第16話「脱ぐアイドル」

 ここでその提案にのるのは、どうだろう。

 世間一般の感覚ではメチャクチャ魅力的な提案かもしれない。


 だが、そんなものに軽々しく乗るなんて陰キャ硬派な俺としては肯定できない。


「すまん、菜々美……その提案には乗れない。というか、普通に考えてつきあってもいない男女が一緒に風呂に入るというのはおかしいだろう」

「えぇえ!?」


 菜々美はショックを受けた表情で愕然としていた。


「わたしたちつきあってるも同然だよぉ!」

「……いや、でも、やっぱり菜々美と俺とはあまりにも釣りあいがとれないというか……つきあうだなんて畏れ多いというか……祟りが起きそうで……」

「だからわたしを信仰や崇拝の対象にしないでよ!」


 そんなこと言ってもなぁ……。


 実際に菜々美のファンは完全に信者といってもいいくらいだし。

 俺もファンだから、よくわかる。

 仮に祟りが起きなくとも、信者から撲殺されそう……。


 つきあうとか一緒にお風呂に入るとか、もうそれ絶対にうらやま死刑を宣告される。私刑に処される。恐ろしい。


「……おにぃ……まぁ……賢明な判断かもしれない……菜々美ちゃんの信者……すさまじく熱烈だし……」


 瑠莉奈も一定の理解を示してくれた。

 それだけアイドルとつきあうということはリスキーなのである。


「でも! でもでもでもー! このホテルであったことは誰にもわからないから! 瑠莉奈ちゃんも黙っててくれるでしょ?」

「……まあ……善処しないでもないけど……でも……おにぃがデレデレしてるのを見るのはキモイので、瑠莉奈の視界の範囲外でやってほしい……」


 だが、瑠莉奈の監視がないと菜々美の暴走に歯止めがかからなくなる気がする。

 しかし、妹からキモイものを見る目を延々と向けられるのも精神的にキツイ。


 ある意味、幼馴染をとるか妹をとるか、みたいな状況である。もっとも、兄としての威厳や尊厳なんて最初からないようなものかもしれないが……。


「むぅぅー、やっぱりこうなったら押しの一手あるのみだよぉ! 脱ぐっ!」


 そう宣言するや否や菜々美は本当に着ている服を脱ぎ始めた!


「うわっ、ちょっと待て、早まるな!」

「……露出狂……?」


 俺たちがとめるのもかまわず菜々美は服を脱いでしまう!

 そして、露わになったのは下着――ではなく、水着だった。


 白いビキニタイプである。

 意味がわからない。


「じゃーーーん! しゅーくんのために着ていたお気に入りの水着だよーう! これなら一緒にお風呂も大丈ぶい!」


 大丈夫とVサインをかけているのか、こちらに向かってピースサインをしてポーズをとる菜々美。すごくかわいい。尊い。


「ありがたや、ありがたや」


 反射的に拝んでしまう。


「だから、拝まないでよ! ありがたがらないでよっ! 信仰の対象じゃなくて恋愛対象としてわたしを見てよー!」


 そんなこと言ってもなぁ……。


「……むう……さすが、アイドル……抜群のプロポーション……」


 瑠莉奈は自らの貧相な体と菜々美の水着姿を見比べてショックを受けていた。

 まぁ……確かに菜々美はアイドルだけあって顔だけでなく体も美しい。


 というか、すごい巨乳である。でかい、でかすぎる……。

 こんなものを直視し続けたら、目と体に毒だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る