第33話


 やっぱり我が家はいいね……正確には王都の歓楽街にある男娼館なんだけど、それでも自分の居場所に帰ってきた感があって落ち着くんだよ。


 帰りもシエラさんたちの馬車にお邪魔したのはいいんだけど、みんな俺を信用しているのか、それとも男として見ていないのか、行きよりも薄着でくつろいでいたんだよね。


 砦での疲れなのか、シエラさんたちに疲れの色が見えたからケアスキル+お肌のケアをしてあげたからサービスしてくれたのかな? 


 まあ、考えるまでもなく、行きに立ち寄った村でも一緒の部屋に寝泊まりしたから、男として見られていなかったのだろうね。


 その村ではやはりお客様はとれなかったけど、いつの間にかぐっすり眠っていて、起きた時は身体はスッキリしていい感じだったんだよね。

 今に思えば、あの村には何かの(身体に良い)加護があるんじゃないだろうかと思う。


 俺の癒し担当になってくれたお馬のホーやスーたちとも仲良くなれたし、たまに遠出もいいもんだ。機会があればまた行きたい。


 レイラさんとアンナさんにはあれ(先生も交ざって仲良くした日)からまだ会えてないから寂しさもあるけど、なんと、街の男娼館にも俺が使えるボックス席が出来ていたんだよ。


 9人くらいは余裕で、詰めれば12人は座れそうな立派なボックス席。

 シゲさんに前もって聞いていなかったら、うれしくて泣いていたと思う。


 しかも、少し引っ込んでいる辺りを増改築し作ってくれたらしく、隠れ部屋っぽくなっていて、すぐに気に入ってしまった。


 ただ、少し戸惑うというか、申し訳ないと思う事もあって……それは、なぜか分からないけど俺専用の奥の部屋も増築されていたんだよ。


 みんなより使う機会が少ないのにってね。でも、その考えは杞憂だったんだ。


 今回の改修でみんなも俺と同じく専用の奥の部屋が作られていたんだ。


 内装は自分色に好きに手を加えていいそうなので、居残り組の奥部屋はすでに面白い事になっていたよ。

 出張組と俺の部屋の内装はシンプルなままなので、早めに女性から好まれる部屋にしたいところだね……


 レイラさんとアンナさんが来館してくれた時にでもちょっと聞いてみようかな……どんな部屋が好みなのか。


 そんな事を考えながら、俺の敷地内にある(ロックスキルで作った)遊具に壊れている所がないか確認して回っていると、


「あ〜、ごろーいた! あ〜そ〜ぼっ」


 懐かしい子どもの声が後ろから聞こえてきた。


「ただいまリリちゃん」


 元気いっぱいのリリちゃんがこちらに駆けてくる。


 新しい子が何人か増えたらしいけど特別気にするような事はなかったとルークさんから聞いてはいたけど、実際に元気な姿を見ると安心するね。


「ごろ〜とあそぶ〜」


「いいぞ今日は何して遊びたい?」


「しゅべりだい!」


「あはは。リリちゃんは滑り台好きだもんな。いいぞ」


「あ〜ごろ〜だ。あたちもあそぶ」


「お? カナちゃん、ただいま」


 俺の両脚にしがみついているリリちゃんとカナちゃんの頭を撫でいると、他の子どもたちの姿も目に入る。


「あ〜! あたちもあぞぶ」


「うわぁ、ごろ〜だ。ぼくも〜なかまにいれて」


「いいぞ〜。よーし、みんなで遊ぼうな」


 次々と子どもたちが集まり俺の敷地はあっという間に賑やかになった。


「はやく〜しゅべりたいいこ」


「はは、そうだね。いこうか」


 ——ん?


