第31話 爆炎vs龍炎
ある意味レントが1番気にしていた対戦カード、それが「アポカリプス」vs「ドラグニティカ」。
あの予選で爆発騒ぎを出して傭兵ギルドでも怪しげな情報を手に入れた者のいるチームだ。
それの相手をする龍神族だ。
彼らも魔術と呼ばれるものではなく巨人族同様『神術』を使う者達らしい。
巨人族が地の神術を使うのに対して、彼ら龍神族は天の神術を使うとの事で天魔術と何が違うのか気になっていたのだ。
龍神族は代々とある山の頂上にある集落で暮らしているらしく、滅多な事がない限り他との干渉を好まないと聞くが今大会には参加している。
彼らは基本的に自分達こそが強者と信じいて、他の者を自分より弱者と思っている。
そのためか自分たちの認める強者と会うことに喜びを感じ、自分たちより弱い者は庇護するものという認識だそうだ。
「良くも悪くもバトルジャンキーなのかもしれないな……」
レントがそう漏らすとミラが反応してきた。
「まぁまぁ、龍神族と敵対することはないだけマシじゃないか? 強ければ強いだけ味方としての側面が大きくなり、弱いならそれはそれで守るもののひとつという認識になるんだから」
「まぁ、それもそうか」
ミラの言う通り、どっちに転ぼうが敵対することはほとんどない種族なのだ。
その者が善の者だろうと悪の者だろうと強さこそが彼らの指針であり、あえて敵対しない限りあちらから敵対してくることはない。
「とはいえ、あのアポカリプス? だっけか。どうにもきな臭いし……」
「……臭い」
ミラのセリフにリンシアが適当に合わせている。
仲がいいのはいい事だが思考放棄があるのが玉に瑕だな。
と話している間に開始の準備が整ったようで、舞台の上には2チームが並んでいた。
方やかの『狂気の爆弾』なんて言われている者、方や強さ事が絶対と譲らない龍神族。
どうなったとしてもおかしくない対戦カードだ。
「イーヒヒ、爺! てめぇ最期の晩餐は済ませたかよ!?」
「ふんっ、若造がよく鳴きおる。儂に強さを見してみぃ」
2人の間にはバチバチと火花が走っているようで、どうにもあのおじいさんは気が短いようだ。
そうしてお互いの顔合わせも済んだことでいよいよ対戦が始まる。
「ゴホン。この対戦では怪我は死ななければ全て治してやる。全力でやってもらって構わんが既に勝ち負けが決まってるのに関わらず追い打ちをすることだけは認められない」
「ヒヒ……無事に済むといいなぁ!?」
「わかっとるわい」
レイスターは2人の合意を確認すると開始の宣言を始めようとする。
「よし、それではこれより午後の部第3回戦を開始する………始め!」
その声があがった瞬間、攻撃が両者ともに始まると思っていたレントは身構えていたものだがなかなか始まらない。
なにやらガゼルとおじいさんは話しているようだ。
「龍神族の長がこんなとこで何してやがるんだ? ええ?」
「お前さんには関係がなかろう……いや、そんなこともないかのぉ?」
その一言でガゼルは一瞬硬直した。
その龍神族の目が冗談を言ってるようには感じられなかったのだ。
「は、はっ。俺たちの計画を潰されてたまるかよ!」
そう言いながらガゼルは手のひらに火球を出現させて龍神族へと放り投げた。
その魔術がこの戦いの実際の開戦の狼煙となったのだ。
「オラァ!! 死ね死ね死ねしねェ!!!」
その両手に火魔術を大量に展開させるガゼルは次々に放出して、それが当たった場所が爆発している。
余談にはなるが、ああも連発して魔術を行使する事は並大抵のことでは無い。
いくら制御に意識を割かなくていい弾系の魔術とはいえ何個も何個も展開すれば話は別である。
それをいとも容易く行うガゼルは正真正銘強者と言っても問題ないだろう。正直レントは正攻法で勝てるとは思えない。
「何をするかと思えばただの無駄打ちじゃな。ほれ、エギル」
「はっ」
エギルと呼ばれた龍神族の男性はおじいさんの声に従い魔術を展開する。
『
その魔術はあまりにも大きく、鋭く、そしてなによりも威力が桁違いだった。
その放たれた魔術は一目散に「アポカリプス」へと向かい、彼の放つ爆破すらも無意味とばかりに直進する。
「ヒャハハッ、流石は龍神族だぜ! こいつはヤベェな」
そう言うとガゼル達は防御をせずに回避に専念した。
なんとか避けられたが、その魔術の当たった壁を見ると威力がおかしいのが目の当たりになる。
「おいおいおい、観客に対しての防御結界を壊した上に会場の壁にヒビを入れるとかどんなイカれた魔力してやがんだ」
「ほっほっほっ、エギルは我が集落で儂に次ぐ戦士じゃよ。舐めてかかったら痛い目を見るでの」
どうやら龍神族のおじいさんは機嫌が良くなったようだ。
ガゼルの手際を見てそれなりに感心したのだろう。
