ヌードを描く天才と、脱ぎたがり美少女が手を組んだら。

春一

第0話 昔の話

 女性の裸が世界で最も美しいと思うことは、何かいけないことなのだろうか?


 まだ小学三年生の頃の話。

 マンガ雑誌に出てくる女の子のヌードシーンを模写していたら、母親から『そんないやらしいものを描くな』と怒られた。

 当時の俺は、いやらしい、の意味がよくわかっていなかった。単純に綺麗だと思ったから描いていただけなのに、大人からすると何かいけないことであるらしい。

 納得はしていなかったけれど、怒られるのは嫌だったので、人前でそういうのを描くのはやめた。

 人前では描かなかったけれど、やっぱり好きではあったので、一人でひっそりと描き続けていた。


 小学校の高学年に上がる頃には、母親の言っていた『いやらしい』の意味も理解できるようになっていた。周りでも、女の子の裸に興味を持つのはいけないことだという空気があって、俺は一層、自分の好きなものを隠すようになった。

 それでも、ずっと描き続けてはいた。

 女性のヌードに対する性的なニュアンスを理解しながらも、やっぱりとても美しくて尊いものだという認識があって、描かずにはいられなかった。

 なお、描き始めた当初はイラスト系の絵だったが、だんだん、リアルな美術系の絵を描くようになっていた。そっちの方が好みだった。


 高校生になると、多少は周りの認識も変わったと思う。男子なら、女性の裸に興味があって当たり前、絵を描ける奴なら何かしらそういうのを描いている、それが普通。

 かといって、共学の環境で、大々的に『自分、女性のヌードを描きまくってます』などと宣言する気にはなれなかった。男友達にも、あえてそんなことを言おうとも思わなかった。どうせ、からかわれるだけだとわかっていた。


 ネット上で発表することも考えた。しかし、何かいけないことをしているような気分にもなって、結局ネットに上げることはなかった。


 そんな中で、俺は水澄灯子みなずみとうこ先生に出会った。

 水澄先生は美術の先生であり、俺も所属する美術部の顧問。自身を永遠の二十二歳と言ってはばからない、風変わりな女性だ。

 俺が高校に入学し、美術部に入った当初から、水澄先生は他の大人と少し違った雰囲気を持っていた。常識の枠から外れているような、規格外の何かを感じたのだ。


 ただ、だからって、水澄先生に俺が普段描いているヌード絵を見せようとは思わなかった。学校でそういうのをさらしてはいけないのだと思っていたのだ。

 その認識が少し変わったのは、俺が高校一年生の時の、夏休み前。美術部の先輩が、水澄先生とヌードデッサンについて話しているのを聞いたとき。

 その先輩は美大志望で、予備校でヌードデッサンをやったそうだ。

 ごく平然と女性のヌードがどうのこうのという話をしていて、ここではそういうのもありなのだ、と気づいた。


 そして。

 水澄先生と二人きりになれるタイミングで、俺は自分が描いているヌード絵を見せた。

 引かれるだろうか、と心配していたのだけれど、水澄先生はむしろ俺の絵を見て実に楽しそうだった。


色葉いろは君。君は、ヌードを描く天才だね。素晴らしいよ」


 初めて、他人に自分の絵が評価された。本当の自分を、受け入れてもらえた。

 それが心底嬉しくて、気を抜くと涙がこぼれそうだった。

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