第22話 アビスの思惑とレントの目覚め

 レントが目を覚まさない中、星間魔術大会に出場する選抜大会が開催されようとしていた。


「レント、早く目を覚ましなよ」

「受付はまだ?」


 いよいよ、明日ということもあり、エルディミアではお祭り騒ぎとなっている。

 どこもかしこも屋台で溢れ、かきいれ時とばかりに客で賑わっている。

 受付も例年通りこの日から行われており、参加する人は参加記入用紙と共に向かわなくてはならない。


「ティル先生に許可貰ったのにこれじゃあ……」


 ミラは早くレントが起きないと受付に間に合わなくなってしまうことを危惧していた。

 学生が参加するには担任教師を経由して校長先生と担任に許可を貰わなくてはならない。

 そのために以前より提出していたのだ。


「レント」


 リンシアが何度も揺さぶる。

 しかし、レントはなかなか起きないでいた。



 ──────────────────


 一方、レントの心の中では……


『レントよ、馴染むまでには幾ばくかの時間がまだかかるようだな』

(早くしないと……間に合わなくなる……)


 レントはレントで早く済ませようと躍起になっていた。

 アビスが与えた力、それは天魔の神としての力の1片である『天球地痕』を引き出すための力だ。


(これでは我が思惑も遅れざるを得ないか……)


 アビスは自分の思惑をレントに既に語っていた。

 それは、再び訪れる『星魔大戦』に間に合うためレントに力を貸すものだった。

 アビスの話ではあと10数年もすればまた起こると言う。

 レントに力を貸すことで、奇しくもリダンと同じ道を歩ませようとしていたのだ。


 レントも初めは拒絶を表していた。しかし、レントにしか出来ない事に加え、友人となった者を失いかねないということを痛いほど味わう事になった……。




 ────『これはあのリダンの戦いとその時の街の様子だ』


 アビスはレントに、あの時何があってリダンがあの結末を迎えたのか実際に見せていた。


 大勢の人に迎えられながら王城へと出向いたリダンは、最初こそ自分の身に余ると拒否していたのだ。

 しかし、リダン以上の強者がいるかと言われたら、それは否である。

 あの時、リダンより強い者は誰一人としておらず、横に並べる者さえも右手に収まるくらいだ。


 リダンがやらなければ国を失い星を失い、愛しき人さえも失う事になる。

 それは間違いない決定的なものであった。

 それほどまでにこの星魔大戦とはとても大きく、とてつもない被害が見込まれるものだったのだ。


 否応なしに戦場へと向かうことになったリダンは、その力をもって魔を退けることになる。


 勝手なもので、レントはその道を進むことになる。

 しかし、レントはリダンとは違った。

 確かに同じ道を歩むことになるだろう。

 リダンはその身を犠牲にしてでも民を守った。

 レントは同じ過ちは繰り返すまいと、その身の犠牲なく決着を迎えようと決意をもってその力を受け入れたのだ。


『まったく、夢物語もいいところだ。その身の犠牲なくして物事を終わらそうなど……』


 アビスから見てもそれはあまりにも遠く、そしてそんな未来は起こりえないとさえ思う。

 しかし、そんなレントを見て不思議とそんなことが出来るのかもしれないとも思えてくる。


『さて、周りの友人がうるさいな……。さっさとおわらせよ』

(分かってるよ! 分かってるんだ!)


 レントはその身に受けた力を何とか制御しようとしている。

 そのせいでアビスの精神体には無数の傷が刻み込まれていた。


『我が体に傷をつけられるの等いつぶりか……。あのリダンでさえかすり傷で精一杯だったというのに』

(父が……)


 どんなに頑張っても体に馴染まない。

 抑え込もうとしては弾かれ、逆に体に流してみようとすれば暴走し、その反動でレントはボロボロになっていた。


『その『星痕』は飾りか? それを使えば難なく馴染むだろうに』

(はっ……!? そうか……忘れていたよ)



