第42レポート いでよ!大戦鬼!【終結】

血しぶきが飛ぶ。

バラバラに吹き飛ばされた四肢ししが転がる。


炸裂した魔法が大気を揺らし、爆風に瓦礫が舞った。

大戦鬼の群れをぎ払い、無人のくがごとく、ゼンを先頭に突き進む。


あれほど苦戦をいられた大戦鬼の群れが、まるで紙切れのように消し飛んでいた。


「う、うわぁ・・・・・・めちゃくちゃだぁ・・・・・・。」


賢者たちを追いながら、ジルはその光景に唖然あぜんとする。

ザジム達も同じだった。


「はっはっは、相変わらず滅茶苦茶だねぇ。我々の出番が無いじゃないか。」

「彼一人でも十分だったかもしれませんね。」

「無駄口を叩くならば働いたらどうだ。」

御免被ごめんこうむるよ、巻き込まれたくは無いからねぇ。」

「チッ。」


そんなやり取りをしながらも、光弾を投げつけ大戦鬼の群れを吹き飛ばしていく。

大戦鬼が多い方へ多い方へと突き進む。


その先に、この騒動の元があるのだ。


「あれ?この方向って・・・・・・。」


ジルが何かに気付く。

この道はよく知っている。

他の皆も同じことを考えているようだ。


グオオォォォッ!!!


道を塞ぐように三十体ほどの大戦鬼が群れ、接近するジル達へ襲い掛かってくる。

これほどの数の強力な魔獣が一斉に襲ってくるなど、必死の状況である。


だが。


「邪魔だ。」


立ち止まり、大きく上体をひねり、右腕を後方に引く。

魔力を腕に通わせ、強く握った拳に集める。

猛烈な魔力の奔流ほんりゅうが大気を震わせる。


「ああ、キミたち、気を付けたまえよ?」

「え?」


ゲルタルクの言葉にジルは訳が分からず首をかしげる。

その時だった。


「ぬぅんっ!」


上体の力を使って前方へ剛腕を振り抜き、拳に集まった魔力を撃ち出した。

ゼンの筋骨隆々な肉体の力も相まって、凄まじい速度で大戦鬼の群れに飛んでいく。


ズッッッッッドオオオオォォォォォッッッン!!!!!!!


もはや竜巻のような爆風。

大戦鬼の群れが微塵みじんに消し飛んだ。


「うひゃぁっ!!!」

「わっ、わわわっ!!」


体の軽いジルとベルが踏ん張ることが出来ずに爆風に体を浮かされ、飛ばされる。


「うおっ、と!!」


咄嗟にザジムが手を伸ばし、飛んで行こうとする二人の服の襟首えりくびを取っ捕まえた。

爆風が収まると、道を塞いでいた大戦鬼の群れは跡形も無くなっていた。


「行くぞ。」


ただ一言、当然のようにゼンは言う。

リドウは軽く笑い、ゲルタルクは肩をすくめる。

微笑むエルカに対して、ジル達は疲れた顔でゼンを見ていた。




何度目かの襲撃と爆撃。


たどり着いた場所は訓練場だった。

いつも見知ったその場所の奥には黒い大きな渦。


渦の中から次々と大戦鬼が這い出して来る。


「これ以上、街に入られると面倒ですね。」


リドウは右手を胸の前に持ってきて魔力を込め、上に軽く投げるように散らす。

訓練場の広い間口を囲むようにドーム状の結界が発生した。


これで渦から出てきた大戦鬼が街へと出る事は出来なくなる。


若人わこうどたちを守るために言っておきますが、結界によって空間が閉じています。」


微笑みながらリドウはゼンに告げる。


「爆発の衝撃が逃げないので、大規模な爆破はしないで下さいね。」

「チッ、面倒だな。」


リドウの言葉に不満げに返した。

ゼンはヤル気だったようだ。

ゲルタルクが腹を抱えて笑っている。


グオオォォォッ!!!


大戦鬼が吠える。

だが、今までのように突撃してこない。

ただ吠えるだけだ。


グオオォォォッ!!!


「チッ、やかましい。」


大戦鬼に向かって跳び、その顔面を右手で鷲掴わしづかみにする。

そのまま魔力を込め、炸裂させた。


ボパァンッ!


大戦鬼の顔面が木っ端微塵に吹き飛び、勢いのまま腕が振り抜かれる。

次の目標を捉え、再び跳躍する。


その時だった。


ズズズズズズ・・・・・・

グルルルルル・・・・・・

キチキチキチ・・・・・・


訓練場のあちらこちらに小さな黒い渦が発生し、そこから小型の魔獣がいてきた。

大戦鬼ほどの強力な魔獣ではなく、そこらの森や街道でも見かける魔獣ばかりだ。


だが、その数が桁違けたちがいに多い。


「やはりこうなりましたか。ゲルタルク、そちらは任せますよ。」

「ああ、任せたまえ。さあ、諸君、出番だよ。」


リドウは大戦鬼を蹴散らすゼンを追い、小型魔獣を排除して前へと進む。

ゲルタルクは戦闘態勢を取りつつ、ジル達をうながした。


「は、はい!いくよマカミ!」

(オウ!ゴシュジン!)


