コザクラの鳴く先に
さとる
1話 卒業式
朝の9時半
ママは私を連れて車に乗り込む
「何処へ行くの?」
その言葉を無視し、母は車を動かす
此処は旭川の近くの牧場が拡がる長閑な町だ
山に囲まれていて、町のどの家からも山が見える
見慣れた景色の中を車は忙しくエンジンをうならせながら進む
雪解けかけた3月半ば、思えばもう半年、学校を見ていない
それと同時に嫌な記憶が蘇る
それは去年の夏休み明けの初日だっただろうか。
私はランドセルから荷物を出していた。
すると、
「ユキってさぁ、可愛いくせに孤独すぎだよなぁw」
「それなぁまじで草しか生えねぇw」
真希と里奈だ。
学級一のヤンチャ女子で行いが悪い奴らだ。
〈何が孤独すぎだ何が草だ〉
そう思いながら無視し続ける。
私にとっては孤独が一番なのだ。
昼休みトイレの帰り、教室に入ると急に足が飛び出てきた。
咄嗟のことに対応しきれず、私は地面に全身を打ち付けた。
「ぷっぷっぷwまんまと騙されやがってんの」
「あたし達の笑い物になったってこと、誇りに思えよw」
誰が誇りに思うものか。
それでも込み上げてくる怒りを堪え、黙る。
「あれ?なんで何も言わないの?あ、あたしたち圧かけちゃったかぁ、ごめんね〜」
「ちょっと真希!生きる価値ない奴に謝る必要ある?」
この言葉には流石に堪忍袋の緒が切れそうだった。
でもそれを必死に堪えた
なんて世の中なんだ、悪者が更に悪くなるどころか、善者も悪者になっていく。
そんなことに私はウンザリした。
それから私は不登校になった。
それは近所のおばちゃん達も、大丈夫なのかって聞きに来るほどの重度のものだ。
私は昔から気が弱くちょっとした事でネガティヴになってしまう。
でもそれはちょっとした事ではなく大層なものだった。
そういうわけで、あたしは今日まで学校を見なかったってわけなのだ。
卒業まであと一ヶ月、六ヶ月ぶりの学校
何の変わりもなかった。
「一体、何をするつもりなの?ねぇ」
するとママは
「いいから、黙って着いてきて」
そう言われ、私は下駄箱から自分の名前を見つけ出す。
そこに上履きがない。
〈まぁ、いつもの事だ〉
裸足で母のあとを着いて行く。
六年三組に着いた。するとそこには担任と二つ机が並んでいた。
「久しぶりですね杉岡ユキさん」
担任がさん付けで私を呼ぶのは初めてだ。しかもフルネームで。すると担任は文字がビシッと並んだ書類達を並べた。進学についてだった。
〈ん?市立...じゃなくて私立!?入学金63万!?〉
ママとパパは私が幼い頃に離婚してるらしくて、母子家庭だ。そんな親子にこんな大金払えるか?と思いながら話を聞く。
「杉岡さんは母子家庭と聞いております。奨学金を受けますか?」
と聞いてきた。
ママは真っ先に
「はい!」
と答えた。
話は終わり、ママは先に車に戻った。
私は荷物をまとめて、ふと外を見ると1匹の鳥が止まった。
〈コザクラ、って言ったっけ〉
時間は流れ、遂に卒業の日を迎えた。みんなに気づかれないよう、下を向いて歩いた。
〈どうせ、気づかれるだろう〉
どこか遠くから見つめているほかの自分が、そう呟いているようだった。それが本当になった
「あれれ〜、半年ぶり〜?なーんだ消えたかと思ったんだけど〜」
〈そうだよ消えてるんだよこの不運しか続かないこの世界から〉
そう思いながらその場をやり過ごす。どうせ私の人生負け犬の遠吠えに過ぎないと心の中で呟いた。
式典が始まり、卒業証書の授与が始まった。
卒業証書を受け取り、その文を見下ろした。
〈小学校の全過程を修了?何言ってんの、この半年はどうなのよ〉
とツッコミたくなった。
席に戻るとこんな言葉が聞こえてきた。
「やっとユキと離れられるわぁ〜ユキ多分東中だと思うけどあたし西中だもん」
こっちもなんだか晴れ晴れしい気持ちになった。この時だけ。
そうして、辛辣に浸った小学校生活は終わった。
〈なんだか無意味な時間だったな〉
そう思い、外を見ると
〈またコザクラ?なんでいつも自信みなぎっていられるの?〉
ふと気づいた、
〈今はまだ3月、コザクラが見られるのは6月~8月の下旬頃までなのに〉
おかしいと思ったまるで私のために自信をつけようとしてくれている?そんなふうに感じたのが今のところだ。
きっと中学校でも同じことの地続きでは無いのか。
自分の思い通りにいかないのではないかと。
私は知っていた。
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