第53話「お化粧」

「……おにぃがテレビで菜々美ちゃんが出るたびに欠かさず視聴している姿はキモイものがあった……」

「わぁ♪ やっぱりしゅーくんわたしのことをずっと応援してくれてたんだね~! ありがとう~~~♪ やっぱりしゅーくんわたしのこと大好きだよねぇ! えへへへへへへ~~~♪」


 菜々美がどんどんデレデレていく。

 俺としては恥ずかしさで体温が上がる一方だ。


「で、でも、俺よりも二三香のほうが菜々美グッズをいっぱい持ってるぞ! コンサートやイベントにも欠かさず行ってたし!」


 俺はイベントやコンサートにはそれほど行っていない。

 二三香のほうがファンとしては遥かにガチ勢だ。


「そ、それはそうだけど、ファンとして当然というか!」


 二三香は顔を赤くしてモジモジしていた。

 やはり推しを前にすると、緊張するようだ。


「わああ♪ ありがとう~♪」


 再び菜々美は二三香を勢いよくハグする。


「わわわ! 畏れ多い!」


 最初の俺と同じようなことを言っている……。


 ほんと、菜々美は気を許した人間にはトコトン甘いというか、過剰なスキンシップをするな。猫か。


「……こうなったら、菜々美ちゃんと二三香さんでくっつけばいい気がする……そのほうが絵的にはいい気がする……おにぃがイチャイチャしているのは妹としては見るに堪えない……」

「むうう、でも、わたし、しゅーくんひとすじだし! 二三香ちゃんみたいにかわいい女の子大好きだけど、それとこれとは別だし!」

「あたしなんて、そんな、ぜんぜんかわいくないですよっ……!」

「ううん、そんなことない! かわいい衣装着てお化粧すれば芸能人になれるよー! 菜々美ちゃんが保証する! 絶対にアイドルになれるー!」


 菜々美は熱弁していた。


 まぁ……素材的には、二三香を悪くはないんだろうな。こんな化粧っけのない体育会系で割と美人に見えるんだから。


「それじゃー、暇だし、二三香ちゃんをもっとかわいくしちゃうー! あと瑠莉奈ちゃんもー!」

「ええっ!?」

「……瑠莉奈も……?」


 菜々美の思いつきに二三香が驚きの声をあげ、瑠莉奈は首を傾げた。


「そう! せっかくの逸材を眠らせておくのはもったいないよー! 午後には神寄さんも来るし、めちゃくちゃかわいくしたふたりをお披露目しちゃおうーー!」


 相変わらず菜々美は突拍子がないというか行動力の塊だな。

 でも、かわいくなったふたりを見てみたい気もする。


「ふたりを神寄さんの生贄にして、わたしは楽をするー! もう馬車馬のように働きたくないー!」


 打算の塊だった! でも、この三人でアイドルグループを作ったら面白そうだと思ってしまう俺もいる。


「よぉーし! 燃えてきたー! ふたりをめちゃくちゃかわいくしちゃうよーー! メイク道具あるしーー! あと、会社のスタッフに頼んでふたりにあう衣装も持ってきてもらうーーー!」


 菜々美は荷物の入っているトランクを開けると化粧箱らしきものを取りだした。


「しゅーくんはちょっと部屋の外に一時間くらい行っててね! お化粧の過程は乙女の領域だから! 秘密の時間ー!」


 そんなものなのだろうか……。

 まぁ、ここは菜々美の好きにさせよう。


 俺は言われたとおり部屋の外に出ることにした。

 ちょうどいい。少しホテルを出て、外を歩こう。

 昨日今日と室内にいてばかりだからな。


 結果として、二三香が来たことで菜々美に襲われるリスクを減らすことができたのでよしとしよう。

 

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