第13話 2章

 マホマホ王国


「陛下お戻りでしたか。キリリ神聖王国がまた抗議文を……」


 日頃の鬱憤を後宮で発散して、清々しい気分で執務室に戻れば浮かない顔をした宰相が入室してくる。


「なんだ。また世界各地で起こっている魔物の被害が我が国が勇者召喚をした所為だと申しているのか。ふん、バカバカしい」


「……それが今まで見た事もない魔物らしいのですが、その魔物はちょうど勇者召喚の儀を行った後から各地で目撃されるようなったそうでして……はい」


「こじつけであろう。現に我が国ではそういった被害は出ておらん。おおかた召喚されし者たちを各国に派遣しろと言い、我が国から召喚されし者を奪い取るのが目的であろう。やつらの魂胆などみえみえよ」


「その可能性はなくもありませぬが……」


「捨て置け」


 そのあまりにも身勝手な内容に清々しい気分もどこかへ吹き飛び、自分でと眉間に皺が寄るのを感じた。


「しかし陛下。抗議文はキリリ神聖王国のものだけではなくネチネチ帝国などの被害が出ている各国から届いておりまして……はい」


「はぁ、お前がそのような物言いをする時は何やら考えている時であろう。で、なんだ、早う申すがよい」


「では、申し上げます。私は派遣を口実に邪魔なキョウシの女を追い出してはどうかと愚考します」


「うーむ。たしかに女どもはキョウシの女を中心にまとまっておるからの、邪魔ではある。だが、キョウシの女のみを派遣は無理であろう」


「はい。ですので我が国内の地方に派遣するのです。名目は魔物の調査。4、5人ほどメンバーを選んでもらえば警戒も薄れるでしょう。もちろんキリリ神聖王国にも状況を確認するとでも文を送り時間を稼いでおきましょう」


「ふむ。しかしのぉ。あの女が素直に従うとも思えんのだが」


「陛下。褒美には魔力が0だったクズの情報をチラつかせればいいのですよ。捜索依頼をしつこく言ってきていましたからね。間違いなく引き受けるはずです。

 そして、そのスキに他の女をこちら側に取り込むのですよ」


「ふむ。たしかに、それなら悪くないな。しかし、バカな女だ。クズは隣国(ホクホク王国)で冒険者に買われた後、荷物持ちとしてダンジョンに入りすでに亡くなっているいうのにの」


「はい。クズは所詮クズだということが証明されましたな陛下」


「うむ。世の中魔力量が全てよ」

 

「はい。陛下、それともう一つ、キョウシの女には護衛騎士をつけてはどうでしょう。護衛騎士でキョウシの女を囲い、周りから孤立するように仕向けるのです。

 そうすれば、キョウシの女と共に行動していた残りの者もこちら側に取り込み易くなりましょう。 

 もちろん邪魔なキョウシの女も屋敷を与えた後、何らかの罪をでっち上げて奴隷に堕としてしまえば、あとは陛下のお望みのまま。それで全て丸くおさまります」


「うむ……悪くないな、さすがは宰相。あとの事は頼むぞ」


「はい。お任せください」


————

——


 冒険者の格好をした複数人が、ダンジョンの、ある一室で合流し、ある画面を見ながら顔色を暗くする。

 それはある生徒が遠影スキル使って映し出したものだった。


「……ぃ、いや〜、アイツらまた頭の悪い相談してたなぁ……バレバレだったっつうのにバカだよな、先生もあんな依頼受けたらダメだぜ……あははぁ……ぁぁ、ごめん」


 日課となりつつある遠影スキルでの敵情視察。

 しかし、この日は奴隷商に売られていった用務員のその後をたまたま知り、誰も彼もが表情を暗くしていた。


「……あの用務員亡くなったんだな」


 売られていく姿があまりにも滑稽で笑って見送った生徒はたくさんいる。

 しかしそれは、自分もどうなるか分からない不安の中、明らかに自分よりも不幸になりそうな人を見て安心したかっただけで、このような結果を望んでいた訳ではなかった。


「……そうみたい」


「……し、仕方ないだろ。あの時は俺たちも自分の事でいっぱいいっぱいだったワケだし。ぁ、アヤ先生もそうですよね?」


「……私は……、私は……なんで、どうしてもっと早くから抗議しなかったのか。脅してでも連れ戻すよう交渉しなかったのか。その考えに至らなかった自分が許せません」


「せ、先生。あまり自分を責めないで下さい。先生は私たちの矢面に立ち一生懸命守ってくれてたじゃないですか」


「そうです。突然こんな世界に来たけど、先生がみんなを励ましてくれていたから誰一人病むことなく、今もこうして活動できているんですよ」


「そうですよ先生。先生がいなかったら、僕たちは仲のいいグループに別れて別々に行動していたはずです」


 普段は仲のいい者同士、グループで行動しているから余計にそう思うのだ。


「でも、私がもっと……」


「先生、悔やむのはいいですが、今は、これからの事をどうにかしないとまずいでしょう」


「カズキっ、そんな言い方はないだろ」


「ハヤト、いいかよく考えろ。今聞いた話では世界各地で魔物の被害が増えているらしいんだぞ。俺たち、どこに逃げようってんだ」


 カズキの言葉を聞き皆がハッとした表情をする。

 たしかに冒険者の真似事をして魔法やスキルにも慣れ、ある一定の強さは手に入れている。

 だが皆が皆、魔物と戦いたいと思っている訳ではない。


 人を見れば容赦なく襲いかかってくる魔物は怖い。

 せめて、身体能力が上がるようなレベルという概念があればまだ良かったのだが、そんな都合の良いものはなく、油断すればすぐに大ケガをする。

 それに、アニメやゲームと違い現実世界での殺生は精神的にくるものがあるのだ。


「まずこの国にずっと住み続けるなんて考えはねぇとして、かと言って大国らしいキリリ神聖王国とネチネチ帝国はイマイチ信用できねぇぞ。

 特にネチネチ帝国はよく戦争を起こす国らしいからその付近の国に行っても巻き込まれる可能性がある」


 あからさまに情報を集めていると監視の目に怪しまれてしまうので、みんなで話し合い、冒険者ギルドに併設されている食堂で食事をとりながら聞き耳を立てる事で彼らは情報を得ていた。


