第71話「埼玉県民には犠牲がつきものなのだ……」
「それじゃー、小学生時代のしゅーくんの小説読むよー! えーと、なになにー? 『俺の強さは宇宙一ぃいいいいい! ゆえに! 俺の周りには次から次へと美少女が寄ってくる! いぃいやっほぉーーーう!』」
ひどい、ひどすぎる。なんだそのテンションの高さは。
「……おにぃの妹であることが恥ずかしい……自害したくなるレベル……これは以前読んだ黒歴史小説の中でもさらに黒歴史レベル……」
俺だって自決したい。自爆スイッチを持っていたら躊躇なく押している。
なんでいきなりそんなハイテンションな出だしなんだ。
「えへへー♪ 小学生時代のしゅーくんかわいいねー!」
かわいいか? 痛々しいの間違いだろ?
少なくとも今の俺はメンタル的に甚大なダメージを負ったぞ。
「と、とにかく今ここで読むのはやめてくれ。勘弁してくれ」
「……おにぃ……そんなことで黒歴史小説全世界同時公開放送に耐えられるの……?」
瑠莉奈からジッと見つめられ、訊ねられる。
「う、うぐぐ……」
それは確かに厳しい。
でも、番組のために必要なことなのだ。
みんなががんばっているのに、俺だけ逃げるだと?
それはできない。俺は誇り高き埼玉県民なのだ。
「せめて、俺にみんなが演じるシーンを選ばせてくれ」
「……却下……それだと無難なものをチョイスされかねない……黒歴史が凝縮されている強烈な部分を抜粋しないと……」
鬼だ。
「……おにぃ……瑠莉奈は心を鬼にして、おにぃの恥を晒す……」
瑠莉奈は割と鬼畜だよな……。
妹というものは兄に対して容赦がない。
「しゅーくん! 大丈夫だよ、安心してー! しゅーくんの犠牲は無駄じゃないよー! しゅーくんの尊い犠牲で必ず動画配信を成功させてみせるからねーーー!」
両手の拳を握り締めて力説する菜々美。不安しかない。
「……おにぃのことは忘れない……ぐっばい、おにぃ……ふぉーえヴぁー、おにぃ……」
なんで「ヴぁー」だけネイティブな発音なんだ。
でも、まぁ、明日が収録なんだし、もう決めてしまったことだ。
今さら変更などできない。
俺が犠牲になればいいんだよな……。
埼玉県民には犠牲がつきものなのだ……。
いつだってどこかから侵略される。従属させられる。ディスられる。
これまでの埼玉の歴史が物語っている。
埼玉で生きることは厳しいのだ。サバイバルなのだ。
「……おにぃ……おにぃも埼玉男児なら、耐え忍ぶべき……」
「ああ……埼玉県民スピリッツでがんばろう……」
先祖も籠城戦を耐えたしな……。
そういうわけで、俺は覚悟を決めた。
もう煮るなり焼くなり水攻めするなりすればいい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます