第10話 学園都市 エルミディア
「さぁて、そろそろ出発するか」
レントはいつもより少し早く起き出かける準備をしていた。
買い物をするために街に出向くためだ。
「とりあえず必要なものはメモを取ったし、お金は……まぁ、足りるだろ」
両親から支度金として受け取ったお金の余りをカバンに収め、部屋を出た。
「残りはそんなにないし贅沢は出来ないけど。必要なものは買えるだろう」
廊下を進み学校を出ると門のところに見知った顔と出会った。
「あ、レント君じゃない。お出かけ?」
「やぁ、オリティア。ちょっと雑貨をね」
どうやらオリティアも用事のようでこれから出かけるとのことだ。
「そうだ、レント君。こっちの用事が終わってからだけど、一緒に街を見て回らない?」
「迷惑じゃないなら……そうだね。そうしよう」
「いいえ、用事はすぐに終わるわ」
1時間ほどで終わるとのことで、街の中心にある噴水を集合地点として約束をした。
「こんにちは、おばさん」
「まだ、おばさんって歳じゃないよ。やだねぇ。やだやだ」
(見た目からして40超えてるだろう……女心とはかくも難しいものだね)
「さて、目的と外出時間を書いておくれ」
手渡された紙には名前、目的、出発時間に帰校予定時間を書く欄がある。
それらに記入して出ていく許可を貰うのだ。
「えぇと、目的は買い物。帰る時間は……そうだな。夕飯までには帰りたいから……17:00くらいにしておこう」
それらを書いた紙をおばさんに渡すと無事に許可を貰えた。
「長いこと出ていくもんだね。気をつけていきな」
「ありがとう。では、行ってきます」
────門を出ること数十分。
レントは集合地点の確認の為に噴水の前にいた。
学園都市エルミディア
魔術学校を囲うようにできたこの街は、昔から教育に力を入れて栄えてきた。
そのせいか街の中心に近くなるにしたがって装備品やギルドなどの建物が並び、外になるほど居住区が広がっていた。
「ここに2時間後に集合だな。それまでにこれだけは済ませたいな」
メモに書かれているものは必要な雑貨や衣服、そして傭兵ギルドへの訪問とある。
傭兵ギルドとは『星痕』を宿してない人が集まり魔術をもって魔を倒すことを目的とした組織だ。
基本的には街の防衛や護衛、魔物の討伐などの仕事の斡旋やそれらで得た物の買取を行っている。
「ここにオリティアを連れて行くにはちょっと気が引けるんだよね」
レントのイメージだとギルドとは荒々しいものだと思っている。
そこに気軽に女性をつれて赴くのは適さないだろうという判断だ。
「さっさと済ませるか。えぇと、この地図によると……あそこか」
門のおばさんにもらった地図が早くも役に立っている。
知らない地では大事なものだな、とレントは確認し終えてカバンへとしまう。
「よし、いくか」
噴水から傭兵ギルドへはものの数分で着くみたいだ。
ほとんど目の前と言っても過言ではないだろう。
「人の多く集まるところはやはり賑やかだな」
周りを見渡すと服飾店や装備品店等様々な店が並んでいる。
その一角に傭兵ギルドがあるのだ。
「うーん、一際目立つな……」
魔術学校を除いたら一番大きな建物、それが傭兵ギルドだ。
様々な依頼を請け、それらを所属しているメンバーにクエストとして斡旋する場所。
そんな場所に入るとレントは思っていたイメージと違ったことに気づく。
「てっきり、漢の集団みたいなイメージがあったけど……。かなり清潔だし、それなりに女性もいるみたいだ」
受付らしい人も女性なのでその違いに驚いた。
その受付を見てると、どうやら窓口は3種類に別れているようだ。
「あそこは依頼窓口か。なになに、仕事の依頼はこちらまで? あぁ、民間の依頼を請ける所かな」
その右には受注窓口、その更に右に買取窓口とあった。
「傭兵ギルドに入るにはどこだろう?」
周りを見てもどこにもそれらしき所はなく、周りの人に聞こうにもそんな雰囲気ではなさそうだった。
仕方なく受注窓口の方へ行き、受付の人に聞くことにする。
「おぅ、兄ちゃん。依頼か? ……いや、その服なら加入だな?」
都合よく人に声をかけられたので、振り向きざまにその相手を確認する。
髪の毛はなく、魔術を使えるとは思えないほどの筋肉が着いた身体。
そして何より、腰に帯剣している。
「あ、はい。加入したいと思って来たんですけど、どこに行けばいいかさっぱりで」
「それならこっち来な」
そう案内されたのは窓口ではなくその奥にある扉だった。