 ここにいるほとんどの子たちは快楽街で働いている人たち(娼婦)の子どもだが、最近では快楽街の近くに住んでいる子どもたちも来ている気がする。

 

 出会った当初は、髪はボサボサで服もぼろぼろ。食事も満足にとれていなかったのかガリガリで不健康そのものだった。


 俺がクリーンスキルで全身を綺麗にしてケアで病気を治して、リペアでボロボロだった服の解れを直し、小麦粉と卵だけで全然甘くないパンケーキもどきを作って食べさせてやったら、あっという間に懐かれてしまった経緯があるけど、新たにボロボロの服を着ている子どもを6人ほど発見。


 ——あの子たちがルークさんが言っていた新しい子かな?


 俺に怒られるとでも思っているのか、ロックスキルで作った遊具の陰から顔を覗かせたままこちらの様子を窺っている感じだね。


「みんなちょっと待っててね。君たちもこっちにおいで。いっしょに遊ぼう」


 と誘ってみたものの、俺を警戒しているらしく遊具の陰から出てくる気配がない。


「えっと……」


 まあ、こんな時は俺のトーク力……はないので、


「じゃじゃーん」


 必殺のお菓子を取り出すんだ。


「これはペロちゃんという甘いお菓子だよ。食べる?」


 パンケーキもどきはもう少ししてから食べるとして、今はベッコウ飴(10円玉サイズの平べったい飴に爪楊枝を差している)を差し出す。


 これは砂糖と水で簡単に作るれからね。


 こっちの世界に来て焼き菓子(かなり高い)や砂糖菓子(かなり高い)は見たことあったけど飴玉は見た事なかったから、ふと、小学生の頃に作ったベッコウ飴の事を思い出したので作ってみたんだ


 なかなかうまくできたと思うけど、砂糖がかなり高いから、1人1個食べれるくらいの量しか作れなかったのが地味に悲しいところ……


「ん」


 ベッコウ飴だけ取られて逃げられたけど、なんなら、隠れている子どもの分(5個)までもちゃっかり持っていかれたけど、俺は気にしないよ。


「しょれなに?」


「ペロちゃんだよ。甘いお菓子」


「たべたい!」


 どうせ他の子たちが群がって来てそれどころじゃなくなるからね。


「うわ、あまぃ」


「うまぁ」


「おいちぃ」


 みんなにケア、クリーン、リペアをしながら(定期的にかけてやっている)渡し終えた時には、警戒心もとれて向こうから近づいてくれたりなんてこともあったりするからね……


 ——お?


 早速、俺の服をつんつんと引っ張る存在が……


「ん」


 ——よし。


 そちらに顔を向ければ案の定、先ほど飴を持って逃げた子どもがすぐ側にいたのでしゃがんで目線を合わせる。


「どうした?」


「もっと」


——おうふ。そうきたか。


「……。えっと、ごめんな。ペロちゃんはもうないんだけど、パンケーキがあるから後でみんなと食べような」


 と言いつつ汚れていて病にも冒されているようだったので、他の子と同じようにケアをしてからクリーンやリペアを使ってやれば、隠れていた他の子どもたちも不思議そうな顔をしながら近づいてきた。


 心の中でガッツポーズをしながら、同じようにその子たちにもケア、クリーン、リペアをかけてやる。


「ごろ、すごいひと?」


 身綺麗になった女の子(男の子と思ったら女の子だった)が驚いた顔をして、そんな事を言ってきた。


「ん〜どうだろうね」


 子ども相手に自慢する事でもないので、とぼけて話をさっさと終わらせることにする。


「そうだよ、ごろーはすゅごいんだよ」


 俺と話すよりも、子ども同士仲良くしてほしいからね。


「あれであそぶ」

「おれも」

「いこ」


 子どもたちが次々と遊具で遊び始めたのでベッコウ飴で使っていた爪楊枝を慌てて回収する。爪楊枝持ってて転けたら危ないからね。


「あれ?」


「ごろーはやくあそぼ」


「あそぶよ」


「ん」


 リリちゃんとカナちゃん、それに新しい子、ニナちゃんと言うらしいんだけど、3人は俺と遊びたかったらしく俺の事を待っていたので、仲良く滑り台を滑った後に、おままごとまで付き合うハメになった。


