ベルンのバラ公園

もっとちゃんと見ておけばよかった、という景色がたくさんある。


じっくり見ないで通り過ぎてしまい、後になってからひどく後悔する。

気軽に行くことのできない遠い場所だと、後悔の念は更に強くなる。


バラ公園もそういう景色の一つだ。


(おそらく)2018年、スイスへ旅行に行った時のこと。

ツェルマットを離れたわたしは、ベルンに移動していた。


横長に伸びるベルンの市街地。

旧市街の街並みを歩いて楽しみ、橋からの眺めに感動し、熊公園で熊を愛でる。

ベルン駅を出てからひたすら歩いてきたので、熊公園に着いた時には結構疲れていた。

だが、ホテルへ戻るにはまだ時間が早い。


ふと先を見ると、丘を登る坂道が見えた。

熊公園には観光客の姿がたくさんあるが、その坂道は静かで、ひっそりとしている。人の姿もあまり見えない。

なんとなく、その坂道を登ってみることにした。

標識が立っている。

「Rosengarten」

読めないが、文字の雰囲気から察するに、おそらくバラ園のような施設がこの先にあるのだろう。


坂道は、思ったよりも長く、傾斜が急だった。

軽い気持ちで登り始めたことを、少し後悔する。

だが、人の多い通りをずっと歩いてきたので、ひっそりとした坂道を歩くのは良い気分転換になった。

旧市街との雰囲気の違いが、なんだか面白かった。

まるで別の街のようである。


登り続けると視界が開け、左手にベルンの眺望が広がった。

ずいぶん高いところまで登ってきたようである。

街並みの、ずっと遠いところまで見渡すことができた。

絵葉書に登場するような、見事な光景だった。

旧市街を歩いている時も美しいとは思ったが、こうして上からいっぺんに街全体を眺めてみると、なんというか言葉に出来ない味わいがある。

胸の奥を掴まれるような感動だった。


そして、道の先に「バラ公園」があった。

公園の手前で見たベルンの眺望に満足してしまったからか、体力的に限界がきていたからか、わたしはバラ公園をほとんど探索することなく坂道を降りてしまった。

花の写真を撮り、少しは公園の中を歩いたはずなのだが、その景色を思い出せないのだ。

もったいない。

本当に、もったいないことをした。

心に残るものがあったはずなのに、それを見つけることなく立ち去ってしまった。

バラ公園はかなり有名な場所だったらしく、ネットで検索すると情報や写真がたくさん出てくる。敷地内の様子を知ることはできる。

だが、やはり自分の目で見ておきたかった。

実際に見てみないと、どう感じるかは分からない。


ベルンを訪れたのは大切な思い出だが、ベルンの旅を思い返すと、バラ公園をちゃんと見ておけばよかった、という後悔の念が込み上げてくる。


ふとしたきっかけで出会う場所やモノ。

深く考えずに素通りしてしまうが、後から心に引っかかってきて、あの場に戻りたいと思うことがある。

だが、簡単に戻ることのできない場所だったり、戻っても同じモノが見つからなかったりする。


そういう時には、後悔を噛み締めるほかないのである。

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