第30話 三重魔術-トリプライトマジック-

 20分の休憩時間をチームとの作戦会議として使うレント達。

 妖精族の戦い方というものをあまりよく分かってないレントはミラ達の意見を参考にするしか無かった。


「短期決戦でいくかい?」

「それはレントにはキツそう」

「まぁ、僕の魔術基本的に火力ないからね……」

「でも妖精族が相手では長期戦はなかなか難しいよ?」

「え? そうなの?」

「妖精族は決まって魔力量が高いからね。普通の人が彼らと長期戦をすると持久力で負けるんだよ」


 妖精族とはその小さき身の代償にかなり高い魔力適正を持っている。

 分かりやすく言うならば人族が属性魔術を扱うには『星痕』の力を借りて1種、ないしは2種の魔術を扱うのが限界とされている。

 それに対して妖精族は魔術の相性関係なく本人の意思により色んな魔術を扱えるのだ。

 火魔術を使ったと思ったら風魔術で火力を上げたり水魔術をつかって爆発をさせてみたりする他、雷魔術でその水滴に蓄電させたりもするらしい。

 妖精族とはレントの思っていたより随分と馬鹿げた種族のようだ。


「おいおい、それじゃ攻撃もやばいんじゃ?」

「むしろ妖精族の魔術の本質は攻撃特化だよ」

「魔術攻撃特化な上持久戦も得意」

「ヤバすぎる……」


 実際、魔術において妖精族に勝るものは少ないとされている。人族の中でも魔術にかなり適性を示したものもいるにはいるが、それでもやはり人族の範疇は抜け出せていない。


「なら少し手の内見せてしまおう」


 レントはいきなり秘密兵器を使うと言い出した。

 そんな序盤から使うものでは無いのはレント自身も分かってはいるのだが、そうも言っていられる相手ではないようなのだ。


「うーん、致し方ないか……。あれさえ決まれば魔術に特化しすぎた妖精族は勝つ術を失うだろうし」

「そのためにこれも用意した」


 リンシアが取り出したのはひとつの魔導具。

 "蓄魔の首飾り"と呼ばれているその魔導具は、予め魔力を貯めておける魔力バッテリーとしての役割を持つ。


「これを今日のために満タンまで貯めてきた」

「それをからになるまで使われないことを祈るよ……いや、ほんとに」

「おっと、それよりそろそろ時間のようだよ。いこうか」


 ミラのおかげで集合時間に気づけたレントは急いで舞台上に上がっていく。

 そこには既にプラティ達妖精族が待っていた。


「妖精族の力を見せて差し上げますよ」

「こちらこそ、人族が足掻けるところを見せてあげるよ」


 レントとプラティは真正面から睨み合い、いい戦いにしようと握手を交わした。

 その行為に観客が沸き、その声は大地を震わせてるのかと錯覚するくらいだ。

「これが地魔術……」とミラが馬鹿なことを言っていると開始宣言のためにレイスターが舞台上へと上がってきた。


「結構結構。そういうの俺は好きだぜ? もちろん観客もな」


 なんの事かと思いレイスターが指した方向に目を向けると、ずっと握手され続けているプラティが震えていた。


「まぁ、なんというか……始めるぞ? いいな?」


 レイスターが確認の意を込めて両チームを見る。

 そしてひとつ頷くと同時に、開始の声が高らかに宣言された。


「最初からクライマックスで行きますよ! レントさん!」

「おう!」


 プラティ、もとい妖精族の3人は同時に魔術展開を始めた。

 しかし、それをただただ見ているだけのレント達では無い。

 その間にもこちらも展開を始めている。


 どちらが早いか、早い方に流れが傾く事が大半なので大事な局面だ。

 そうするといち早く魔術を行使する者がいた。


極火雷光棘イグニッション・レイ


 その魔力は使用者の手を包み込み、やがてひとつの棘と化す。そしてそれは光の速さで敵を穿つ槍となる。

 火と雷、そして光魔術の『三重魔術トリプライトマジック』だ。火と雷ならまだ分かる、光属性をさらにそこに織り交ぜられる者など人族にいるだろうか? 否、居ないだろう。

