第69話 旅立ちと旅立ち
「…疲れた」
王の謁見に続き長い長い話し合いも終わり、宿屋に無事戻ってきたボールスはベットに身を投げ、顔をシーツに押し付ける。交わした話し合い。それらが鮮明に思い出される。
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コルデーの場合。
『少し早いですが、明日王都を経ちます。本来ならボールス様のそのお力を持ってして
『これは』
受け取った物は色は違うものの『転移結晶』と類似した物。
『少し色が異なりますが『転移結晶』です。一度きりですが、その『転移結晶』を使えば皇国の指定された場所まで飛べます』
『そんな物を…』
『ボールス様だから渡したのです。それに「約束」、まだ叶えて貰っていませんから』
『覚えてるよ』
『なら、
今生の別でもないのに泣き笑いの様な表情を見せ聖印を結んでくれた。
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オーラス+の場合。
『私は『支配の悪魔』と戦い、自分が如何に未熟か思い知りました。そして貴方という友人であり、共に戦える戦友との出会いを幸福だと思います。エルバンス殿。私は強くなります。今よりももっと、誰をも救える力を。貴方と肩を並べて戦える日を心待ちにしてます』
『買い被りすぎですよ。でも、その気持ちに応えたい。俺ももっと、強くなります』
『えぇ、お互い精進しましょう!』
オーラスさんと男同士の熱い友情からくる握手を交わした。
その時に他の聖堂騎士のみんなと別れの挨拶を交わしたもの、レイアの姿だけが見当たらなかった。少し寂しいと思ったが、またいつか会えるだろうと淡い気持ちを募る。
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シノの場合。
『んん〜ボクも役目は済んだし一旦、アジトに戻るかなぁ。あぁ、今までの溜めに溜め込んだレポートの数々が、面倒臭い…』
『今回はありがとな。色々とお疲れさん』
『うぅ、ボルス君。もう君と一緒に逃げ出したい…!』
『うおっ!?』
振り返りもせずに背後に立ったボールスの腰に抱きつく。そんなシノ相手に驚いたボールスだが、ニシシと悪戯っ子のように目を細めて笑うシノはスッと、離れる。
『なんてね。仕事はするさ。これでもボクは諜報員の頼れるリーダーだからね!』
『知ってる。優しくて、カッコよくて。敵と言認識していても
『…ボルス君。そうやって女の子を口説いちゃダメだよ? 君はボクのだからね!』
背後を振り向き、そう告げるシノの耳は真っ赤に染まっていた。
『また、近いうちに会おう!』
照れ隠しなのか最後までその素顔は見せずに【転移】で姿をくらます。
当初は本当に驚いた。あのシノが敵対関係にあったコルデーと手を組み、同じ空間で話し合っていたことを。
本当は啀み合うことなく、そういう穏やかで幸せでいて平和な関係なら良いのに、と。
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エレノアの場合。
『ボールスさん。私達『黒曜の剣』も聖女様の護衛として着いていきます。また、一時的な離れ離れですね。これは一体何プレイに該当しますか?』
『知らん。と、まあ馬鹿な話は置いといて…『黒曜の剣』のまとめ役エレノアさんや。ルルの舵は勿論。ユートのメンタルも見てやってくれ』
『…はい。って、なんか、ボールスさんお父さんみたいですね』
『この年でか…いや、よく考えればもういい年だったわ』
『…(ススス)』
無言で近づいてくるエレノア。
『あれなら、私が奥さん候補に立候補をしましょう。私は夫を立てますよ。私はその夫のクッションでも枕でも…なんならストレス解消用の木――あいた!』
エレノアが馬鹿な発言をする予兆を感じたので額に向けて軽くデコピン。
『バーカ。そんな元気があるなら心配は無用だな。まぁ、あれだ。本当に何かあったら連絡くれよ。それか、念じろ。頼りになる父親が助けに行ってやるよ』
『…私達よりランク低いくせに、バカ』
俯き、顔を上げることなくそのままボールスの膝に向けて軽く蹴りを入れると振り向くことなく反対方向の道に歩いていく。
