ビル群を穿つバラ
秋にもバラは咲く。
去年、都心にある大きな公園に秋バラを見に行った。
交通量の多い道路とジャングルのようなビル群に囲まれるその公園は、都会の中で異質な存在感を放っている。
門の手前までは白いビルが迫るように建ち並んでいるのに、ポッカリと開いた入り口を通ると、そこは周りから隔絶された緑の世界だ。
天気の良い日だったので、訪問者がたくさんいた。
家族、恋人、友人のグループ。
わたしはひとりだったので、少し寂しい。
賑やかな芝生広場を通るのは避け、静かな木立の中を歩いた。
公園にはいくつかの入り口がある。
わたしの通った入り口からだと、バラ花壇のある庭園は結構遠くに感じた。
地図を確認しながら、のんびりと公園内を進んでいく。
別に忙しい日々を送っているわけでもないが、非日常的な平穏に、心がふわりと浮き立った。
バラ花壇は、たくさんの人に囲まれていた。
長方形の形をした大きな花壇の周りを、人々がバラを眺めながらぐるぐると歩いている。
わたしはなんとなく焦りを感じて、急ぎ足で花壇に近づいた。
人々の向こうに見えたバラは、見事だった。
小ぶりで上品な花が、澄まし顔で凛と咲き誇っている。
品種に関する知識はまるでないので、どのバラがどうとか、そういうことは全く分からない。
唯々、バラに感心した。
人々の中に加わり、バラ花壇の周りをぐるりと歩いた。
長方形の角を曲がったあたりで、ふと視線を上げてみる。
庭園の向こうには芝生が広がっていて、視界がすっきりと開けている。
花壇のその位置からは、公園の外を囲むビル群がよく見えた。
巨大な建造物と自然のコントラストが、妙に心を惹きつける。
庭園越しに見るビル群と、青く澄みきった秋空。
目の前のバラは、まるでビル群を突き抜けて咲いているように見えた。
ビル群を突き抜けて、高い空へと伸びていくようだ。
そのバラは堂々としていて、立派だった。
美しかった。
恋い焦がれるように、心を奪われた。
後ろから、どんどん人がやってくる。
いつまでもそこで立ち止まっているわけにはいかない。
場所を譲り、先へ進んだ。
そのあと見たバラたちも見事だったが、ビル群を突き抜けていたあのバラが、
やっぱり一番美しかった。
今年も、秋バラの季節がやってきた。
いま咲き誇っているのは、あの時とは違う花だろうか。
いいやきっと、同じ花が咲いている。
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