第11話 魔術学校新入生・レント

 週も開け月曜日の朝、レント達は筆記試験をした教室に来ていた。


「はい、静かに。これから入学式を行うのであと10分したら移動します。いつでも行けるようにしておいて下さい」


 そう言う教師は、今か今かと時計をチラチラと確認していた。


「なぁ、我が主。お前、新入生代表なんだろ?ちゃんと話せるのか?」

「あぁ、練習はしたよ。緊張はするよね……」


 ライゴウとは隣の席だったようで少し話していた。

 何がどうしてこうなったか分かりたくないが、レントが新入生代表で全校生徒の前で話さないと行けなくなってしまった。


(僕の境遇と持ってる力のせいだろうな……)


 力持つものにはそれ相応の義務が発生する。

 もちろんいいことも多いが、その分あまり嬉しくない事もある。

 この発表がその最たる例だ。

 レントはあまり人前に出て話すようなことに慣れてない。


「まぁ、なるようにしかならないよ」

「そう……だな」


 ライゴウと話すこと数回、時間になったようでみんなが動き出した。


「さて、そろそろ魔術訓練場に向かいますよ」


 魔術訓練場。

 それはここの学生が授業や、自主練習で魔術を扱ってもいい数少ない場所。

 他にはこの前の校庭がある。

 基本的には、それら指定された場所以外での魔術の使用は禁止されている。


 わらわらと廊下を進み、その場所へとたどり着くと先導した教師が停止の合図をした。


「ここから先が会場です。既に第2学生と第3学生の先輩が入ってますので、緊張するかもしれませんが堂々と入ってください」


 淡々と説明をしていくこの教師は、どんな人相手でもこの調子でやってそうな雰囲気が漂っている。


 それを聞いた後、扉が開き新入生──レント達はぞろぞろと入っていく。




 訓練場に入るとそこには手前に第2学生、奥に第3学生が並んでおりレント達を観察していた。


(僕達新入生はそこに並ぶんだよな)


 上から見てT字型をしている通路の右下に第2学生、左下に第3学生が並び、1番前列となる上側に新入生が並んでいく。

 そうして特に何かある訳でもなく、スムーズに並び終わると校長先生が前に出てきて開始の宣言を始めた。


「ようこそ! 我が魔術学校へ! 我々は君たちの入学を歓迎しよう。そして、より一層の学びを得て成長することを願おう! これより、魔術学校入学式を始める」


 学校についてのあれこれ、担任となる教師の紹介、クラス分け等の説明をしていく内に新入生は疲れの色を顔に出していた。

 かく言うレントも、粛々と進む式に足の痺れを感じてきて話半分で聞いているしかできなかった。


「さて、話は変わるが我が学校には名称が無いことに気づいた新入生はいるかな? 我が学校には『魔術学校』という形式上の名前こそあるが名称と呼ばれるものは無いのだ」


 確かに、とレントは思っていた。

 何かある度に魔術学校、学校、と呼び呼ばれているこの場所にはこの場所を示す名前が無いのだ。


「それは、この街『学園都市 エルミディア』の一部にこの学校があり、我が学びの機関は学校だけではなくこの街全域に渡る。言うなれば、この街全てが学校であり学ぶ場だ。我が学校はその一部に過ぎない」


 だとしても名前はあった方がいいんじゃ……

 とレントは思ったりもしたが、校長先生が次に話したことで納得がいった。


「確かに名前はあった方がいい。だがな、この学校があるから街があるんじゃない。街があり、学びに適した形になった後に出来たこの学校だ。名前をつけるには難しくてな。その結果『魔術学校』という呼び名が定着し、今更変えれんのだよ」


 確かに、名前は1度人の脳に定着してしまったら今更変えるのも難しい。

 変えたところでそれを呼ぶ人が変わらないのだ。


「と、前置きはこの辺にしておこう」

「では、新入生代表は壇上にあがりなさい」


 ついに順番が回ってきたようで、レントは壇上に上がるために列から飛び出す。

 足が痺れており、おぼつかない足取りになってるが何とか大丈夫そうだ。


「はい」


 通路を進む時、第3学生からの目線がかなり重く、胃が痛くなるかと思った。


「新入生代表、レント。この場をもっ……」


 ────ドガァァァン


 いきなり通路が爆発した。

 学生達がびっくりする中、その叫び声は会場を響かせる。


「ハハハハッ、我が学校の学生諸君! こんな堅苦しいものは退屈だろう!! それでは学びとしててあまりにも無意義。ならばどうする!」


 校長先生だった。

 彼が放った魔術が通路で爆発したのだ。


「ちょ、校長先生!?」


 他の教師も知らなかったようで会場中でざわつきをみせた。


「なればこそ! 我ら学びの徒は戦いにこそ学びを得る! よって、今ここで新入生への洗礼を行う!」


 要は新入生と先輩達で模擬戦を、ということだろう。

 あの校長先生は、前々から血の気が多いと思っていたがまさにその通りだった。


「うおおおおおお!」


 第3学生は興奮し、第2学生は呆れた様子となりいつもの事だと言わんばかりにその体制は整っていく。


「この洗礼は5回戦の勝ち抜き戦で行う! 新入生は先鋒から大将まで5人を選抜せよ。そして、第2学生第3学生は混合で5人選ぶといい」


(これでは新入生vs第3学生という構図にならないか? 第2学生が出てくることがあるんだろうか)