「おら、早く来いよ」
「あ、はい」
恐る恐るその扉へ向い、その男の後に続いて部屋へと入る。
その男は中に設けられたソファへと座り、机を挟んで反対側にもあるソファを指を指した。
「そこに座れ」
「……はい」
怪しんではいない。
傭兵ギルドでここまで自由にふるまえるような人はそう多くないだろう。
少し、緊張してるのだ。きっとそうだ。
「お前さん魔術学校生だろ?その服着てるしな」
「そうです。と言ってもまだ入学は済んで無いですけど」
「お? 新入生だったか! 早い行動、何よりだ」
話によると第2学生になると、なにか理由がない限り1度は登録するらしい。
そこで現場を知るのだろう。
「俺たち傭兵ギルドは、ってまだ自己紹介してなかったな。俺はレイスター。ここのギルド長をやってる」
やはりギルドのトップだった。
ギルド長直々とは、レントはさらに緊張してしまう。
「いや、何もそんな緊張しなくていいぞ。俺だってギルド長って言っても、この国においては末端に過ぎないしな」
「末端て……」
レイスターはそういうが傭兵ギルドのギルド長は国に声をあげられる、数少ない役職だったはずだ。
「本題に入ろうか。ギルドに入りたいんだってな」
「はい」
「単刀直入に言おう。無理だ」
「えっ」
てっきり早くなるだけで入れはするものだと思っていた。
年齢制限である成人済みかどうかも問題ない。
「なに、これは契約なんだ」
「契約?」
「お前さんら学生を第2学生になったら強制加入させる。まぁ、強制加入といっても正当な理由があれば別だがな。ただし、それより前の加入はいかなる場合においても認められないんだ、すまんな」
「なんでそんな…」
その契約は甚だ疑問に思う。
前に加入させたとして、何が問題があるんだろう。
「なに、大人の事情さ。近年、傭兵ギルドへの登録者は減る一方なんだ。国からの支援で動いてるこの組織でも人が少なくなればやれることも少なくなるし、爆発的に増えることもないんだ」
だがな、と繋ぎレイスターは真剣な眼差しでレントを見つめる。
「俺たち魔術ギルドは金を払い魔術学校に登録してもらってる。金が発生してるんだ。学校側からしたら、事前に登録したからその人の分の金は出ませんなんて言われたら嫌に決まってるからな」
一定額ではなく、人数で変わるらしくレント1人減ったらかなり減るらしい。
学校も国の組織だ。それなりのお金は降りてるはずだけど足りないのかもな。
(あんまり派手に立ち回るのはやめておこう)
それが修繕費に向いていそうなので少し抑え目にしようと考えたレントであった。
「そんな訳で今ここで登録させる訳にはいかねぇんだ。すまんな、来年まで待ってくれ」
「まぁ、そういうことなら……」
できないものは仕方ない、傭兵ギルドを出て噴水で待とう。
「おっと、これは詫びだ」
そう言ってレイスターはひとつの小袋を投げ渡した。
それを受け取ったレントは中を確認すると驚愕する。
「金だ。その意気込みの評価分だ、受け取れ」
「ありがとう……ございます」
詫びなのか評価なのか、いまいち分からないが心もとない資金だ。ありがたく頂戴しておく。
「これで繋がりができたな」
ニヤリとした顔でレイスターが呟いたのはレントが部屋を出たあとの出来事であった。
部屋を出たレントは惜しくも登録はできなかったが、それも来年まで待てばいい話。
進級出来るように頑張らないといけないと思った。
「さて、まだ予定時間まで時間あるなぁ」
オリティアが来るまでまだ1時間はゆうにある。
することも特になく、先に買い物を始めていいものか悩んだレントはその結果露店へと足を運んだ。
「兄ちゃんどうだい? 1本」
「ん? 串焼きか」
「おうよ! 自慢の鳥の串焼きだ。美味いぞ? 1本銅貨10枚だ」
「じゃあ、1本ください」
先程のこともあり、暖かくなった財布に手を伸ばして串焼きを購入した。
この星の通貨は銅貨、銀貨、金貨、虹貨の4種類に分かれており、魔術によって色分けと複製不可になっている。
「!? 美味しいなこれ」
「だろう? 俺んとこの串焼きはこの国一番だ」
いい物を買ったものだとオリティアの為に追加で買おうとした。
「おっと、兄ちゃん。他の人に買うならまた後で来な、冷めちまうと美味さが落ちるんだ」
「なるほどなぁ」
確かに暖かいから美味しいというのもあるだろう。
その言葉は一理あるのでまた後で合流してから買うことにした。