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ルルの場合。
『ん。ボールスこれあげる』
『なんだこれ?』
エレノアと交代で現れたルルからいきなり何かの置物を貰う。それは真っ白な毛玉。
『ん。うちをモチーフにして作った人形。これでいつもうちと一緒』
『あ、あぁ。ありがとな。ただ悪いな。俺からは渡せるものが…』
『これでいい』
『痛っ!』
お返しができないことを悔やんだ瞬間、ルルに髪の毛を数本抜かれる。
『これさえあれば、安心』
『いてて、そんなのでいいならいいけど。変なことに使わないでくれよ』
『…むふふ』
悪い笑みだけを浮かべ、ルルはマイペースにエレノアと同じ道を歩いていく。
その時に揺れるルルの尻尾の毛がいつもより少ないと首を傾げた。
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ユートの場合。
『ボールスさん、二人がすみません』
『いや、いいさ。いつものことだし。それよりも…ユートは何か言いたそうな顔だな。これも最後になるかもだし、聞くぞ?』
『…バレてましたか』
罰が悪そうに額を掻く。
『この際、話します。実は俺、『異世界人』なんです』
『!』
『そんな反応になります、よね。エレノアとルルには旅をしているうちに打ち明けていました。二人の反応はお察しですが…はは』
苦笑混じりに笑う。
驚きは驚きだけど、なんとなくその予感はした。彼の名前、彼の所作。元日本人である自分がこの世界に迷い込んだこと。それらを踏まえて俺と同じ「日本人」ではないかと。
『『異世界人』と言っても元の世界の記憶もありません。気づいたらこの世界に居ました。神と名乗る存在から「「悪魔」を倒し、世界を救いなさい」というお告げを胸に』
ユートの話では、自分が『異世界人』だと気付いた理由は自分の髪の色、そして今いる世界が「ファンタジーの世界」だと感じたからだと。神からお告げを聞いたもの、その姿は曖昧で思い出せず。他にも自分と同じ境遇の人がいるのかも知れないと。
『「力」も神から授かりました。でもそれは――「自分の命と引き換えにするもの」』
『そんな…』
『俺は『支配の悪魔』ダンタリオンに勝てないと思った時にこの「力」を使うつもりでした。でしたが…相手が引いてくれて「よかった」と「助かった」と思ってしまったんです。浅ましいですよね』
ユートは幸薄い笑顔を浮かべていた。ただ自分は思う。「そんなことはない」と。
『俺だって同じ立場でその選択しかないなら、助かったら喜ぶ。だから浅はかなんかじゃない。それは、その生きたいという気持ちは真っ当であり当然だ。人は使い捨ての
『…そう言うと思っていた。でも「覚悟」は決めなくてはいけないみたいです』
『「覚悟」、か。上手いことは言えないけどさ。強くなろうぜ。そんな神から貰った訳のわからない「力」なんて頼らなくても強くなれるんだって、証明してやろう』
『……』
ボールスのその発言を聞いたユートは一瞬目を丸め、直ぐに淡い笑みを浮かべた。
『…そう、ですね。あはは、本当はボールスさんの力を見て少し怖気付いていたんです。俺はもう成長しても無意味だって。でも、それは違う。無意味とか勝てないじゃなくて、俺は――ただ、貴方の隣に立って戦いたい』
ユートの顔は晴々としたものだった。
『あぁ。俺もまだまだ弱っちいけど待ってる。オーラスさんとも約束した。今度会う時は三人で肩を並べる様に頑張ろう』
『はい。楽しみにしています!』
オーラスさんと同じ様にユートとも熱い握手を交わした。最後まで笑みを浮かべて手を振っていた。これなら彼も大丈夫だろう。
でも、ないよな。ないな。彼に、ユートに『異世界人』だと秘密を聞いた。自分は自分のことを何も話さなかった。話せなかった。「覚悟」がないのは、どっちだってな。
「覚悟」がないのは、俺の方だよ。
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「――強くなろう。誰よりも強く。この世界で生きるためじゃない。この世界で仲良くなった人達の悲しむ姿を見ないために――」
「義姉さん、見守っていてくれ」