「そんじゃ、こっちも少し本気を出させてもらうぜ」
そう言うとその身に炎を纏わせていくガゼル。それと同じく残りの2人はガゼルに向かって魔術を使っている。
『
『
2人の魔術は炎となり、ガゼルへと向かっていく。
その炎を浴びたガゼルは更に身体を燃やしていく。
「行くぜ行くぜ行くぜェ!! 『
その身は爆破のために、その身は繰り返し死に滅び、その身は全てを壊し、そしてその身は生まれ変わり、再び破滅をもたらす。
爆破の化身と化したガゼルは半ばやけくそとも思える突進を繰り返す。
龍神族もこれには参ったようで、突進するガゼルは当たれば爆発し避けても誘爆するかなり危険な身となっていた。
しかも爆破一つ一つにガゼルの魔力全てを注いだ結果、その度にガゼルは死ぬのだが2人の魔術のおかげで死ぬ度に復活を繰り返すという地獄のような魔術だった。
「やれやれ、なんとも厄介な魔術じゃ……」
「長……あれを使います」
「まぁ仕方ないじゃろ。やけくそ気味な奴はおいたが過ぎた、これも薬じゃろ」
ガゼルは尚も突進を繰り返し辺りを爆発して繰り返している。
しかも燃えている中彼自身もその手から魔術を放っており、周囲に爆発する弾を飛ばしていた。
「そんな技を使うんだ。死んだとしても文句は言うでないぞ」
「それでは行きますよ、長」
長と呼ばれるおじいさんが頷くともう1人の龍神族が魔術の展開を始めた。
その魔術は珍しく詠唱をするもので時間がかかるようだった。
「さて、奴の詠唱が終わるまで儂が相手してやろうかね」
『炎魔術・
おじいさんが両手から青い炎を繰り出してガゼルへと当てていく。
当たったところは青白く光り、その身の炎が弱まったように見えた。
「爺……何しやがった」
「なに、ちょっとした時間稼ぎじゃよ」
そうやって何発か繰り返していくと炎も大分弱まり、次第には炎が剥がれてガゼルが倒れた。
しかし、その後ガゼルを大きな炎が包みその身を焼き尽くし新たに復活を遂げた。
これが『転生焔魔術』と名を冠する所以だった。いかなる死も生の根源なる炎を持って生まれ変わるのだ。
その魔術を行使している時は死ぬことは負けではなく、相手を消し炭にするまで燃やし尽くすことだろう。
そんなやり取りを何回か繰り返すと、どうやら詠唱が済んだようで何時でも行使が可能になった。
「よし、マイン。やるといい」
「はっ!」
長からマインと呼ばれた彼女は最後の詠唱を開始した。
『龍の
突如マインが炎に包まれ会場も「お前も燃えるのか!?」とざわつきはしたが、その瞬間その炎は空へと昇るようにマインから離れていく。
そしてその炎は「アポカリプス」の3人に向かって落ちていく。
その名の通り"隕石"のように。
その炎はガゼルの纏っている炎とはまた違ったもので、纏っていた炎すら灼き尽くしている。
しかし、ガゼルは死んでも死なない状態に変わりは無い。
倒されては生まれ変わり、生まれ変わっては倒される。
それは全て2人の助力あっての事だった。
遂にはその2人は灼炎落星によって倒れてしまった。
「ちっ、これじゃやれねぇか……」
そう言って魔術を解除するが、龍神族の放った魔術は未だに燃えている。
「おい! 爺! この炎を消しやがれ!」
「お前さんは何か勘違いしとるようだが、ここは勝負の場だぞ? 相手が倒れるまで終わらぬに決まっておろうが」
「んだとぉ!?」
流石のガゼルもこの炎には参ったようで何とか消せないものか転がり回っている。
「その炎はさっき言った通りお前さんが落ちるまで燃え続けるぞ」
「長……」
「おっと、そうそう。ギブアップなら解除してやらんでもないがの」
その言葉を聞いて「本当か!?」とガゼルは問う。
「当たり前じゃ。ルールで決まっておろうに」
「わかった! わかったから! 俺たちの負けを認める!」
「ほっほっ、それでいいんじゃよ」
目でマインに支持すると頷いたマインは魔術を解除した。彼女も彼女ですごい汗の量だ。
これを維持するだけでもかなりの負担なんだろう。
「終わったか? ほうほう、ガゼルがねぇ……よし、勝者は「ドラグニティカ」! 次の試合はインターバル後だ」
そう言って龍神族は舞台から降りていくが、ガゼル達は倒れたまま息が浅くなっている。
「おい、救護班! こいつら運んでいけ!」
「分かりました!」
担架で運ばれていくガゼル達を横目にレントが龍神族へと視線を向けると、何故かおじいさんと目が合ったような気がした。
気がしただけかもしれない……。
「まぁ、たまたまかもね!」
そう言うとレントはガゼルに接触するために救護室へ向かうことにした。
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