ジル達も戦闘態勢を取る。


ゲルタルクを先頭に、ロシェとザジム、ジルとベル、レンマとノグリスが背合わせ。

互いの背を守り、最後尾でエルカが守りを固める。


小型魔獣が一斉に襲い掛かってきた。


飛び掛かる狼の魔獣をロシェが巨腕で殴り飛ばした。


鹿の魔獣の突撃を受け止め、らし、ザジムは斧を振り下ろし打ち倒す。


蟷螂かまきりの魔獣の斬撃をかわしたノグリスの槍がその胴を薙ぎ払った。


呪符を操り蜥蜴とかげの魔獣の炎を防ぎ、レンマは刀を振るう。


うごめく粘体魔獣にエルカは手甲てっこうの青の魔石を起動し、魔力弾を撃ち消滅させた。


大量の魔獣をゲルタルクは笑いながら風の刃を作り出し、斬り刻む。


「撃てぇっ!!!」

「これでも喰らえっ!!!」


ジルの指示にマカミが燐火弾を撃ったと同時に、ベルが黒熱火球シュバルメフォイゲルを魔獣に放つ。


ボガァァァァンッ!!


炎が魔獣を包み、燃焼させ、灰に変える。


先へと進んだゼンとリドウは黒の渦へと近づいていく。


「ゼンさん、気付いているかとは思いますが・・・・・・。」

「ああ。魔術派の呪法だ。まだ残っていたとはな。」


ゼンの殴打と蹴りで大戦鬼の肉体がいびつにへし曲がり、倒れていく。

リドウの緑鎖りょくさがその場の大戦鬼の動きを止め、突き刺し、四散させる。


「さて、どう塞ぎます?」

「この程度、小細工はいらん。」


ゼンは両手に魔力を集中し、手が光に包まれる。

それを黒の渦の中心に勢いよく差し込んだ。


ズズン!


大きく訓練場が揺れる。

差し込んだ手を左右に開いていく。


バキバキバキ・・・・・・


本来、実体が無いはずの黒の渦にヒビが走る。

なおもゼンは力任せに渦を破っていく。


バギンッ!!


大きな割れるような音が響いた。

渦が左右に千切れ、そして消滅する。


それと同時に訓練場内部に現れた魔獣たちも消滅していく。


「お、終わった・・・・・・?」


ジルが消えた魔獣たちを見て、警戒しつつもつぶやいた。

街から響いていた戦いの音も消えていく。


そしてすぐに歓声が上がるのが聞こえる。


「皆さん、お疲れ様でした。」


リドウが奮戦したジル達に優しく声をかける。

その声を聴いてジル達は緊張の糸が切れて脱力してへたり込んだ。


「や、やったー・・・・・・。」

「ふ、ふふん、私にかかればこんなものぉ・・・・・・。」

「あー、流石にきつかったぜ。」

「疲れた。」

「ふぅ、終わったか。」

「ははは、全員無事で何よりですね。」


レンマはまだ余裕がありそうだが、それ以外は疲労困憊こんぱいの様子だ。


「みんな、本当にお疲れ様でした。」


エルカは満面の笑みで、語尾を弾ませてジル達に労いの声をかけた。




戦いが終わり、人々は被害状況の確認に入る。


研究者たちは奮戦し、一般人を守り切った。

重傷者は多く出た、だが魔法医学研究者たちの奮戦もあり、幸い死者は出なかった。


そして、ジル達も無事にこの戦いを乗り切った。


「メイユベール!!」

「シャル兄、どこ行ってたの!?大変だったのよ!!」

「いや、メイユベールを探してあちらこちらを探し回っていたのだが・・・・・・。」


ベルは不満をあらわにしながら、自らの兄弟子に詰め寄った。

エルカが仲裁に入って、その場を収める。


「いやぁ、何とかなってよかったぜ。」

「ああ、一瞬諦めかけたが何とかなるものだな。」

「命の恩人に感謝しておけよ?」

「今度、飯でもおごってやろう。」

「まあまあ。」


そんだけかよ、と不満を述べるザジムをレンマが抑える。


「何とかなって何より。」

「うん、死ぬかと思ったけどね・・・・・・。」

「私も。でも何とかなった。」

「そうだね、みんな無事で良かったよ!」


ジルとロシェは自身とみんなが無事だった事に安堵した。


街へと去っていく後進を見るゼンとリドウの目は厳しい。


いや、彼らが見ているのは一か所。

ジルの頭にとまる、紫の蝶だ。


「触らぬ神に祟りなし、変な気は起こさないで欲しいねぇ?」

「無論だ。あんなものに手を出せばどうなるか分からん。」

「ですが、放置という訳にはいきませんね・・・・・・。」


リドウは考え込む。

だが、すぐにそれを止めた。


「その気になられたらどうにもなりません。注視する程度にしておきましょう。」

「それが良いだろうねぇ。ま、気にはしておこうかねぇ。」

「ふむ、召喚したものが何なのかを理解していないとはな。幻白げんはく―――





おおっと。


やあ、また会ったね。

意外と早かった、かな?


その窓からどんな風に見えてるのかな?

こっちは結構楽しませてもらっているよ。


ん?

なんで邪魔するのかって?


雑音とか落書きみたいなモノだからさ。

君たちが見ているのはあの子だろう?


いらない事を知る必要は無いのさ。


お前は誰だって?

いい加減教えたらどうかって?


言ったじゃないか。

いらない事を知る必要は無いんだよ。


君たちに理解出来るものじゃないからね。

そんな事を長々と聞かされても困るだろう?


こっちもそんな不毛な事をしたくはないよ。

時間は溢れるほどあるけど、そっちは違うだろう?


ま、こうして話してるのも時間を取ってるね。

いや、君たちにとっては『読んでる』『見てる』になるのかな?


まあ、いいや。


もしかしたら、また会うかもしれないけど、それはその時。

こっちもそっちに過剰に干渉しないから。

そっちもあんまり気にしない方が良いよ。


それじゃあ、ばいばい。

またね、にならないと良いね。

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