「はい、あなた、どうじょ」

「ごろ、たべる」

「ん」


 小さな石ころを手渡されるだけのおままごと。


「ありがとうね。いただきます。ぱくぱく、あーおいしい」


 食べた振りをして小石をポーチスキルに隠す。


「はい、おかわり」

「どうじょ」

「ん」


 何度か同じやり取りを繰り返していても、ちょっとずつ飽きてくるだろうと思い、


「わあ」

「すごい」

「おお」


 小さな食器セットをロックスキルで作ってやったら大喜びされたよ。


————

——


「えっと、リットさんいらっしゃいませ?」


 俺は今、非常に戸惑っている。


「ゴロー、また来てやったわよ。こちらにかけても?」


 口を開く前に、俺のボックス席の方まで歩き腰掛ける二十代くらいの綺麗な女性。

 以前一度だけ来てくれたことのある女性で、俺はどこかのご令嬢(貴族)だと思っている人だ。


「なかなかいいじゃない。ゴロー、いつものもらえるかしら?」


「はい、喜んで」


 反射的にそう返事したけど、リットさんは2回目で、いつものって……なに?


 とりあえず前回と同じようにエールに氷の花びらを入れて、ドキドキしながらお嬢様の前に置いてみる。


「ふふ」


 リットさんは氷の花びらを眺めながら嬉しそうに飲み始めた。

 どうやら氷の花びら入りのエールで正解だったらしい。


 おつまみを出して、エールを3杯くらい飲んだらリットさんはさらに上機嫌になり、ウチの店でも高いワインっぽいお酒を注文してくれた。これはありがたい。


 ——ん?


 またしてもリットさんに変なモヤ(俺が勝手そう呼んでいる)? がまとわりついていたので、それはサクッと消しておく。


「ゴロー、とてもおいしいかったわ」


「ありがとうございます」


 さすがに今日はお帰りになるだろうと思ったのに、


「奥に行きましょうか」


 なんでだよ。


「何、変な顔をしているの。前にも言ったと思うけど私、これでも忙しくて時間がないの」


「は、はい」


「ん〜少しシンプルすぎたかしら?」


「あ、す、すみません。俺にはもったいないくらいでこのままでも気に入っているんですけど、みなさんの意見を聞いて、少しずつ手を入れていきたいと思っているところです。はい」


「そう……」


 それから案の定というか、俺は土下座をすることになった。

 リットさんは今回も初めてだったんだよ。正確には2回目だけど、ケアで治したからね。


「すみません、すみません。ほんとすみません」


 必死に謝りクリーンとケアを使ってえちえちする前の状態に素早く戻したよ。


 もちろん、お肌は来る前よりも最高の状態に仕上げる。

 それくらいしとかないと前回はしてくれたのに……と機嫌を悪くされても困るというか、後が怖い。


「いつも気を遣わせて悪いわね」


「いえ、とんでもないです」


 危うく、もっと自分の身体を大切にしてくださいと言いそうになったけど、どうにか呑み込む。


「ふふ」


 ありがたいのが、自分のお肌の状態に満足してくれたのか、とても機嫌が良さそうってことかな。

 貴族のお嬢様だけど、案外お肌を綺麗に仕上げていたらえちえちしても大丈夫な人なのかな?


 ……って、ダメダメ、ここで気を抜いて失礼な事をしたら大変な事になる。貴族ってそんなイメージだから。


「今日はありがとうございました」


 そう言ってもう一度丁寧に頭を下げて謝罪する。


「ゴロー、何度も頭を下げなくてもいいわよ。それよりも、今日は楽しかったわ。また来るわね」


「へ、あ、はい。お待ちしております」


 そんな言葉(社交辞令)を残してリットさんは奥の部屋を出て行った。


 ——……あ、お見送り。


 すぐに追いかけたけど、リットさんの姿はどこにもない。


「あれ?」


 不思議に思い、男娼館の外まで出てみれば立派な馬車が遠くに見えた。


「あれがリットさんの馬車って事は……ないか」


 こっそり来るなら質素な馬車を使うだろうからね。不思議に思いつつも俺は店内に戻った。

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