一週間
次の日、俺は早速行動に出る。
「お、おはよう。母さん」
「あぁ、おはよう。愛斗」
俺は母さんの方を見ているのに母さんは準備しながら忙しそうにそう言った。俺の方なんて一度も見ない。
遅れて奈那も二階から降りてくる。俺と奈那の部屋は二階にあって隣に並んでいる。
奈那は眠そうに目を擦りながら俺の横を通り過ぎる。
「おはよう、奈那」
「…」
奈那は少しだけ俺の方に目を向けたが直ぐに視線を外し無言のまま洗面台に向かって行った。…まだだ。
「母さん」
「何?」
相変わらず母さんは仕事に行く準備をしていた。
「…その、たまには母さんの作ったご飯が食べたいな、なんて」
攻めろ。攻めなければ今までと変わらない。もうそんなの嫌だ。奈那だけが愛を受けて俺が母さんの愛を受けられないなんてそんなの嫌なんだ。
「ごめんね、母さん最近忙しいからちょっと厳しいかも」
「そう、だよね」
分かっていた。分かってはいたがやはりショックだった。
「今日も机の上にお金置いてあるからそれで朝ごはんを買ってね」
そう言って母さんは昨日と一緒のように玄関から出て会社に向かった。
「行ってらっしゃい…」
小さなため息をつく。母さんの料理なんてもう何年も食べていない。朝ごはんだけじゃない。夜ご飯さえもコンビニ弁当なのだ。
「あ、奈那。今日もコンビニでご飯買ってくれ。俺は1000円だけ持っていくから」
洗面所から出てきた奈那にそう声をかける。
「…」
…なんだかもう慣れてきてしまった。半年だ。半年も無視され続けていたら慣れるのも仕方ないだろう。
え?俺は慣れていたのか?無視されることに?違うだろ。そうじゃないだろ。こういうところだ。俺が努力しないといけないのは。
「奈那、今日は一緒に学校行くか」
やはりいつも通り接していたらこの日常は変わらない。そんなの俺の望む結末になるはずがない。
「…」
奈那は無視しているが俺は続ける。
「コンビニで何買うんだ?」
「…」
「何か買うんだったらもうそろそろ家を出ないと…」
「ねぇ」
!!!
奈那が…俺に声をかけてきた?!
「な、なんだ?!」
やった!奈那が俺に話しかけてくるなんて!!やっぱり諦めなくて良かった!俺のやってきたことは無駄じゃなかっ…
「ウザイ」
久々にかけられた言葉がそれだった。そこには家族の絆も何も無かった。ただ拒絶しているだけ。そこまで嫌だったのか?それはどうして?やっぱり俺のことが嫌いだからだろうか?
「…悪い」
やめよう。考えても仕方ないように思える。
俺は軽く謝罪の言葉を口にして二階に上がる。
「ぁ…」
はぁ、なんかもうしんどくなってきたな。
後一週間後。俺の誕生日がある。その日の朝まで一緒のことが続いたらもう諦めよう。そこまでは全力で努力する。
無駄なことかもしれないけど。
「行ってきます」
小さくそう言って玄関から学校に向かって歩き出した。
「なんで…!なんでいつも私は…!!!」
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「あ、おはよ、愛斗」
いつものコンビニには沙也香が居た。
「え、沙也香…なんで」
「ん?なにが?」
どういうことだ?沙也香には好きな人が居るはずだ。昨日俺に好きな人が居ると伝えてきたのはもう一緒に登校出来ないと言いたかったわけじゃないのか?
もし俺と登校している所を沙也香の好きな人が見たらどう思うだろうか?そんなの分かりきっている。俺と沙也香が付き合っている、とまではいかなくても気があると思ってしまっても仕方ないのではないだろうか?
「…俺なんかと登校していいのか?沙也香には好きな人が居るんだろ?それなのに俺と登校したら好きな人に勘違いされるかもしれないぞ?」
そう言うと沙也香は少しだけ顔を赤くして
「い、いいの!」
と大きな声で言った。何がいいのかよく分からない。
沙也香ってそんなに節操なしだったのか?俺の中で沙也香に対する感情が変わってしまいそうだった。
「…やっぱりまたコンビニ?愛斗は、愛斗はそれでいいの?」
心配そうな顔で沙也香が俺の顔を覗き込んでくる。
「あぁ、いいんだよ」
あと一週間なんだから。それでダメなら諦めよう。
学校につくと沙也香に声をかけてきた人が居た。
「おはよう、沙也香」
誰だと思い声のした方を向く。そこには爽やかなイケメンがいた。
「あ、おはようございます!先輩」
へぇ、先輩なのか。…なるほど、沙也香はこの人が好きなのか。一目でわかってしまうほど沙也香は分かりやすかった。それほどまでに沙也香は嬉しそうに、楽しそうに先輩と呼ばれる人と話していた。
やっぱり俺じゃなかったんだな。
理解はしていたはずなのにどこか体から力が抜けるような感覚がした。
はぁ。
「…俺、先に行ってるから」
「え?愛斗?ちょっと!」
沙也香が後ろから呼んでいるが振り返る気にはなれなかった。
「なんだか最近、愛斗変だな…」
「彼が沙也香の言っていた想い人か?」
これは愛斗が居なくなった後の沙也香と先輩の会話である。
「え!?あの、その…はい」
沙也香は顔を真っ赤にして俯きながらそう言った。
「そうか、その想いが実るといいな」
「はい!すいません。いつも相談に乗ってもらって」
「気にするな。後輩の頼みだからな」
先輩は笑ってそう言った。
「流石先輩。可愛い彼女が居るだけのことはありますね」
沙也香は意地悪にそう笑って言った。
「もちろんだ。俺の彼女に敵う女は居ないからな!」
沙也香は苦笑いした。
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