 光魔術とは天魔術の『二重魔術ツインマジック』だ。穹を味方につけていた天魔術は光をも味方につけたのだ。

 今までは速いといっても光よりは遅く、その癖に光の弱点になるものは例外なく弱点だったのだ。そう、例えば密室空間……とか。


 実質4属性みたいな魔術がレント達を襲おうとしていた。



 ────はずだった。



 いつだってレントは用意周到なのだ。それは今回が特別だったのでは無い。

 前回予選で見破られかけた分身、今回も見破られそうでかなり焦ったものだ。

 しかし、前と同じではやはり見破られてしまうだろう。

 なので分身では無い。開始直後に舞台全てに魔術を即展開できるように準備していたのだ。


 それが功を奏したか瞬間的に『影の支配シャドー・ステージ』の展開が可能になった。

 それによりレントは万全ともいえる状況でさらなる魔術を展開していた。



 ──パッ


「!?」


 観客が一斉に今、目の前で起こった出来事に驚いていた。プラティ達が放った魔術は途中で最初から無かったかのように消滅したのだ。

 妖精族達は放った体勢のまま静止して何が起きたか困惑している。

 そして、プラティがやっとの事で動き出した。


「な、何が起きたんです……か? 消えた? えっ?」


 その顔は説明を求めているようでその目はレントをずっと捉えていた。

 しかし、レントもそう易々と手の内を明かすことは無い。これからまだまだ戦うのだ、最初に説明して対策されては目も当てられない。


「…………教えてくれなさそうですね」

「そりゃそうさ、僕達の相手は君たちだけじゃないからね!」


 そう言いながらレントは魔術の展開を再開した。その隙にミラとリンシアは妖精族の元へ近づき、魔力を纏った拳や脚で攻撃をしだした。


「さて、まだまだ始まったばかりなんだ、もっと踊ろうか」



凶奏きょうそう影舞踏アラベスク


 レントは影魔術を知り、アビスとの邂逅により新たな境地へとたどり着いていた。

 それは『二重魔術』だけではなく、単純に影魔術としてのレベルもアップしていたのだ。


「うわぁ!?」

「ちょっ、なにこれなにこれなにこれ!!」

「やめるです! なんなのです!? これは」



 レントの影魔術『凶奏の影舞踏』、それは対象の影を実体化させてその本人と踊る魔術。

 そう、戦いという名の舞踏だ。


 ただでさえミラやリンシアの対応だけでも精一杯なのに、そこにさらに自分の影が襲いかかってくる状況だ。

 この魔術の制御で精一杯のレントが参加出来くても5vs3の様相となる。








「あら? なんで妖精族達は魔術を使わないのかしら?」


 そう疑問を持つのはアガーテだった。

 彼女はレント達の応援で観客として見物していた。

 周りから見ればレントは魔術を使ってるし、ミラやリンシアも魔力を纏っての近接戦闘ではあるが魔力は行使している。


 しかし、妖精族は最初の大技が消えてからは魔術を使っていなかった。

 それをアガーテは疑問に思い、ふと口に出てしまったのだ。

 それに関しては他の観客も同じ意見のようで、その声が聞こえた者も「なぜだ?」と首を傾げてばかりだ。


 妖精族は攻撃魔術に特化している代わりに、物理攻撃や物理防御が軒並み低いのだ。このような近接戦闘をしていては、いずれ持たなくなるのは自明の理だった。

 しかし、観客達から見てその理由の判別は難しくただ一方的に妖精族達が攻撃されているようにしか見えない。



「あれは多分対抗魔術を使ってるな」

「え? 対抗魔術?」


 アガーテがその声がした方向に顔を向けると魔術学校の校長先生がいた。

 なんでこんな所にいるのかは分からないが仕事をほっぽって来ているのだろうか?

 アガーテは「はぁ……」とため息を漏らすと話を続ける校長に耳を傾けた。


「あれは影魔術だからこそできる芸当でな、指定領域内のありとあらゆる魔術の行使に負荷をかけるのだ。現状から察するに影魔術以外の放出するタイプの魔術は無効化されるのかもしれん」

