序編 人間と関わらない方が人生幸せだった

第一話

 さっそく加藤茂はさいたま司教区にこの提案をパワーポイントで説明したとこと、評判は上々だった。「ペットは天国へ行かせたい」のキャッチフレーズも決まった。葬儀はもちろんキリスト教式で行うようにし、墓地も共同の供養塔ではなく、個別の墓で、しかもペット霊園管理人もいるという形にした。

 ペット霊園管理人の募集もユニークだった。「ボッチ、陰キャ、コミュ障大歓迎。1人で黙々とできる簡単な作業です。ニート・フリーター大歓迎。もちろん正社員。月収二〇万。一日六時間勤務。洗礼の有無は問わないし宗教不問」である。現代社会から疎外されている者を炊き出しなどではなくまたスパルタなどではなく現実的に「正社員の雇用」として採用させることに意味があった。問題は管理費だった。特にペット霊園管理人の人件費、それも社会保険料折半分込みでどうやって利益を出すのかであった。ライバルの仏教ですら、仏像などの重要文化財を持っているのに檀家の減少で無人のお寺やお堂に格下げになったりしている。宗教界の最近の問題は「仏像の盗難」である。つまり墓地の販売だけではとうてい黒字になど出来ないのであった。


「はあ……」


 問題はこれだけではなかった。墓地新設は穢れを嫌う日本人にとってアレルギーとも言ってよい反応が起きた。ペット霊園を規制する法律は無いが(※ただし自治体によっては条例で規制する自治体もある)、用地取得には困難を極めた。しかし、歯抜け状態となっている空き家だらけの住宅地は資産価値が下落すると説得した結果土地を確保することに成功した。

 ペット霊園用の墓地を確保したらさっそく墓地を分譲し販売価格の利益分から空き家の解体費用を出す。土地は司教区のものになる。司教区の土地のものゆえにペット霊園が突然の閉園といったトラブルにならない信用力があった。

 ペット墓地は一区画五万円で販売した。犬や猫や鳥の写真に銅板メッキを施してプリントして墓石に飾るミニ墓石がかなりを占めている。十字も当然墓石に施される。利益のごく一部は動物虐待防止のために寄付する。収支はとんとんであった。キリスト教のペット墓地なので永代使用料は一切求めない。これではとても商売にならなかった。たしかに永代使用料(目安としてペット霊園の永代使用料は二五万ぐらいだ!)がないのに、しかも身寄りの家族が居なくなっても永久に墓地を使用できるのは大変魅力的なので墓地分譲地はスムーズに売れるが、墓守を雇うことなど夢のまた夢であった。これでは空き家の解消にはなっても墓守を雇えず墓地が荒れてしまう。神父の仕事は多岐にわたる。とくに信者は高齢者が非常に多く常に葬儀業務とも言ってよい状態が続く。


「なんか、いいアイデアないかなあ……」


 そんな時テレビニュースを見た。空き屋を利用した違法民泊の逮捕者のニュースが流れる。この国では人口減少のため外国人観光客の流入に力を入れている。こうすることによって日用品の売り上げ減少するのを抑える。


(ん、違法民泊? これだ!)

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