涙の価値

三夏ふみ

涙の価値

 私は、純粋に流す涙を知っている。


 娘が、市が主催する英語教室で、年間表彰に選ばれなかった。

 1年限定で行われたこの英語教室では、授業毎にポイントが与えられ、1年間の累計ポイントで優秀者は表彰される。初めの授業で先生からそう告げられていた、いかにも欧米人らしい、成果主義の教育スタイルだった。

 娘は1年間、娘なりに頑張って英語の勉強に取り組んでいた。休みも遅刻も無く、休みの朝に眠い目を擦りつつ、早起きして通い続けた。だが、優秀者には選ばれなかった。


 見学不可だったが最後の授業を、私は終了5分前に教室の外からこっそり覗いた。

 その教室で知り合った友達の名前が1人、また1人と呼ばれる中、ついに最後まで、娘の名前が呼ばれる事はなかった。

「次にあと少しで選ばれた子は……」

先生がそう続け、娘の名前が呼ばれると、彼女の目からは静かに涙が溢れ出た。


 淡々と授業が終わりに向けて進む中、賞状を片手に娘を慰める友達たち。

「頑張ってたのに」

「おかしいよ、英単語の並べ替えも1番早かったよ」

先生に向けて抗議の声が上がる。

 しかし、決定は覆らない。年間の累計ポイントが優劣者の規定に満たなかった、そのことが優劣を分ける全てだった。


 少しざわつき出した教室に、先生はこう告げた。

「みなさん、聞いて下さい。表彰された人と惜しかった人、何が違うと思います?それは頑張った差です。授業中は勿論、宿題を1ページだけの人と3ページやった人とでは、年間でポイントが3倍違いますよ」


 授業が終わり、私は泣き止まない娘の元へ。1年間の感謝を先生に伝えると、

「娘さんは凄く頑張ってましたよ。途中からは発言も増えて、それに発音が凄く綺麗です」

そう褒められた。


 帰りの車でも娘は泣き止まず、私がいくら慰めての言葉をかけても、涙は止まらなった。


 家に着き、妻が出迎えても涙は止まない。

 最終日、頑張りを褒められて、笑顔で帰ってくるとばかり思っていた妻に事情を説明すると、娘を自分の膝に座らせ。

「今日は良い日になったね、今日のこの気持ちを忘れないでね」

と、微笑み頭を撫でた後、娘を抱きしめた。


 今年、娘は学校の音楽発表で、伴奏に立候補し落選した。ピアノを初めて10ヶ月、ピアノの先生には難しいのではと言われるなか、涙を目に溜めながら毎日練習していた。


 結果発表の日の夜、

「ピアノダメだったけど、すっごい楽しかったよ」

満面の笑みで彼女は、私に教えてくれた。


 娘にはいつも、教えられる事ばかりだ。

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