「無効化……」


 アガーテは絶句する。

 100%銃で攻撃をしている彼女では、そんなデタラメなことされたら為す術がなくなってしまう。


 しかし、それならばこの状況に納得はいく。ミラとリンシアは魔力を纏って近接戦闘してるのは放出してない魔力なら無効化されないから。

 そしてレントは影魔術だし、そもそも本人なのでその制限を受けないのかもしれない。


「魔術に長けた妖精族に対してはかなり効くだろうな。あいつらは近接戦闘や物理攻撃では人族の子供にすら劣る」

「なら、決着は決まったようなものですわね」


 しかし、校長のその目はまだそう決まった訳では無いとでも言いたげだった。


「……妖精族がこのままならな」


 何かまだあるとばかりのセリフではあるが、アガーテは試合に集中すべく舞台に目を戻した。



 妖精族は健闘していた。

 苦手な近接戦闘とはいえ彼らの練度はそれなりに高かったのだろう。

 学生の、魔術を専門としている学生の攻撃も時間とともに慣れて、躱してみせることが多くなった。


「はぁ……はぁ……」

「魔術が……使えない……」

「何がどうなってやがるです」


 レントは休む隙も与えずにひたすらに影を操る。

 それにひたすら対応させられる妖精族達は、次第に疲れが目に見えて分かるようになってくる。


 とてもじゃないが妖精族が行う戦闘としては、あまりにも不利を叩きつけられていたがそれでも何とか対応は出来てきた。

 それは疲れが出る前までの話ではあったが……。

 そうして時間が経つこと25分。


 試合の制限時間の鐘が鳴った。

 1試合30分のルールとなっていて、時間になった場合はレイスターの判断で勝敗が決定される。

 プラティ達も最後まで何とか耐えてはいたが、自分達の苦手な戦いでよくここまで耐えた。だが、時間は無情である。


「はい、そこまで! 終わりだ終わり!!」


 その声が聞こえてお互いは攻撃の手を止めた。

 レントは『凶奏の影舞踏』等の魔術を全て解除してその場に突っ伏した。

 ただでさえ片方ひとつだけの維持でもきついのだ、それをふたつ同時に制御するのは至難の業だった。


(今後の課題だな……これは)


 レントはなんとかミラ達の助けもあってか立ち上がると勝敗の決定を待った。


 レイスターは両チームの損傷や優劣、あのまま続けてたらどうなっていたか等を考慮して判断する。


「……うむ、この試合の勝者を決定した。勝者は…………チーム『シャドウ』!」


「う、うおおぉぉぉぉぉぉ!!!」


 観客席から精一杯の歓声が広がり、レント達も何とか進めたと安堵した。

 そして、両チームは舞台をおりてこれから昼休憩の時間になる。

 2時間設けられているのでゆっくり昼食を食べようとレントは会場を出ようとするととある人物に声をかけられた。


「レントさん」

「ん? あぁ、プラティか」


 そう、先程の相手プラティであった。

 個人的にやはり気になったことがあったのだろう。

 敗北を次の勝利のために生かすのはいい戦士の証だ。


「あれ、何をしたんですか?」

「そうだな……少し場を変えようか。昼食でも食べながら、さ」


 生憎周りには参加者がそれなりにいてここで話すには少し人が多すぎた。


「分かりました」


 プラティはそれを了承するとレントと2人でいつぞやに行ったビュッフェの店へと向かう。






 ──昼食中にて



「あぁ、そういう事でしたか」

「『反魔術領域場アンチマジックフィールド』……ありとあらゆる魔術を無効化する魔術だよ。これは領域支配を得意とする影魔術特有のものなんだ。妖精族なら使えそうじゃない?」

「妖精族がなんでも使えるってのはただの噂ですよ?レントさん」


 どうやら話では火水雷風の基本属性ならなんでも使えるという話であっているらしく、影魔術や天魔術は使える者使えない者がいるらしい。


「へぇ、そうなんだ」

「しかし、その魔術僕達の天敵ですね……あぁも手の打ちようがないとはおもいませをでした」

「僕が思ったよりも効果があって何よりだ」


(実はあれって味方諸共魔術を使えなくさせてしまうから使い所が難しいんだけれど、リンシアが用意した蓄魔の首飾りがあって良かった。あれの魔力を使えば何とか纏って戦う位は出来そうだ)


 そんな事を思いながら昼食を進める。

 そこからはただの学生とその友人としてとりとめのない会話をして過ごした。

 昼からは後半戦だ、相手となるチームの観察をしなければならない。




 そうして昼食を終えると2人は会場へと戻るのであった。

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