第52話「サービス精神旺盛なアイドル」

「えっ、修人との関係ですか? 菜々美ちゃんのファン仲間というか……」

「それだけー!? しゅーくんと昔から一緒だったって訊いたよー!?」

「ま、まぁ……小中高と一緒でしたけど、ただの友達というか……メールで菜々美ちゃんのことを話したり情報を共有したりするだけというか……」


 だよな。そうとしか言いようがない。

 俺が菜々美に説明したのと同じだ。


「むむむ……むむむむぅ~~……」


 菜々美は思案しているような素振りを見せる。

 そのままたっぷり三分ほどして……。


「……しゅーくん! もしかして、二三香ちゃんって本当にただのわたしのファン? いい子?」

「だから、昨日からそう言っているのに」

「そっかぁ! よかったぁ! しゅーくんは浮気してなかった! ハッピー!」


 ハッピーなのは菜々美の頭の中だ。


「う、浮気? あたしが修人と!? ないです、ないですっ! 絶対にありえないです!」


 顔を左右にブンブン振って全力否定する二三香。


「よーし、よし! そっかぁー! 菜々美ちゃんヴィクトリーだよね! 向かうところ敵なしー!」


 というか、菜々美のこんなフリーダムかつエキセントリックな姿を見せたら二三香も幻滅するのではないだろうか。テレビで見る以上に自由すぎる。


「やっぱり菜々美ちゃんエネルギッシュでオーラがすごい!」


 しかし、菜々美のファンになるだけあって二三香は尊敬のまなざしを向けていた。

 さすがよく訓練されたファンだ。


「えへへ♪ それじゃ改めまして♪ よろしくね~♪ 二三香ちゃん♪」


 敵対の意思なしと判断した菜々美は急激に友好的な態度をとる。

 アイドルの変わり身の早さすごい(怖い)。


「は、はいっ! よ、よろしくお願いします!」


 二三香は体育会系的な礼儀の正しさを発揮して頭を下げていた。さすが剣道部。


「そんなに硬くならなくても大丈夫だよー! お近づきのハグー!」


 菜々美は二三香に急速接近すると、そのまま両手を広げて抱きしめる。

 同性相手でもスキンシップ激しいな。


「わわわっ!? 菜々美ちゃんとハグ……!」

「ハグハグハグー♪ よろしくねぇーー♪」


 サービス精神旺盛すぎる。

 スキンシップのバーゲンセールか。


「……両刀使いアイドル……?」


 瑠莉奈がつぶやく。


「二天一流! 宮本武蔵! かわいければなんでもオッケー!」

「えっ? えっ?」


 もはや菜々美の独壇場だ。

 二三香もこのテンションについていけてない。


「菜々美、ちょっと落ち着け」

「これでも落ち着いてるほうだよ!」


 まあ、昨日の奇行を考えるとそうかもしれない。


「でも、それはそれとして! 二三香ちゃんにはしゅーくんとのことをたっぷり訊かせてもらうよー! しゅーくんがこれまでにどんな人生を送ってきたかとかー!」

「じ、人生ですか?」


 二三香は面食らっている。そりゃ、そうだろう。

 クラスメイトに訊くことではない。


「じ、人生と言われましても、あたし、修人といつもいるわけじゃないですし……えっと、修人は、まぁ、普通にただのオタクというか、菜々美ちゃんファンというか……」

「うんうん、そっかぁ! やっぱりしゅーくんはわたしのことをずっと応援し続けてくれてたんだねぇ! 菜々美ちゃんの好感度大幅アーップ!」


 いろいろと誤解が解けたことで菜々美のテンションは上がっていた。

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