番外編:今日はポッキーの日だね


「ねぇ真田くん、今日がなんの日か知ってる?」


 バイトが始まる前、突然先輩からそんなことを聞かれた。えーっと、確か今日は11月11日……別に祝日って訳でもないし、何かあったっけ?


「いや、わかんないです。何かありましたっけ?」


「今日は11月11日……つまり、ポッキーの日だよ!」


 あー、なるほど。確かに店でもポッキーのキャンペーンやってたな。でもどうして先輩は目を輝かせながら今その話をしてるんだろう? 別い祝日でもないしただ単に企業の戦略みたいな日じゃないか。


「てなわけで真田くん、バイトが始まるまでポッキーゲームしよう!」


「ポッキゲーム………………っ!?」


 ちょっと待て。ぽ、ポッキーゲームってあの……両端からポッキー食べて、下手したらき……キスしちゃうあの……禁忌の遊び!? う、うわ、もう先輩ポッキーくわえて準備万端だ! なんでこんな先輩はすでに準備を済ませているのかわけがわからないし、ポッキーだってこのゲームを二人きりでするためにわざわざ買うなんてどうかしてるよ!


「だ、ダメに決まってるじゃないですか! せ、先輩と……そ、その……き、キスすることになっちゃうかもしれないですし……」


「えー、でもこの前私の家にお泊まりした時もしちゃったし問題ないよ!」


 た、確かに先輩の家にお泊まりしたときキスをしてしまったけど……あの時はもう事故だったじゃないか! あれと今から先輩がしようとしているポッキーゲームを同列に語るのは無理がある。


「問題大有りですから! と、とにかく先輩、俺は絶対やらないですからね」


 バイト前に先輩とキスして気絶したなんてことになったら、俺はもうここで働けなくなってしまう。そうなるわけにもいかないから、俺は断固として先輩の誘いを断る。当たり前だ、俺はこのバイト先に働きにきているんだ。決して先輩とイチャイチャするために来ているんじゃない!


「…………(真田くんとまたチューしたい!)」


「うっ……」


 だけど、今日の先輩は下手に言葉を並べるわけじゃなく、ポッキーを咥えたまま俺のことをじっと見て訴えかける視線をひたすら送ってくる。その様子はまるで子犬に餌をおねだりされているような気分にしてきて……。


「…………(真田くん私とチューしょう!)」


「ううっ……」


 先輩はひたすら俺に訴えかける目で俺とポッキーゲームをしようと誘ってくる。そんな先輩の姿は本当に可愛くて正直今すぐにでもしたい。で、でもダメに決まってる! このまま下手に先輩に乗せられるわけにはいかないんだ! なんでもかんでも先輩の言うことを聞くわけにもいかないし、このまま断固として拒否する姿勢を見せないと。


「………………(お願いだから私とチューしよ!)」


「うううっ……」


 でも、先輩は一切引くこともなく俺のそばに近寄ってきて、ポッキー1本分まで詰め寄られてしまった。さらに目をキラキラキラ〜ってさせて早くしようと言わんばかりに無言の圧をかけてくる。こ、これはまずい……ここまで近寄られてしまったら、どれだけ歯を食いしばったところで俺の理性が持つわけがない。


 このまま俺は先輩とポッキーゲームをしてしまうのか!? そ、そりゃ正直したい気持ちもなくはないけど……でも、そんな破廉恥なことをバイト先でするわけには……あ。


「…………(もうここまできたら絶対真田くんは私とチューしないといけなくなっちゃったね。勝ち確だね、これは。………また真田くんと……今度は事故じゃなくてゲームに見せかけた策略で故意的に……やったぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああ! ディープキスしちゃうもんね!!!)」


「せ、先輩……」


「んーん、ンンンン(なーに、真田くん)」


「……あと30秒で出勤しないとですよ」


「………………え」


 ギリギリ粘り勝ちをしたといった感じか。いつの間にか出勤間際になっていた。それを聞いた先輩は全く時間のことを考えていなかったのか、口をポカンと開けてポッキーを落としてしまった。よ、よし……なんとか逃げ切ったぞ。危うくバイト先でも先輩とキスをしてしまう羽目になっていたからな。これでバイト先の秩序が守られた。ふぅ……よかったよかった。


「…………ぶー、なら来年は絶対しようね。あ、バイト終わった後でもいいよ!」


「し、しませんから!」

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