第14話「甘えてくるアイドル」

● ● ●


 俺たちは、さっそく都内の高級ホテルに案内された。

 タワーマンションみたいな場所である。


「うおおっ……こんなところに住むのか……」


 場違い感がすごい。

 平凡な埼玉県民である俺なんか門前払いされるのではないだろうか?


「大丈夫だよ、しゅーくん! わたし何度も泊まったことあるし、そこまで緊張しなくても! いろいろと教えてあげるからね! ここに入っているお寿司屋さんすごく美味しいんだよー!」


 やっぱり菜々美とは住む世界が違うよな……。

 トップアイドルだもんな……。


「……おにぃ……やっぱりおにぃはマネージャーとして生きていくべき……豊かな暮らしは素晴らしい……」


 瑠莉奈は完全に篭絡(ろうらく)されている。

 しかし、そう簡単に将来のことなんて決められるか。

 ……まぁ、平凡な高校生である俺には将来の展望なんてものはなかったんだが。


「しゅーくん、これから一か月、じっくりたっぷり愛を育んでいこうねー!」

「お、おう……い、いや……」


 神寄さんといい菜々美といい芸能関係者は押しが強いな……。

 これくらい自己主張が強くないとやっていけないということなんだろうが……。


 ともあれ……。


 菜々美に連れられて大理石がふんだんに使われた高級感溢れるエントランスを進み、フロントで鍵を受けとり、エレベーターで最上階へ。


 部屋の中も……こんな世界あるのかと思うぐらい贅を尽くされている。

 ソファにシアターセットに、めちゃくちゃ高そうな家具の数々。

 室内は広々とした浴室つきだ。


 居心地がよすぎて、逆に居心地が悪い。

 埼玉の田舎に帰りたくなるレベル。


 というか、俺なんかがこんな高そうなソファに腰を下ろしていいのか?

 座ることもできずに、立ったままになってしまう。


「しゅーくん、ほら、座ろうよー!」


 菜々美は我が家なのかと思うくらいにくつろいだ感じで、ソファに腰を下ろした。


「お、おう……」


 キョドりながら、俺は菜々美の横に腰を下ろした。


「えへへ~♪ しゅーくんが横にいるなんてすごい幸せな気分~♪ ハネムーンみたいな気分~♪」


 菜々美はこちらの肩に頭を預けて甘えてくる。

 長い黒髪がこちらの首すじをくすぐってきてゾクゾクする。

 あとは、なんといってもいい匂いがする! うあああああ!


 い、いかん。こんな生活を一か月も続けたら、俺の理性が持つのか……!

 菜々美のことを信仰の対象じゃなくて恋愛の対象として見てしまいそうだ!


「……おにぃ……女性に対して免疫なさすぎ……童貞丸出しでキモイ……」


 妹から辛辣な批判をされてしまう。ひどい。


「えへへ~♪ しゅーくん、わたしのために今までほかの女の子とつきあわなかったんでしょ~? 嬉しいなぁー♪」


 菜々美のポジティブ解釈は相変わらずだ。

 だから、ただ単に俺がモテなかっただけだってば。


「やっぱり、しゅーくんと一緒にいると落ち着くよ~♪」


 菜々美は猫が甘えるように体をこすりつけてくる。

 そんなことをされたら、免疫のない俺には刺激が強すぎる。

 はぁはぁ……お、俺のライフは持つのか……?

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