 そんなことを思ってるうちに新入生側は着々とメンバーが決まっていく。


「こちらはこちらで順応性が高すぎるだろ……」


 レントが半ば呆れていると、ライゴウに声をかけられる。


「何言ってるんだ我が主、いや大将」

「えっ!?」


 何やら不穏な呼び方をされた気がした。


「大将? 僕が?」

「みんな大賛成のようだぞ?そら」


 レントが新入生を見回すとみんながそれぞれ納得の面持ちだった。


「どうやら、俺と主の戦いを見ていた者が多くてだな。レントが大将だと言って譲らない」

「……はぁ。そうか」


 大将はさすがに苦笑いが出てしまったが、あの戦いを前にして俺の方がという新入生はいなかったのだろう。


「まぁ、前の4人が何とかしてくれる……だろう」

「私たちも甘く見られたものね」


 どうやら、先輩方も決まったようで1人の女の人が声を上げた。


「こっちにも威厳ってものがあるのよ。先輩として、負ける訳にはいかないのよね」


 そういった女性は、腰に帯剣しておりここが魔術学校ということもあり、魔術に剣術を組み合わせたような戦い方をしそうだった。


「お眼鏡にかなうといいですね」

「えぇ、期待しておくわ」


 それらの言葉を交わし、両チーム5人が決まり訓練場の中心で向かい合うことになった。


「俺 先輩と 戦える 強いやつと闘う 楽しみ」

「我が主に勝てるものはおらぬだろうが、せいぜい楽しもう」

「…………」

「私を楽しませてくれる方はいらっしゃるのかしら!?」


 選ばれたのはガルド、ライゴウに続きレントの始めてみる顔が2人あった。


「あら、あなたがレントね。話は伺ってるわ。楽しい戦いにしましょう?」


 そう話すのは、どこぞの貴族の娘らしいアガーテである。

 お嬢様口調が似合うほどの容姿と家柄を持つ彼女だ。


「えぇ、そうですね」


 腰には銃が着いており、それで戦うのだろう。


「…………」


 さっきから無言の人物がいるが、彼から話してることは見たことがないと聞く。


「あやつは名をケイス。何やら面妖な魔術を使うと聞く」

「へぇ」


 どうやら不穏な魔術なようで、レントは彼が戦うのが見たくなった。


「…………」

「頑張ってね」

「……ほどほどに?」


 これでは会話が続かない。

 レントはその場を諦め相手のチームを見る。


 先程の女性剣士がこちらにアイコンタクトを送る。

 なんだろう?


 それはともかく他にごつい素手の男性が1人、全身をローブで隠したいかにも怪しいですという見てくれの人が1人、

 逆に衣服より肌面積の方が多いんではないかというレベルのケットシー族の女性が1人。


 最後の一人は……スライム?なんだか粘性の生き物が床を這っていた。

 それを見てか、先程の女性が説明をしてくれた。


「これは魔物じゃないのよ? ちゃんとした人なのよ。ただ、普段あんまり人前に出たがらないせいか、いつもこの魔物の姿をしてるだけなの」


 気にしないで貰いたいとの事なので、この事はそういう事だろうと何も考えない事にした。

 人であるなら何も問題ない。


「……仲間?」


 うにょうにょと這い回る粘性生物はケイスの周りをぐるぐる回った。

 驚くことに声を上げたのはケイスだった。

 自分から声を出したことがとても珍しいらしく、みんな驚愕の顔をしている。


「面妖な魔術だ。性質が似てるのだろう」


 ライゴウの補足もあってか、まぁ理由はなんにせよ同じタイプの相手のようでケイス自身も驚いたみたいだ。


「それでは、準備はいいか?」


 校長先生の一言で場は静まり返り、緊張が走る。


「知ってるものも多いとは思うが、人物紹介だけさせてもらおう!」


 そうして順番に手を差して紹介していく。


「まずは、先輩チームから! 先鋒、コレット! 身軽な装備で素早く動き場をかき乱すことに長けたケットシー族だ!」


 ──うおおおおお!


 先輩方から大きな声援が聞こえる。


「続いて次鋒、ジギル! その姿は魔物そのものだが、魔術士としては超一流だ! 油断するなよ? 新入生!」


 新入生チームに注意を促し続けていく。


「真ん中は中堅、ピョートル! その名前からは想像もつかぬその肉体美! 力の勝負は気をつけるんだな!」

「フハハハ! 新入生達は筋肉が足りん! 鍛え直してやるわ!」


 ピョートルはその筋肉を隆起させ見せびらかすと、学生達はうんざりした顔をした。


「次は副将、アライヤ! もう、謎しかないその見た目からは、何をするのかどんな人なのかは何一つ分からないだろう! 気をつけるんだな!」


(名前からして女性だろうか? 本当に何も情報が掴めない)


 謎多き女性(?)の紹介は、やはり謎のままであった。


「最後に大将! シルヴィ! 魔術と剣術と……これは秘密にした方が面白そうだ! 何をしてきてもおかしくないその技量は気をつけろ!」



 レントがさっきから思ってるのは、紹介の仕方が新入生贔屓すぎな以下という点だ。

 親切に注意をしてくれてるだけありがたいと思おう。


 その後は自分たちの紹介がをされた。

 レントの紹介があまりにも雑だったのは後で何か言いたいと思った。


 先輩達にもこちらの紹介が終わった事で、模擬戦はついに始まろうとしていた。

 他の教師も、もはや手遅れとばかりに呆れつつも諦めて校長先生を手伝っていた。


「さて! 1回戦目はこのカードだな。先鋒、コレットvsガルド!」

「この戦いは場をかき乱し続けた方が勝つでしょうね」


 何やら解説らしき人まで出てきた。

 どうやら教頭があの人のようだ。



「それでは、始めぃ!!!」

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