知れない方法があるかもしれない、その方が幾分も厄介だ」
なるほど、確かに人族は人族として使える魔術には限りがある。レントとてその手の勉強は腐るほどしてきているつもりだ。
確定ではないにせよ予想自体はできるはずだ。
対して巨人族や龍神族の『神術』。
あれは魔術と大差ないらしいがごくわずかに違いがあると聞く。
残念ながらレントにはその知識は無いので予想すらつかないのだ。
「そう考えると確かにマシなのかも……」
「だろ? とはいえマシなだけできついものはきついがな! はっはっはっ」
「笑い事ですか……」
「おう! 話はこれだけか? なら俺はリディアんとこに戻るぜ」
あの人の所か……どうにも苦手だな、あのタイプの人は。
その顔をみてコウ先輩はさらに笑っていたが、満足したようでさっさと帰ってしまった。
1人残されたレントは既に日が沈みかけて夕暮れに差し掛かる空を見上げて、あれ以降全く姿を表さない奴に向かってポツリと呟いた。
「アビス……お前はなんなんだ」
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