2:先輩の前でコンドーム買った翌日


 先輩の目の前でコンドームを買った日の翌日。今日も俺はバイトがあったのでいつも通りの時間に出勤した。気まずい気持ちもあったが、これで土屋先輩も俺のことを子供扱いしないだろうと思ったんだけど。


 バイトが始まる前、どうも先輩の様子がおかしかった。やけに俺のことをじーっと見てきたり、なぜか除菌シートをくれたり、いつもより挙動不審な様子だった。


「真田くん。…………き、昨日は楽しかった?」


 そしてバイトが始まってからしばらく経った後、全く客が来ない暇な時間。恐る恐る、いつになく怖い感じで先輩は俺に昨日のことを聞いてきた。な、なんだこの土屋先輩の雰囲気は……怒っているというよりは、どこか嫉妬をしているような気がする。


 いや、そんなの気のせいだろう。とにかくあんなことをした以上、俺はそれを突き通す必要があるんだ!


「た、楽しかったですよ。お、大人の楽しみ堪能しました」


 我ながら何を言っているのかよくわからないが、とりあえず大人ぶりたいのでそれっぽく言ってみた。すると先輩はコクコクと頷きながら「ふーん……」と反応を見せる。


「そっかぁ……。ち、ちなみにさ、真田くんの彼女ってどんな感じの人?」


「え!?」


 そりゃ当然聞かれる話なんだが、俺はそれを乗り切る嘘を全然考えてなかった。女性と接した回数なんかほとんどないからとっさに考えつくにも……でも何か言わないと嘘だってバレてしまう。考えろー、考えろ俺……。


「えーっと……か、髪型はボブで……茶髪で……スタイル良くて……美人で可愛くて……明るくて……そ、そんな感じです!」


 とっさに思いついた女性像を言ってみたけど、これって……土屋先輩の特徴を言っただけじゃないか俺!? や、やばいぞ……それがバレたら「私と付き合ってる妄想してるの真田くん? キッモ……」って思われてもおかしくない。ああ、でも今更訂正するわけにもいかない……八方塞がりだ!


「……そっかぁ、ボブで茶髪でスタイルがいいクソビ……美人ね。メモメモ」


「な、なんでメモ取ってるんですか!」


「えーっとね、真田くんの好みを記録しておこうって思ってさ」


 どうやら土屋さんのことだってバレてないみたいだ。だけどなんか変な誤解をまたされてしまった気がする。メモまでされちゃったし。てかそもそもメモを取る必要性がよくわからないな……。


「で、真田くん。その彼女は同じ学校の人?」


「え!? あ、えっとー……ち、違います!」


「あれ、違うの?」


「はい! だ、大学生の人です!」


 同じ学校って設定にしたら、もし高校の友達が来て土屋さんがそのことを聞いた瞬間に嘘がバレてしまう。だからバレなさそうな大学生って設定にしておいた。……あれ、また土屋さんに似せてしまった気がするぞ。


「そっかぁ……大学生かぁ……。私の真田くん奪った奴マジ死ね」


「え?」


「ん? なんでもないよ〜」


 なんか一瞬土屋先輩が鬼のような雰囲気を纏っていた気がしたけど……気のせいか?


「でも真田くん。高校生たぶらかしちゃうような大学生には気をつけたほうがいいと思うなぁー。君といつも接して理解があって、なおかつ可愛がってくれる女子大生の方が真田くんにはぴったりだと思う!」


「え? い、いや……お、俺の彼女そういう人なんで」


 嘘をより強固なものにするために、俺は土屋先輩の忠告にそう答えた。い、一応問題のない人だってことにしておかないと、土屋先輩に余計な心配させてしまうかもしれないからな……。


「!?」


 すると先輩は目をガッと見開いて驚いた表情を見せていた。もしかして俺にそんな優しい彼女なんかできっこないとか思われていたのかな? だとしたらなかなか心にくるんだけど……。


「お、驚きすぎじゃないですか?」


「……ごめん、びっくりしてさ。……でもありがと! 彼女さんの特徴教えてくれて」


「ど、どういたしまして……?」


 あれ、なんで感謝されたんだ?


「さて、今日は私先に上がるね。用事があるからさ。お疲れー」


「あ、そうでしたね。お疲れ様です」


 今日は急遽先輩がシフトを変更して早めに上がることになっているため、土屋先輩は先に帰宅していった。ふーっ、なんとか誤魔化すことができたな。今日は子供扱いされなかったし、対等にみてもらえる日も近いはずだ!




「……ボブ……茶髪……大学生……インスタ見ただけでもいっぱいいる。これじゃあ特定できないや。やっぱり、真田くんの後をつけて見つけるしかないのかなぁ。でもラブラブなところ見せつけられたら私生きられる自信がなくなるし……ああああああああああああああああああああああ! どうしたら真田くんとえっちできるのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉお!」

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