第63話「初めての収録終了」
※ ※ ※
一旦休憩をしてから、再び収録を開始。
今度は俺を抜いた三人が机に並ぶかたちになり、趣味や好きな食べ物など基本的な自己紹介をしていった。瑠莉奈と二三香は緊張してリテイクを何度か出したが、初めての動画撮影をこなしていった。
「はい、今日のところはこんなもので終了です~! お疲れ様でした~!」
たいした内容ではなかったが、思いのほか時間がかかった。
番組構成については、またいろいろと練っていく方向だろう。
「我が社としても、これから本腰入れてこのチャンネルを盛り上げていきたいと思います~♪ 菜々美ちゃんが地上波復帰できるタイミングになったらライブとかいろいろ活躍の幅を広げていきますよ~♪ なので、瑠莉奈ちゃんとと二三香ちゃんもしっかりレッスンを受けてもらいますからね~♪ あとで契約についての話とかも親御さんにして許可をいただきますので~♪」
ニコニコしながらプレッシャーをかける神寄さん。
あらためてふたりが芸能界でやっていくんだな……と思わされる。
まぁ、普通はこんなスピードデビューはありえないだろう。
オーディションに合格してレッスンを積んで、それからようやく仕事という流れなのだろうが……。
「今回のことは異例中の異例ですが~、でも、なによりも話題になっている今を逃すリスクのほうがよほど大きいですからね~……この業界、タイミングと運が大事ですから~。チャンスを逃すことが最大の損失なんですよ~」
メガネの奥の神寄さんの瞳がキラーンと光った。
まぁ、普通ではありえないというのは俺ですらわかる。
本当に異例中の異例だろう。
でも、確かに今これだけ菜々美に注目が集まっているタイミングで菜々美のネット活動開始と新グループ結成を発表したら、すごい話題になることは想像に固くない。
ついでに俺にまで注目が集まってしまうことになるが……。
まぁ、三人の風除けになれるのならいいか……。
「では、また明日撮影しましょう~。今日は解散です~。明日までにどんなコーナーをやるか四人で考えてください~」
「むむっ? わたしたちが考えるのー?」
「はい~。そのほうが視聴者的にも面白いと思いますので~」
いきなり明日からやるコーナーを考えるって、なかなか無茶ぶりな気もするが……。俺たちは放送作家でもなんでもないのだが……。
「これからの時代は自立したタレントじゃないとやっていけませんからね~。いい機会だと思いますよ~。特に暴走癖のある菜々美ちゃんは地上波じゃおっかなくて使いにくくなってしまいますからね~」
ある意味、厄介払いなのでは……。
「むうぅ~……! 負けないもん! わたし逆境に強いもん! 必ず動画配信の世界でも頂点を獲ってみせるもーん!」
菜々美は両手の拳を固めて、決意と覚悟をアピールする。
前途は多難かもしれないが、乗りかかった舟だ。俺たちもがんばらねば。
「……瑠莉奈がいるから、たぶん大丈夫……大船に乗ったつもりで……台風シーズンの荒川を下る舟に乗ったつもりでいてほしい……」
「あ、あたしは気合と根性と体力でなんとかする! 努力! 忍耐! 勝利!」
うん、不安だ。
「じゃ、夕食とって休憩したらさっそく作戦会議しようー! うーん、燃えてきたー! 萌え萌えだよー!」
菜々美のテンションとモチベーションがこれ以上ないぐらい高いなのが幸いか。
「やる気が大事! やる気があればなんでもできる! ねばーぎぶあーっぷ! ねばねばねばーーー!」
ハイテンションすぎる。
まあ、菜々美はテンション高くて自由すぎるので地上波の番組ではいつも共演者が困ってたもんな……。
「ふふふ~♪ 菜々美ちゃんにとっては動画配信は天職かもしれませんね~。これでわたしも菜々美ちゃんがやらかした尻拭いをしないですみますし他社さんに毎回謝罪しないでよくなります~」
やっぱり菜々美、お払い箱なんじゃ……。
そんな気もしてくるが、まぁ、スルーしておこう。
「……瑠莉奈たちは、とりあえず菜々美ちゃんに引っ張ってもらう……」
「菜々美ちゃんと一緒なら、たとえ火の中水の中っ! 死なばもろともっ!」
まあ、本来、俺たちが菜々美と一緒に活動できるなんて、ありえないことだしな。
多少のリスクというか、炎上は覚悟しておこう。もうすでに飛び火しまくってるし。
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