悪役令嬢学園無双~3人のオッサンがゆく!~

中谷 獏天

序章。

 時は1XXX年、世界は魔王によって引き裂かれた。

 大地は割れ、全ての神聖が影を潜めたかの様に見えた。

 だが、神々はまだ見捨ててはいなかった。




 激しく高鳴る弦楽器の音が鳴り響いたかの様な、衝撃的な王命を受けた。


 《学園なるモノを作れ》


 一介の地方領主だった私に安全になった土地を有効活用すべく、学園なるモノをつくれ、と。

 急遽呼び出され、まさか良く分からない事を言い付けられるとは。

 私は、何かマズい事をしてしまったんだろうか。


「あの」

『補佐はコチラの、アナタの旧友が務める事になります』


 地方に出ていた筈の幼馴染のギャレットが、何故。


『いや、うん、ごめん。事情は追々話すから』


 そうして久し振りにギャレットと対面したかと思うと、直ぐに下がる様にと命じられ。

 なんだ、一緒に処刑される様な事は何も、いや、あれは12才の時に。


《コチラへどうぞトリスタン・ラッセル伯爵、ギャレット・スミス準男爵》


 私の好物ばかり、これは本当に処刑前の最後の晩餐なのでは。


「これは、どういうことだろうか」

『長旅で食事も取らずに謁見したって聞いてるし、先ずは食事をしようよ』


「いや、話が先だ」

『じゃあ、うん、少し下がって貰えるかな』

《では、失礼致します》


「で」

『いや、先ずはリラックスしてよ、これから大変になるんだから。本当に長い話になるから、スープでも飲みながら聞いて欲しいんだけど』


「これは、最後の晩餐では無いんだな?」

『勿論だよ、うん、どうぞ』




 幼馴染のギャレットが云うには、彼は明と言う時代から来た転生者なるものだそうで、影ながらこの国の王を支えていたらしいが。


「君は一体何を言っているんだ」

『そうなるよね、うん』


「いや、うん、そう冗談を言う意味を考えさせて欲しい」

『いや、冗談じゃ無いんだ。私も最初は冗談だと思っていたよ、元は宮女と呼ばれる王宮で雑務をこなす下っ端の娘で、そこで些細な失敗で罰せられて死んで、気が付いたらココに生まれ変わっていたんだ』


「小説家にでもなる気か?」

『それも少しは考えたけれど、それで食えるワケが無いだろう。こんな突拍子も無い話が売れても、字の読める資産家のお抱えになる程度で全く楽しく無さそうだし』


「それで、それか、学の園か」

『うん、話が早くて助かるよ』


「いや、お前の話に合わせたとして……お前の本を広める為に学ばせるのか?」

『偶に君の方が思考が飛ぶよね』


「お前の話よりはマシだろう」

『まぁ、そうだけど。兎に角だよ、昨今の魔女狩りだよ、王が困ってる』


「ほう」

『娘さんが魔女狩りの標的になっている性質を持っているんだ』


「ほう、どんな性質なんだ?」

『あぁ、まだ君の方は汚染されて無いんだね』


「で」

『雷電と治癒、時には生き物を蘇生させてしまう』


「便利だな」

『そうなんだよ。でも私みたいな人間が、転生者と転移者なる者が居て、人間の為にはならない、神の領域に踏み込んだ冒涜者だと言って排そうとしているんだ』


「ほう、どう為にならないんだ?」

『君は今はどう怪我を治してる?』


「殆どは教会と教会の薬で治している、骨折は治せても切断された人体の修復は最近だと手術だな」

『なら病気は?』


「あぁ、薬だが、万能では無いからと年間の死者数は」

『それすらも治せる可能性が有るらしいんだ』


「何処までが冗談なんだ」

『残念な事に全部が本当なんだよ』


「で」

『公女様が14才になるまでに学園を完成させたいんだ。最近の隣国では社交界が開かれる様になって、それが14才から、でも学園に通い学んでいるとなれば社交界に出す機会は減らせる筈で、その間にご成婚となれば彼女を守れる』


「お幾つだったろうか、公女様は」

『3つだね、話し始めて可愛いんだぁ』


「は、残り11年しか無いのか」

『勿論、情勢によってはもっと早い年齢からの学習でも良いんだ。読み書きが行き届けば、もしかしたら隠す必要も無くなるかもだし』


「な、なら最少年齢の設定ははどうする気だ」

『向こうだったら才能が有れば、10~15才以下は童子科へ入れて、国の士官の試験も受けられるけど』


「ご成婚となるなら出会いは早い方が良いだろうが、それでもだ」

『どれだけの年齢で勉強出来る方か、だよね』


「本当に作らせる気なのか?」

『勿論、だって君の子供がバカより頭が良い方が良いでしょ?』


「だが、女子に勉学をさせるのは」

『何が問題なの?バカは嫌いでしょ?』


「だが」

『そも私の生まれる前の性別は女だよ?今の性別は男だけれど、何の問題が有るの?』


「そうは言うが」

『もっと遠くの国では殆どの国民が字を読めているのに、ココが遅れてしまったら取り残されて蹂躙されてしまうかも知れないんだ、寧ろ自衛だと思って欲しいね』


「そう王を説得したのか」

『君よりはもっと簡単に説得されてくれたよ、本当に転生者だと信じてくれてるからね』


「いつからなんだ」

『最初は違和感。知ってる何かと違うとは分かるんだけれど、それが何かなのは分からないままで、大きくなるにつれて明確に違いが分かってきた。物を知って初めて分かる感覚なのだけど、そうだな、勉強して無い言葉は何を言ってるか分からないだろう?そう異国の言葉を聞いて、他とは違うんだって分かった感じなんだ』


「だからいつからなんだ」

『6才にはもう自覚してて、異常だと思ったから周りに合わせていたんだけど。どうしても前世の記憶を役に立てたくなってしまって、こうなった。前の私は良く薬師の先生の家に出入りしていて、字もそこで学べたから医師になれると勝手に思っていたんだけれど、女だから成れないと言われて悔しかった。ココで言う魔女の様な事が出来るんだけれど、それの正しさを証明する為に医師になって、王に認められて、今ココ』


「お前、医者だったのか。薬草の研究者だとしか言って無かっただろう」

『だって医者だなんて言ったら毎日怯えられるか誰かの愚痴を聞くかだし、休暇にはちゃんと休みたかったし。教会も有ったしね』


「あぁ、で」

『で、そうだな、6才位から学べる場所を作って、それから14才頃の子供が入る学園に繋げようと思う』


「で」

『で、先ずは君の領地で試して、そのまま上手く行けば学園をそこに作っちゃう』


「私を暇人か何かと勘違いしていないか?」

『ココから人材を引き抜けるし、資金提供も有るよ』


「ただし、公女の事も真意も内密に、だろう」

『うん、王命だし、頑張ろうね』


 俺をずっと騙していたのか、ギャレット。

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