窓からさす月の光を浴び、仰向けになり、首にあるネックレスに触れて願う。
「……」
その時、何者かの気配を感じた。気配の元――ドアを横目で見るとドアの隙間から紙、白色の手紙がのぞいていた。
「こんな夜更けに誰が…」
警戒しながら扉の前で近づく。既に何者かの気配は無くなっている。少し躊躇い、用心しながらその手紙を手に取る。
「――レイアから、?」
それは最後のお別れの挨拶ができていないレイアから自分宛の手紙。手紙を寄越した理由は分からない。面と向かって会えない理由も何か
[ ボールス・エルバンス殿
拝啓、ボールス様。突然この様な手紙を出したこと深くお詫び致します。本来なら面と向かってお話をするのが筋が通っています。ですが訳あって手紙として筆を取りました。
長々と話しても退屈にしてしまうと思い、さっそく本題と入ります。ボールス様、貴方は話し合いの場で嘘をつきました。それは私達のことを思っての嘘。それは――ボールス様が「命を落とされた」というもの。
「な、なんでそれをレイアが…」
隠していた想いを知られるている事実に困惑し、手紙の読む手が止まるが、自分の気持ちは押し殺して最後まで読もうと決心した。
詳細は少し省きますが、私達が『支配の悪魔』ダンタリオンと戦っている最中、聖女様に異変が起こりました。
何を聞いても「ボールス様が」と答えるだけ。その顔は蒼白し、体は震えていました。そこから私は「ボールス様の身に何か起こった」のだと導き出しました。聖女様は口にはしませんが理解をしていました。だからこそ、ボールス様の身を案じて「危ないことをしないで」とおっしゃったのでしょう。
そして、私がこの内容を手紙として伝えた理由。それは――「怖かった」のです。ボールス様が自分達の目の前から消えて居なくなってしまうのではないかと。ボールス様が生還し、いつもの温和な顔を見せてくれた時、私はとても嬉しく思いました。それとは逆に「怖さ」もありました。せっかく会えた恩人。ボールス様ともう話せないのではないかと。そして――この「気持ち」を伝えずにもう会えなくなるのは嫌だ、と。
不釣り合いな事は承知でこの場で伝えます。私は、レイア・フレンツァは――ボールス・エルバンス様、貴方のことが好きです。
「あの時」からお慕い申している事実は変わりません。ですが、この変えようのない気持ちに嘘をつけませんでした。私は異性として貴方のことが好きです。愛しています。
長々と綴りましたが、要は私の気持ちが暴走してボールス様を襲ってしまうのではないかと危惧した上で手紙とさせていただきした。
ただ、返事はいりません。貴方を想う多くの
また会える時までどうか、お元気で。
貴方のレイア・フレンツァより ]
「……」
手紙にはそう綴られていた。
読んで思ったこと、それは驚きの連続だ。「嘘を見抜かれていた」こと。「あのレイアに好意を寄せられていた」こと。「他の面々も色々と気づいているのかも」と。そのことを全て踏まえて導き出した己の答えは――
「何してんだろう、俺」
それは自負の念。
いろんなことが起きて巻き込まれて、流されてその想いは考えない様に努めて皆が自分の決断で前に進む中、自分は何も決断することなく、周りに甘えていた。それはユートが口にした「覚悟」の問題も同じだ。
本当は気づいていた。相手が聞いてこないことをいいことに先送りにして、その好意に甘えて――見ないふりをしていた。
「レイアのことは驚きだけど。ああも分かりやすく好意を寄せてくる――コルデーやシノに悪いことをした。もしかしたらルルやエレノア、ミリナさんも…俺は、最低だ」
これは他人の体だから。
ここは自分の居た世界ではないから。
やることがあるから。
誤解かもしれないから。
そんな資格はないから。
何かと言い訳を立て。否定をするだけで自分から確かめることすらしない。
『決断をする時だ。曖昧でなあなあで終わらせるな。それでいいのか?』
そんな言葉が聞こえてくる。
「…強くなるのはいい。けど、そっちにも目を向けないと。もう、無視はできない」
レイアの想いが書き綴られた手紙を大切に手に取り「収納袋」に入れる。
※次回のお話で「二章」完となります。
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