変化
「おはようございます」
朝バイト先に来た俺は久井さんに挨拶した。
「おはよう、環君」
久井さんも挨拶を返してくれる。そういえばこうやってちゃんと挨拶をしてくれるのって久井さんと羽田巻、店長くらいだな。
真希さんはいつも仕事で忙しそうにしていたか
ら俺の目なんて見ないで挨拶してたし奈那さんは言うまでもない。
そんなことを考えていると久井さんに違和感を感じた。なんだ?何かがいつもと違うような…あ
「久井さん、メガネ変えました?」
メガネがいつものやつと違った。いつもは黒縁の飾り気のないメガネだったが今日はフレームが細い丸メガネになっていた。
「え」
あれ?間違えたか?
「違いました?」
「い、いやそうだけど…よく気づいたね」
「そりゃ気づきますよ。もう結構な時間一緒に居るんですから」
当たり前だ。気づかない方がおかしい。
「そっか…気づいてくれるんだ」
「何か言いましたか?」
久井さんたまに声が小さくなるから聞き取れない時があるんだよな。
「ううん。なんでもない」
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誰も私の変化になんて気づいてくれなかった。祖父母は私に対しての怒りや憎悪を持っていたし学校なんて本当の自分じゃない。
私には一応彼氏がいるがその彼氏もきっと偽物の私しか見ていない。これまではそれでも良かった。誰にも愛されないくらいなら多少自分を偽ってでも愛される方がいい。
でも、私は彼に出会ってしまった。
環 愛斗君。
彼は偽っている私を受け入れてくれた。別に偽物でもいいと言ってくれた。私にはその言葉が心に残っていて忘れることが出来ない。
そして環君は偽物じゃない私を知っている数少ない人の一人。偽物じゃない本物の地味な私を見ても笑わないし普通に接してくれる。きっと学校じゃこうは行かない。多分本物の私が行ったら誰も私に近寄ってこないだろう。そう分かってしまう。
さっきも言ったように私は今まで人に変化を気づかれなかった。小学校の時、今まで伸ばして居た前髪をバッサリ切ったことがあった。漫画やアニメ、小説の世界ならものすごく美人になったその人物にみんなが話しかけるというシチュエーションになっただろう。でも私が生きているのは創作の世界じゃなくて現実なんだ。
結局一日誰にも話しかけられなかった。目の前を覆い尽くすような前髪を切ったのに誰にも気づかれなかったのだ。現実なんてそんなものだ。興味のない人間にはとことん興味が無い。だから大きな変化にも気づかない。
でも環君は気づいてくれた。メガネを変えたという些細な変化にも。
今までにないほどに嬉しかった。当たり前だ。今まで誰にも関心を持たれていなかった私が初めて関心を持たれたのだ。嬉しくないわけが無い。
正直私は愛されるのなら誰でもいいと思っていた。でも、彼に愛されたいと思ってしまった。私には彼氏がいる。こんな感情抱いてはいけないと分かっているはずなのに彼と結ばれた時のことを想像してしまっている自分がいる。
こんな感情もってはいけない。そんなことをしてしまったら今付き合っている彼に失礼だ。
…でも、バイトの時くらいは仲良くしててもいいよね?
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