「俺からもいいか? 気配察知のスキルに慣れてきた今だから分かるが、俺たちはこの国の連中だけじゃなく、色々な国から監視されてるっぽいのよ。下手をしたらすでに計画がバレている。

 無事この国から脱出したとしても、他国に入国すると同時に捕えられる可能性もあるとも考えておいてくれ」


「え、それマジ?」


「マジだ。俺はウソはすかん」


「じゃあ、今のところ自由に行動できているこの国の方がマシって事?」


「アイツらの話聞いていたろ? 時間の問題だ。

 俺としては移動系のスキルを持っているヤツが何人かいただろ、それをうまく使えないかと考えている」


「なるほど……」


「うーん。これはもう一度慎重になるべきか。でもそうすると先生が……あ、先生は魔物の調査は断ってくださいね」


「ええ。それが良さそうね」


「はい。で、とりあえず今ハッキリしているのが、マサルたちのグループはもうダメってことだったよな?」


「アイツら、なんか専属メイドを5人から10人に増やして最近はなかなか部屋からも出てこねぇんだろ?」


「ああ、何度か部屋に行ってやっと話せたって感じでさ、僕たちがこの国から出ていこうとしている事を伏せて話してみたけど、邪魔するなってすごい形相で睨まれたよ。

 たぶん、マサルたちはこの城から出ていく事は考えていないよ」


 トモヤはそう言いながらも先生の反応が気になるらしくチラチラと先生の方に視線を向ける。


「そう、なの? でもちょっとだけ待ってくれないかしら。先生からもう一度話をしてみようと思うの」


 あんな話(用務員さんの話)を聞いた後だからだろう、生徒を見捨てるようなマネはしたくないと先生が首を振る。


「先生、やめた方がいいって」


「私もそう思う。アイツら最近は女子に対しても変な目で見て来てキモいんだよ」


「うん。ウチも胸の辺りをジロジロ見られてキモかった」


「だからなのよ。生徒をこんな淫らな環境に置いて行くことなんてできないわ」


 こうなってしまった先生は誰にも止める事ができず、結局女子生徒が数人付き添う形で話に行くという話になったその時、生徒の1人が慌てた様子で姿をあらわす。


「先生! みんな! サヤカいるか! サヤカ! イツキとテツロウがヤバイんだ」


 回復魔法を使える生徒は数人いるが、効果アップスキルのあるサヤカの回復魔法が1番効果が高かった。


「ユウヤ?」

「え、マジで」

「何があった!?」


「説明は後だ。とにかく来てくれ!」


「ちょ、きゃっ、どこ触ってんのよ」


「マジすまん。ほんとヤバイんだって、ちょっとだけ我慢してくれ」


 小柄なサヤカを背負ったユウヤの姿がブレると、一瞬で姿を消した。空間魔法の空間移動を使ったのだ。移動する人数が増えるほど魔力の消費が高くなるが、移動できる距離が短く勝手の悪い魔法だが、魔力量の多い召喚されし者にとっては便利な魔法でしかない。


 数分で彼らの元に移動するが横たわっている2人の姿にサヤカは思わず顔を背けるが、


「サヤカ早く頼む」


「わ、分かってるって」


 すぐに気持ちを奮い立たせて彼らに目を向ける。


「ひ、酷い」


 四肢があらぬ方向に折れ曲がり一目見ただけで瀕死の重症だと分かる。今にも止まりそうな息遣いにサヤカはすぐに回復魔法を発動する。


「頼む、頼むぞ」


 魔法の特性上、連絡係として利用されるユウヤ。

 時間になっても戻って来ない2人に、交代の時間だと告げるために、魔法の練習(みんな使う)で使う森の中の開けた場所に向かったのだが、そこで倒れている2人を発見した。


 すぐにヤバイと判断してサヤカを急いで呼びに行った。


 サヤカは魔力を半分以上消費したところで回復魔法をやめてホッと息を吐き出す。


「もう大丈夫よ」


 どうにか一命を取り留めた2人から黒い影の魔物の事を聞きサヤカとユウヤは青ざめることになる。


 いつものように魔法の練習をしていた2人が、的の近くに黒い影の魔物が現れ警戒したその時、その魔物の目の辺りが赤く光った瞬間、突然、自分の影が立ち上がり襲いかかってきたのだと言う。

 しかも自分たちが使う念動魔法が使えたというのだ。


 自分の影にやられたので倒していないのは確か、それでいてユウヤが来た時にはすでにいなかったと言うのだから、サヤカとユウヤはすぐに辺りを見渡し恐怖で怯える。


 それから自分の影を失い(魔力量も半分)ショックを隠せていない2人を慰めつつも、その場から逃げるように先生たちのところに空間移動する4人だった。


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