『メリバ』ではなく ハッピーエンドを希望します

海波 遼

第1話 『薔薇の王国《ロドン》』旅行指南本より


 ロドン王国。この国は美しい薔薇の花が咲き乱れ、『薔薇の王国』と異名を持つ国です。

 どの季節に来ても、色とりどりの美しい薔薇があなたを出迎えます。

 しかし、さまざまな色の薔薇はあれど、白い薔薇は一本もありません。

 あなたたちは当然、疑問に思うでしょう。

 しかし、白い薔薇がないのかときいてもいけません。

 この国にとって、なのです。


 少し昔の話をしましょう。

 この国には美しい白亜の城があり、青薔薇を携える賢き王と、三人の子供が住んでいました。


 一人目の子供である王子は橙薔薇を携え、騎士団を率いる勇敢な王子です。

 『剣人クシウス』も貴族も平等に接する彼は、ぐんぐんと実力をつけていき、ついには王子でありながら騎士団長にまでのぼりつめました。


 二人目の子供である第一王女は黄薔薇を携え、薔薇のように美しい王女です。

 母である妃に似て美しい王女は、瞬く間に社交界や外交界の花となりました。


 三人目の子供である第二王女は白薔薇を携え、誰からも愛される王女です。

 誰からも愛される王女は、瞬く間に国民や騎士たちに愛される王女となりました。


 王たちは民を愛し、『剣人クシウス』をも平等に愛しました。

 そして、民も『剣人クシウス』もまた彼らを敬い愛しました。

 お互いを愛することを知る『薔薇の王国』はとても平和で美しい王国だったのです。


 しかし、王の死後、それは一変しました。

 国中に闇の化身である黒い茨が現れたのです。


 それもそのはずです。

 王の死後、王国の政治はひどいものになり、貧困や飢えから闇へと落ちる人が増えたのが原因でした。


 その原因は、白い薔薇を携えた第二王女でした。

 彼女は父がいないこといいことに、豪遊し、人を誘惑し、思い通りに動かして国を衰退させていたのです。


 命からがら第二王女のいる城から逃げ出してきた王子と第一王女は民たちに真実をつげました。

 二人の話を聞いた国民や『剣人クシウス』は怒りました。

 美しかった国を穢したことも、自分たちをだましたことも、魔法をかけていたことも、許せませんでした。


 国の人々は第一王子と第一王女を軸に立ち上がりました。

 魔女である第二王女の討伐隊をつくり、白亜の城を包囲したのです。

 第二王女を守る人など誰もいません。

 第二王女はあっけなく捕まると、騎士の一人に胸を貫かれて息絶えました。


 そうして王国には平和が戻り、白薔薇は魔女の証として忌み嫌われることとなりました。

 城を彩った白薔薇は焼き払われ、第二王女は最悪の魔女として語り継がれることになったのでした。



 これでこの国には白い薔薇がない理由を理解されたでしょう。

 くれぐれも、旅人のあなたは白薔薇を身に着けることなどないように。

 三百年ぶりに開催される各国が集まっての『聖人召喚の儀』を前に、魔女の手先だと思われては大変です。


 それでは、美しい薔薇が咲き乱れる『薔薇の王国ロドン』にてよい旅路を。



 ――『薔薇の王国ロドン』旅行指南本より抜粋


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