第一章 魔術学校編
第3話 試験への旅路
教会の儀式から4年が経ち、14歳となったレントは魔術学校へ行くための準備に追われていた。
『星痕』を宿らせた少年少女は15歳になる年の春から学校へ入学することになる。
そこに入学するため明日にはこの街から出発しなくてはならない。
レントの暮らす街『キスク』から魔術学校のある所までは乗合馬車で2週間のところにある。
「ほら、早く準備しなさい。準備が間に合わないわよ」
キリヤが準備を急かすとレントは急いで庭から帰ってきた。
「今ちょうど鍛錬の時間が終わったよ。なかなか扱うには癖のある力だねこれ…。でも父さんのおかげで何とかなりそうだ」
「おう!お前は筋がいいぞレント!これなら学校に行っても大丈夫だろう」
この2年の間ずっと自分の手にした力を理解すべく鍛錬にあけくれていたレントは、この力の使い方や
「とは言ってもまだまだ1人前とは程遠い。学友と一緒に高みを目指してこい!」
「あぁ!父さん!」
父と息子の何気ない会話を他所にキリヤはため息混じりに諦めていた。
「はぁ…。急いで準備してきな」
「そうだった!」
レントは急いで自室へ移動し必要なものをまとめた。
「えぇと、服でしょ?生活必需品でしょ?書物類は学校で貰えるらしいし…。うん、こんなもんかな」
確認まで終えることには晩御飯の時間となり、家族で過ごす時間を有意義に過ごして寝床に着いた。
早朝、レントは学校に向かうために起きてワクワクを感じていた。
「あ、そうだ。これ持ってかないとね」
机の上に置いてあるネックレスを手に持ち、鏡の前に行くとそれを首にかけた。
昨日、父親に餞別として貰った品だ。
「絶対に無くさないようにしないとね」
今まで贈り物という物を父親から貰ったことの無いレントからしたら始めて貰ったプレゼント。値段に関わらずレントにとっては大事なものだ。
「さて、そろそろ行くか」
自室を出てキリヤとリダンの前を通り過ぎる時に呼び止められた。
「お、もう行くのか。気をつけていけよ。」
「何かあったら一言頂戴よ?何があっても私たちは味方だからね」
父親と母親からの激励とも取れる会話に胸が弾む。
「うん!行ってきます!!」
(これから2週間は馬車の旅だ。これにワクワクせずして何が男だろうか。)
家を飛び出したレントは乗合馬車のところまで走って向かった。
「大丈夫かねぇ?過大な力を得て調子に乗らないといいけど…」
「問題ないだろ。そのために俺が2年間見てたんだ。周りの生徒と比べてオーバーパワー気味ではあるが加減と常識を叩き込んだんだ」
「そうじゃなくて…まぁ、いいわ。なるようになるわね」
レントの今までで1番の元気を目にした2人は安心と心配を同時に感じていた。
(今日でこの街とはおさらばか…。思えば色々助けて貰ったな。商店のテムルおじさんに八百屋のおばさん、近所のおじいさんおばあさん…)
(今度は僕がみんなを助ける番だね)
興奮もするが覚悟の上だ。
精一杯頑張って星導者になろう。
「あれが乗合馬車だな」
駆け込みながら馬車の前まで行くと御者さんが立っていた。
「もうすぐ出ますか?」
「お?坊主乗るのか?あと半時ほどで出発だよ」
「あ、そうだ。魔術学校近くに行きますか?」
「ん?お前『星痕』持ちか。ほぇ~、やるなぁ坊主!っとそうだ、魔術学校だよな。寄るぜ、近くと言わずに目の前にな」
「よし!乗ります!」
少しのあいだ待てとの事なので先払いを済ませて中に入り、この空間でできる練習をすることにした。
「っと、こんなもんかな?」
右手に魔力を集中して指先から放出する。
左眼の紋様が黒く光り、指先からはどんな光でさえも吸収してしまいそうなほどの黒い球体を出現させた。
「うん、今日の黒球もいつも通りの出来だな」
なんか周りがザワザワし始めてどうしたのかと練習をやめて周りを見てみると、乗車している人が全てレントの方を見ていた。
「あぁ、そうだ。人の目があったな…」
気まずくなったレントは、窓もないのに肩肘を掛けて幌の内側をひたすら見つめた。
(しまったなぁ…。こう人の目があっては気が散りそうだ。)
「なぁ、兄ちゃん。もしかして『星痕』か?」
なかなかな装備をしたお兄さんが話しかけてきた。
『星痕』無しには魔物は倒せないのにどういう事だろう?
「あぁ俺か?俺はグレイヴ。傭兵団の団長やってんだ。戦争から魔物まで色んなやつを相手にするぜ?」
「『星痕』…あるんですか?」
「ねぇよ。なくてもどうにかなるもんだ」
初めて知った。
人同士の戦いの戦争はまだしも魔物も倒せるのか。
それだけの力があれば『星痕』無くても戦えるんだ。
「んで、お前さんは見たところ『星痕』あるだろ」
「はい。ありま…」
レントが話してる最中グレイヴと名乗った男は耳元に口を寄せてきた。
「あまり人前で魔術は使わない方がいい。人となりを知らねぇ相手には特にな」
話を聞いていると、どうやら『星痕』をもちつつ悪党として蔓延っている者もいるらしい。
魔術士団に所属していない『星痕』持ちは警戒されるとの事。
「てっきり『星痕』を宿した人達はみんな魔術学校に行って学ぶものだと思ってました」
「みんながみんな通えないってことさ。試験の事とか、お金の事とかな」
そうか、それらが足りなくて通えない者もいるのか。
義務ではなく権利であるが故に落ちぶれた人々ってことかな?
