訪問者
「ま、愛斗」
俺がバイトから帰ってくると真希さんが話しかけてきた。
「なんですか?」
端的にそう返す。
「…ば、バイト疲れてない?」
「えぇ、大丈夫です」
本当に大丈夫だった。
「ほ、本当に?無理してない?」
「大丈夫ですよ」
何をそんなに気にしてるんだ?分からない。
「…そう」
「?」
どうしたんだろう?結局それだけが聞きたかったのか?
「もういいですか?」
「あ…うん。ごめんなさいね、時間を取らせちゃって」
「いえ、気にしてないので大丈夫です」
俺はそう言うと帰りに買ってきたご飯を持って自室に戻った。
「………気にしてないって、多分どうでもいいってことよね」
真希は乾いた笑みを浮かべていた。
自室に戻って一人ご飯を食べていると部屋の扉が二回ノックされた。
誰だ?
「お、お兄ちゃん」
この呼び方は奈那さんか。
「どうかしましたか?」
俺がそう言うと奈那さんは少し間を開けてからこう言った。
「その、部屋に入れてくれないかな…なんて」
…別にいいが何故部屋になんて入りたいんだ?
「いいですよ」
そんな疑問を覚えたが特に部屋に入れない理由はない。だから俺は部屋の扉を開けて奈那さんを入れた。
「おじゃまします…」
そういえば小さい時はよく俺の部屋に遊びに来てたな。そんな昔のことを思い出す。
「懐かしい…」
そう呟いた奈那さんの目はどこか悲しみを含んだような目だった。
「それでどうしたんですか?」
俺の部屋に来たということはそれなりに理由があるのだろう。だから俺はその理由を聞いた。
「ごめんなさい!」
いきなり奈那さんが勢いよく頭を下げてそう言った。
「は?」
そんな意味不明な行動に戸惑っていると奈那さんが話し出した。
「今更謝っただけじゃ許されないと思う。でも、それでも謝らせて。本当にごめんなさい」
その声は真剣そのものだった。だから余計に俺の怒りを刺激した。
「…言いたいことはそれだけですか?」
「…うん」
「そうですか。ならもう出ていってください」
「ぁ…うん、ごめんなさい」
そう言って奈那さんは少し猫背気味に背中を曲げて俺の部屋から出ていった。
「なんでもう少し早くに…」
俺は自分でそんなことを言いかけてその発言を止めた。やめよう。こんなこと考えても仕方ない。もう全ては過去の出来事なんだから。
過去は変えられない。でも未来は変えられるはずだ。そんなことを言っている人間が居るのだとしたら多分そいつは何も考えていない能天気バカなんだろう。人は簡単には切り替えられない。それこそあんなに長い期間無視され続けたらあんな謝罪だけでは許せない。
それは俺の器が小さいだけなのかもしれない。でも俺は許すことが出来なかった。
あれがもう少しだけ早かったら…なんて考えてしまう俺はなんなのか自分でもよく分からなかった。
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