AI絵師イラスト集を販売している謎の業者に、自分で描いた同人誌を訴えられた件について
葦沢かもめ
本文
どうも、同人絵描きのわしざわ本舗です。
今回は私のように同人やってるみなさんに情報共有というか注意喚起をしたくて久しぶりにブログを更新しました。
先日開催された某同人イベントに、私は個人のサークルで参加していました。前回、前々回と抽選を外していたので、当選した時はめっちゃ嬉しかったです。
本業の合間をぬって新刊の作業して、締切りギリギリでなんとか印刷も間に合わせることができました(新しい印刷会社さんにお願いしたので色々手間取った)。
そんなわけで、当日はもうウッキウキでした。隣のサークル主さんとは初めましてだったんですが、好きな作品が同じと分かって意気投合。推しのキャラも一緒で、おしゃべりが盛り上がりました。
とまぁ、そこまでは良かったんです。
でも開場してすぐのことでした。
赤いネクタイをしたスーツ姿の男の人が、端から順番にサークルさんを回っていたんです。なんか話をした後に名刺を渡してるみたいで、変だなと思って見ていました。
そうするうちに私のところにもスーツの人が来ました。
「どうも、○○出版の△△と申す者ですが」
そこまで聞いた私は、商業出版の勧誘だと思いました。多分、新しい出版社が作家さんを探しているのかなーって。
「あなたの売られている同人誌、弊社の作品の著作権侵害の恐れがあります」
素直に「えっ?」という言葉が漏れてしまいました。いやいや、私は誓ってトレパクなんてやっていませんが、もしかしたら偶然似たイラストになってしまった可能性はあるのかも、と内心不安でした。
「作家さんの将来のこともありますから、弊社も穏便に済ませようと考えております。詳しくはこちらのQRコードから弊社のサイトをご確認ください」
スーツの人は穏やかにそう言うと、名刺を渡して去っていきました。私も冷静を装って対応していましたが、心臓はバクバクです。
一旦座って深呼吸してから震える指でスマホを操作して、その会社のWebサイトにアクセスしました。
そこには「著作権侵害の可能性のある作者様へ」と題した記事が書かれていました。
以下にその記事の一部を引用します。
**********
弊社にて202X年に出版いたしました、AI絵師協会さんの「AIイラスト全集」シリーズは大変な反響を頂きました。
本シリーズは、昨今流行しているイラスト生成AIが描いたイラストを収録した画集となっております。
作者であるAI絵師協会さんは、良いイラストを生成するプロンプト(巷では「呪文」と呼ばれているものです)を解析するプロフェッショナルです。実用的なイラストを生成し得るプロンプトを大量に選び出し、それらから生成された膨大なイラストが、「AIイラスト全集」シリーズ全61,284,327巻に収録されております。
さらにAI絵師協会さんは、それらのAIが生成したイラストに類似するイラストを自動的に発見するツールも開発されております。このツールで検出された類似作品について、AI絵師協会さんは著作権侵害として訴訟を起こすと明言されています。
しかし弊社と致しましては、未来あるクリエイターの芽を摘むことになりかねないため、可能な限り示談となるよう該当する作者の皆様にご連絡致しております。
**********
それを読んで、私はポカンとなりました。確かに絵を描くAIが高性能になってるって最近聞いたけれど、こんなことになってるなんて思いもしませんでした。
サイト上には診断ツールへのリンクもあったので、私の同人誌の表紙絵を写真に撮って試してみました。
すると「類似するイラストがあります」というメッセージとともに結果が返ってきましたが、それを見てビックリ! 私の表紙絵とそっくり同じポーズで、なんなら髪の長さも表情も同じキャラがそこにいたのです。服装も細かい部分以外は、ほぼ一緒。これをパクったと言われたら言い訳できないレベルです。
私は頭を抱えてしまいました。これは示談にするしかないのかもしれないなと思って、もう示談金がいくらになるかをスマホで調べていました。
「あの、すみません」
そこで話しかけてきてくれたのが、さっきおしゃべりしていた隣のサークル主さんでした。
「さっきのスーツの人の話、信じちゃダメですよ」
え、どういうこと?と思って質問してみると、とても意外なお話をしてくれました。
「この『AIイラスト全集』ってやつ、調べてみたんですが10万円もするんです。電子書籍だから図書館でも読めないし。で、さっき私のフォロワーさんに相談したら、『それってimg2imgかもね』って教えてくれたんです」
「なんですか、img2imgって?」
「どうやら画像から画像を生成するAIのアルゴリズムらしいです。パラメーターを調整すれば、元絵とちょっと違う高精度なイラストが生成できるらしくって」
実際にimg2imgの例を見せてもらったのですが、元のイラストとほとんど似ているイラストが並んでいました。
「確かにさっき見た私の表紙絵に似たイラストも、こんな感じでした。私が送信した画像から、その場でAIが生成してたんですね」
「だから、多分詐欺です。本に収録されていると言いながら、内容を読もうとすれば高額のお金がかかるし、確認するにも時間がかかる。かといって示談を受け入れてもお金を払うしかない。そういうトリックなんだと思います」
私もそれを聞いて「なるほど」とつぶやいていました。世の中、悪いことを考える輩はいるものですね。
私はあんまりAIとか詳しくないので、だまされる人はだまされちゃうだろうなーと思いました。隣のサークル主さんとそのフォロワーさんには、本当に感謝しかありません!
みなさんも実際にイベント会場で見かけたら注意してくださいね!
※これはフィクションです。今のところは。
AI絵師イラスト集を販売している謎の業者に、自分で描いた同人誌を訴えられた件について 葦沢かもめ @seagulloid
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