「情報ありがとうございます。僕も気をつけますね」
「おう、素直な奴は好きだぜ」
グレイヴにお礼を終えると彼は席に着いた。
「さて、そろそろ出発しますよ」
御者の声が聞こえてきて、いよいよこの街と当分おさらばだと思うと感慨深いものを感じる。
馬が元気よく駆け、街が遠ざかっていく。
(さらば、僕の故郷。また来る日まで)
─── 一方、教会では
「オリティアはそろそろ街を出た頃かねぇ」
ディーノは高い天井を眺めてポツリとこぼした。
「心配ですか?星官長様」
「まぁ、孫みたいなものと言ったところか。…あの少年とは同じ馬車だろうか」
レントとオリティア。
必然か偶然か、レントが自分の力で『星痕』を宿したからか少し自信が出ていた彼女。
教会で見習い星官として仕えていたオリティアはレントと年が同じで、彼女もまた『星痕』を宿していた。
「天を仰ぎ、神に忠誠を誓える者のみが教会にて星官を名乗れる…。『星痕』を与える者であると同時に、『星痕』無くして天の力の代行者となり得る器…か」
ディーノは期待と共にレントと上手くやれたらと思っていた。
────────────────────
乗合馬車はひたすらに道を進む。
休憩を挟んでは進み、
時には魔物と出くわしながらも進み続ける。
「みなさんの中に戦える方はいらっしゃいますか?」
「お、俺の出番だな。こんな状況だ、傭兵とはいえ依頼料は貰えねぇな!」
グレイヴは飛び出し、レントも応戦しようとした時グレイヴから制止の声が聞こえた。
「坊主、さっき言ったろ?むやみやたらに見せちゃダメだってな!」
そう言いながら魔物を一体蹴散らした。
「俺が危ない時は頼むわ!」
『星痕』を宿さずに魔物と渡り合い、倒すことさえ出来ている。
見る限りこの魔物は
硬い外殻に鋭い角を併せ持つ、間違っても『星痕』を持たない者が対峙して無事な魔物ではない。
大きいものだと人間の大人をゆうに超え、小さいものだとしても子供と大差ない大きさの魔物。
グレイヴはそれを軽くあしらうかの如く倒していく。
その戦いは数分も経たないうちに終わりを迎えた。
「どーよ、坊主。俺だってやれるんだぜ?」
「…すごい」
ここまでされては感嘆の声しか出ない。
「『星痕』なんて無くなって魔物は倒せるんだ。ひとつ賢くなったな、坊主」
「えぇ。ありがとうございます。勉強になります」
ただの人の身でありながら、魔物と渡り合うことが可能だと知ることが出来なのは実に有意義だった。
馬車の前に出てくる魔物はこうしてグレイヴが倒し続け、レントの出番はなかった。
危ない時などあるんだろうか?
あるんだろうなぁ。そう、
そうこうしている内にあっという間に2週間が過ぎ、レントは魔術学校の前に到着していた。
「おう!レント!試験頑張れよ!」
「はい!」
「じゃあ、また機会があったらよろしくな!未来の星導者さん」
旅している内に彼とは仲良くなれた。
どこに何をしに行くのか、身のうち話からなんでもないしょうもない話まで色々話せた。
「楽しい馬車旅だった。さて、気持ちを入れ替えないと。これから試験だ」
目の前にある大きな門。
それをくぐるとそこはもう学校の敷地だ。
その門をくぐろうとした時、見覚えのある人影が見えた。
「あれ?オリティアさん?」
「ん?その声は…レント君じゃない!」
修道服を来ていない彼女は私服なのだろうか、いつにも増して綺麗に見えた。
「オリティアさんも試験だったんですね」
「えぇ。実は同い年なんです」
てっきり『星痕』の儀式をしたのだから年上だと思い込んでいた。
そういえば星官って、神に誓えば力を与えられる特殊な職業だっけか。
(なるほどねぇ…)
「あ!試験遅れちゃう!行こ、レント君!」
「あ、うん」
2人して門をくぐり、受付を済ませると教室へと入っていった。
そこにはもう先生のような人がいて受験者も揃っているような数だった。
「オリティアさん、レントさん。ギリギリですよ、早く席につきなさい」
やはり教師だったようだ。
メガネをした顔の整ったイケメンだ。
ここまでイケメンだとモテるだろうなぁと思いつつ、名前のある席に着いた。
「それでは皆が揃ったのでペーパーテストの注意事項から説明します」
・試験は60分で強制的に回収
・盗み見は厳禁
・魔術の使用は厳禁
・試験中に席を立った者は回答を終えたものとして部屋を退出すること
・回答を終えたら教室から出て控え室に行くこと
・筆記用具以外のものはカバンにしまって机の下に置いておくこと
等、すごく一般的な説明の後試験用紙が配られた。
──チッチッチッチッ
時計の針の音だけが響く教室で時間が来るのを皆で待つ。
実に学校って感じだ。
──チッチッチッチッ
「それでは、試験始め!」
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