愛道外道

@20840816

夜中、酔中

 電車の揺れが酔いの回った身体に心地よく響く。

 端の席に座りながら

足を投げ車両内をぼんやりと見回す。

 終電間際の車両には疲れが滲み出たスーツのサラリーマンが多く

 車両内の空気はどことなく淀んで重苦しいものになっている。

 アルコールで無意識に落ちそうになる瞼に意識を預けようとすると

 デニムのポケットに突っ込んでいた携帯がメッセージの受信を知らせる。

 緩慢な動きで携帯を取り出しメッセージアプリを開くと

 スクロール出来るくらいの長文が、絵文字を散りばめながら綴られている。

 なんとか目で追いながら内容を脳内で咀嚼してみると

 今日の来店のお礼と明後日に行く約束をした水族館が楽しみ

 といった内容のメッセージが

 先程まで飲んでいた店のスタッフ

 ゆなちゃんから送られてきていた。

「こちらこそありがとう。俺も楽しみだよ」

 と返信し適当にスタンプも送る。

 すぐに既読がつき

 かわいいキャラクターがハートを持ったスタンプと手を振るスタンプが送られてくる。

 そこでさらにアプリがメッセージを受信する。

「今日は来ないの?」

 という

 ゆなちゃんとは別の女性からのメッセージだった。

 しばらく悩んで

「酔っ払いでよければ」と

 返信すれば

「お風呂は沸いてるよ」と

 返信が返ってきた。

 つまりはいつもの流れだな、と呆れながらも少し口角を上げ

「了解」と短くメッセージを送り

 携帯をデニムのポケットに突っ込む。

 座席に預けていた身体を軽く起こしたと同時に

 車内のアナウンスが駅名を知らせる。

 自宅からは遥か手前の駅だ。

 淀んだ重苦しい車両とお別れし

 先程までの緩慢さなど忘れ

 すこし軽い足取りで

 エスカレーターを登り改札を抜ける。

 駅前は深夜にも関わらず

 ネオンがチープに煌々と光り

 客引きの女性がまばらに立っている。

 いつもの光景を横目に

 徒歩7分。

 猥雑な歓楽街の裏道にある

 狭い入り口の古びたマンションの二階。

 四つ並ぶ扉の奥から二つ目の部屋を目指して

 気分良く跳ねるような足取りで歩き始める。

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