 ──「僕の『星痕』が少し違うことに」


 その言葉を受けたレントは、『星痕』を解放させた。


 それと同時に体にも反応が起きる。


「!?『星痕』が解放されている」

「何が起きてる」


 ミラとリンシアがレントを眺めている時に、レントの目が輝き出したのだ。


「暴走……? している?」


『星痕解放・│星月界コスモス・スター


 何かを察したのかミラはレントの周囲にバリアを張った。

 暴走しているようにもみえるその様は、その実レントの力の調和となるものだった。


 次第に『星痕』の輝きが薄れ、消えると同時にレントは目を覚ます。


「やぁ、ミラ。リンシア」

「やぁじゃないよレント」

「そう」


 いつものように振舞ったレントに対してミラは呆れていた。

「まったく……」という言葉がこぼれて部屋の扉に指を向けた。


「いくよ、レント」

「あぁ。遅れたら一大事だ」


 そうしてなんとか目覚めたレント達は急いで受付へと走っていった。


 まだ、『星痕』が少し痛い。

 力に馴染みきっていない証拠だろう。

 しかし時は待ってはくれない、明日こそが大会でありこれを逃すことは何よりも許されないものだ。


「まだ受付してますか?」

「えぇ。明日の朝までですからね。参加しますか?」


 受付の女性に間に合った事を伝えるとレント達はホッと息を吐いた。

 既に日が暮れ、夜の喧騒が騒がしくなるまでレントは目を覚まさないでいたのだ。


「ほんと、間に合って良かったよ」

「ほんとにね、ははは」

「よかった」


 受付を終えると、3人はせっかくなので夕食を屋台で摂ることにした。


「あそこなんていいんじゃない?」


 レントが向いた先はラーメンの屋台だ。

 こってりとした物からあっさりラーメンまで色々なものが網羅されていた。


「うーん、明日を考えるとそこじゃない?」


 ミラは反対側にあるビュッフェ形式の店を指さした。

 確かに胃は重たく無さそうだ。


「私もそこがいい」


 リンシアは殆どミラの意見に同調するので、いつだってレントのやりたい物はできないでいる。


「まぁ、仕方ないか」


 レントはそういうもんだと割り切って、ミラの示した所へと向かい夕食にすることにした。


「ところでレント。調子はどう?」

「ん?」


 ミラはレントが倒れた後ということでその具合を聞いているんだろう。


「あぁ、まだ万全では無いけど明日には間に合うよ。寝る前に少し練習は必要かな」

「そうか、なら良かった。無理はしないようにね」

「無理はダメ」


「わかったよ」と、レントは返しておくと夕食を進めていく。

 それからは何気ない会話と共に舌鼓を打って店を出ることにした。


「じゃあ、とりあえず明日の朝受付前集合でいいかい?」

「うん、いいよ」

「わかった」


 ミラの提案に2人は頷き、その場で解散となった。

 ミラとリンシアは各々の部屋に戻るみたいだ。

 レントはと言うと男性寮の地下室へと向かうことにした。




「やぁ、ガルド」

「ん レント 倒れた聞いた」


 だいぶ聞きやすくなってるな。

 と、それはともかくそれの返事をしようとするとガルドは唐突に提案をしてくる。


「少し 来い」

「??」


 何も言われずただ来いと言われるがレントにあいにくやりたいことがある。


「いや、今から地下室に……」

「俺の用事もそこ」


 同じ場所ということか、なら断る謂れもない。

 同意して向かうことにする。






 そうして地下室にたどり着くと、ガルドはいきなり風の刃をレントに向けて放った。


「うお!?危ないな」

「よく 避けた」


 不意打ちそのものの攻撃は何とか避けられたが、その理由は全く分からない。


「体調 大丈夫そう 明日 戦えるか?」

「あぁ、大丈夫だよ。このとおり」


 そう言ってレントは手のひらに黒い球を出した。


「ん 大丈夫そう 俺 出ない 少し見てやる」


 そうガルドが言うと構えを取り、臨戦態勢へと入った。


「手合わせか……こちらとしても都合がいい」


 調子を確かめるのにも、相手がいるのといないのとでは天地の差がある。

 1人でやるにはやりづらいものもあるのだ。


「では、始める」

「よし、やろうか」





 そう言って大会前夜、男二人の秘密の特訓は夜遅くにまで続くことになる。

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