「それにしても色んな露店があるもんだなぁ」
ざっと見ただけでも装飾を置いてあるもの、食べ物を扱ってるもの、中には娯楽品もあったりする。
色々眺めては寄ってみたりしてるうちに、時計の針は約束の時間になろうとしている事に気づく。
「そろそろ行かなくちゃ」
時間に余裕はまだあるが、自ずと足は速くなっていく。
思ってた以上に楽しみにしていたようだ。
ものの数分で噴水へ辿り着くと、そこには既にオリティアが待っていた。
「ごめんごめん、待った?」
「いいえ、さっき来たとこよ」
そう言うオリティアだが、急いで来たのか息が上がっている。
それは言わないのが正しいだろう。
「じゃあ、先にここ行きたいんだけど」
そう言ってレントは広げた地図の一角を指さした。
「服飾店?いいけど、荷物になるわよ?」
「いやぁ、この服かなり目立つんだよね」
そう言って周りを見てもらうと、チラチラと目線が合うことにオリティアは気づいた。
魔術学校生という事もありなんだかんだ注目されるのだ。
「こう、悲しいことに僕にそのセンスはないんだ。私服を着ていこうにも合ったものが分からなくて、仕方なくこの制服を着てるんだよね」
「それでまず先に服を変えたい、と言う事ね」
「そう」
なら行きましょう。とオリティアとレントは並んで道を歩いていった。
便利なもので、そういったものは近くにまとめて店があるようですぐに店には着いた。
「オリティアはどれがいいと思う?」
「え? 私が選ぶの?」
「お願いするよ。ほら、センスが……ね」
「あぁ」
フフフッと笑われたしまったが、その笑顔に免じて無かったことにした。
「ならこれはどうかしら。これなら普通に歩いてても問題ない見た目よ」
「うーん、せっかくださオリティアに選んでもらったものにしたいんだけど、もっとこうかっこいいのがいいなぁ」
オリティアが出した来たのは普通の街でよく見かけた服だ。
良くも悪くも庶民的とも言える。
「ならこっちはどうかね?」
いきなり横から声が飛んできた。
「あ、ごめんよ。私はこの店の店長をしている者だ。話を戻すけど、最近このタイプの服人気なんだよ」
そう言って見せて貰ったのはカジュアルな服装だった。
確かにかっこよさげではある。
「人気……これみんな着てるんです?」
「これと同じじゃないけどね」
なんかみんなと同じものという事に少し忌避感を感じた。
目立つのはあれだが、こうも似た服では抵抗があるのだ。
「うーん」
オリティアの服と店長が出した服を見比べたレントは、ひとつの回答を得た。
「オリティアの上下と、店長のジャケットにします」
「あら」
オリティアはてっきり店長の服にするかと思っていたようで、驚きの顔を見せた。
「機能面ならオリティアのやつなんだよね、だけど少しオシャレがしたいなって思ってさ」
「うんうん、いいね」
店長が試着したところを見て頷いていた。
「それじゃ、それらセットで銀貨2枚だよ」
「あ、あと他のも……」
この街の一般的なひと月の収入が金貨1枚と聞く、まぁまぁ安いんじゃないだろうか。
至極一般的なものだからこんなものかもしれない。
残念ながらレントにものの価値は分からないのだ。
それから少しの間、部屋着やら下着やらを購入して店を出た。
「ありがとうございました。またいらして下さい」
そう言われて店を後にすると、ちょうど時計の針がてっぺんを向いたようで昼食の時間にした。
「このランチ美味しいな」
「えぇ、当たりですねこの店」
2人で入ったのは少し中心から離れたところにある喫茶店。
串焼きの露店にもう一度言った際に、そこのおじさんにオススメの店を聞いたらここだと言われた。
「ふぅ、僕の生活もだいぶ変わったなぁ」
「ふふっ、まだまだこれからですよ」
それはその通りだ。
まだ始まったばかりなのだから。
そうして時折話しながら昼食を終えると、残りの買い物に行くために街へ繰り出した。
────楽しい時間というものは、本当に早く過ぎてしまう。
時は夕刻、そろそろ帰らないといけない時間だ。
「今日は付き合ってくれてありがとう。」
「いいえ、私も楽しかったわ」
「そろそろ時間だし帰ろうか」
そう言い出したレントはオリティアの手を引き、学校へと戻っていく。
2人して帰った時に、門のおばさんがニヤニヤしていたのは言うまでもないだろう。
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