本編 ぼっちでもコミュ障でもひきこもりでも社会参加したい!

第一話

「ただいま……」


 それはいつもと違う空気だった。荒れ果てた部屋。ゴミは散乱し皿の破片が散らばっている。母が泣いている。


「拓哉!」


 父が暴れたのだ。机の上には辞令が。『伊藤拓斗 カニー ビジネスサービス課へ移動 職務は次の仕事を探すことに専念する事』とある。


 「親父!」


 「拓哉、すまない……」


 その時俺は心に決めた。現実から逃げないと……。これが僕がスターレット資格を取ると決めた高校一年の夏のある日だった。

 親父はその後退職し、心療内科に通院しながら職を探し始めた。母はパートに出かけた。しかし、母も不慣れなパートが続くわけもなく……一家三人似た者同士だ……。俺も高校で独りぼっち。バイトしても続くはずがない……。ボロボロになるのは目に見えていた。このままだと一家離散だ。

 その時俺は心を痛めた。救いは社会科ができる事であった。そこで拓哉は切り出した。


 「俺、スターレット資格を取りたい!それと俺、人を救いたいんだ。だから近所の八景学院神学部のスカラーシップ生で行きたい。最終的には牧師になりたいんだ!だめかな……」


しばしの沈黙が流れる。その答えは……。


「拓哉、あなたの好きに生きて頂戴」


「拓哉。俺はな三田大学まで出た。偏差値だけで見たら八景学院が四二~四七、三田は六五~七〇だ。全くの異次元の難易度だ。だけどな、俺は学歴なんて役に立たなかった。天下のカニーに就職したが、このざまだ。自分を偽って生きると父さんのような目に合う。だから、お前はお前の道を行け」


「拓哉、スカラーシップだからとても受験は大変よ。いくら八景学院と言ったって神学部なんだから上位三名ぐらいしか採用されないのよ」


「分かっている。だからもう世界史と聖書を勉強してスターレット資格を取りたいんだ。世界史はそのまま受験勉強にもなるし。しかも俺みたいな『ボッチ』でもペット霊園兼宿坊管理人なら仕事が出来ると思って……」


 母はその言葉を聞くと泣いていた。


 父は……。


「俺はこんな状態だ。下手すると一生働けない。安定剤なしで一生生きられないかもしれない。だから俺はもうお前に偉そうなことは言えない。好きなようにやれ」


「お父さん、もうお互い楽に生きよう」


――この言葉が父を救う事となった。

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