私からキミへの小説レッスンNo.∞

ニシマ アキト

与えられた生き方

「……うーん、最初の掴みは良かったんだけどなぁ、そっからの起伏がなさすぎてねぇ……。最後の終わり方も、ちゃんと納得できるものではあるけど、あっと驚くような仕掛けがあるわけでもないし、かといって感動的なカタルシスがあるわけでもないし……、読み終えたときに読者に残るものが何もないんだよね。序盤を読んでたときはなんか面白い話になりそうだなーって思ってたんだけど、その後の展開で、読者がなんとなく予想できてたような出来事しか起こらなかったから、途中から若干飽きてくるっていうか……。もっともーっと捻くれた視点を持ってさ、常に読者の誰もが予想だにしていないような展開を考える意識を持ったらいいよ。それか、もし最初から起伏のない話を書こうとしていたんだったら、こういうキャッチーな導入はやめたほうがいいよ。読者が意外性のある展開を期待しちゃうからね。…………えーっと、ちゃんと伝わってるかな?」


「え、ええ……、それはもう、耳が痛くなるほど、よく伝わっていますよ……」


 行儀よく膝の上に両手を置いて、キラキラした瞳で私のアドバイスを待っていた滝沢は、私が話し出すと徐々に表情を曇らせていき、私が話し終わる頃にはしゅんと肩を落としてしまっていた。


 そんなにわかりやすく落ち込むなら、最初から私に原稿なんか見せなければいいのに。


「いや、別にさ、滝沢の作品が悪いって言ってるわけじゃないよ? ただ、もっと良くするためにはどうしたらいいのかっていうのを、アドバイスしているだけで」


「いいですよ、私なんかに気を遣わなくても」


「本心で言ってるんだって。滝沢は私よりも書くの上手いんだから……」


「それはないです」


 きっぱりと、滝沢は私の言葉を否定する。


「私が先輩よりも小説が上手いなんてことは絶対にないです」


「で、でも、いつも私よりも滝沢のほうがいっぱい書いてるじゃん」


「量で勝っていても、質では圧倒的に先輩が上じゃないですか。百個ある駄作より、たった一つの傑作のほうが価値が高いでしょう」


「そ、そうかもしれないけど……」


 今年の四月に入学した新入生の内たった一人だけ文芸部に入部届を提出してきたこの滝沢とかいう後輩は、私のことを過大評価している節がある。

 

 私は小説を読むのも書くのも好きじゃない。でも、滝沢は毎日、そんな私に自作の小説原稿を見せに来て、アドバイスを求めてくる。滝沢の夢は小説家で、滝沢の小説に対する熱意には凄まじいものがあって、だから作家志望ですらないずぶの素人である私が不遜にも滝沢にアドバイスをするのは気が進まないんだけど、滝沢は本心から純粋に私を尊敬している。


 滝沢は、私に小説を見てもらうためだけに、この廃部寸前であった文芸部に入部してきたのだ。


 三月に三年生の先輩三人が卒業してしまって、四月になると文芸部には当時幽霊部員であった私一人しか残されていなかった。その時点で、新入生の中で文芸部に入る人間が一人もいなかったら廃部にしよう、と顧問に言われていた。私は文芸部にはほとんど顔を出していなかったし、特に何の思い入れもなかったので、廃部になろうが正直どうでもよかった。何かチラシを配ったりして積極的に勧誘活動を行うこともなく、部室の前に机を出してそこに座って、部室棟の端っこにあるこの部室まで奇跡的に辿り着いた新入生だけを、形だけでも勧誘しようと思っていた。


 そして、奇跡的に辿り着いてきたのが、滝沢だった。


 仮入部期間の二日目。私が机に座って欠伸を漏らしながらスマホでSNSを巡回していたところ、「あの、すみません」と、とても弱々しいか細い声が聞こえてきて、私は慌てて眠りそうになっていた目を見開いて、笑顔で顔を上げた。


 艶めいた長い黒髪をそのまま流している、黒い丸眼鏡をかけた女の子。今まで一度も口角を上げたことがないんじゃないかってくらい無表情の仏頂面で、この世の全てを諦めたような冷徹な瞳をしていた。


 確実に明るい性格をした人ではないってことは、一瞬でわかった。


 別に悪い意味じゃないけど、まあ、いかにも文化部って感じの女子だった。


 ショートカットでコンタクトでスカート丈を短くしている私とは正反対なタイプ。


「どうしたの? 道にでも迷った? 何部に行こうとしているの?」


 私が精一杯の品の良い笑顔で愛想良く問いかけると、滝沢が少し眉根を寄せた。


「……あの、文芸部って、ここであってますよね」


「えっ? あ、ああ! そう! ここは文芸部だよ」


 なんとなく写真部とか茶道部に行きそうな子だなと思っていたけど、写真部とか茶道部に行きそうな子は文芸部にだって行くだろう。


「入部希望の人?」


「……あっ、あー、いや、ちょっと迷ってて……」


 それから滝沢は首を回して挙動不審に辺りをきょろきょろと眺め始めた。廊下には私たち以外に誰もいなかった。隣の茶道部が何やら盛り上がっていて、部屋の奥から女の子のくぐもった黄色い声が聞こえてきた。


「あの……」と言って、滝沢は両手の人差し指で四角形を形作るジェスチャーをし始めた。意味がわからなかったので首を傾げると、滝沢は「え、えっとー……」と困惑し始めた。


 さっきからずっと動きが不審で奇怪だった。コミュ障ってやつかな。


「どうしたの? 何をお求め?」


「……せっ、先輩、って、小説、書いたことありますか?」


 滝沢は自分の首を触りながら、目を逸らして言った。


「……えーっと、一回だけあるよ。去年の文化祭のときに、ページ数の調整のために先輩に無理矢理書かされてね」


「そっ! それって、今、見せてもらうことってできますか?」


 滝沢は急に目の色を変えて、机に手をついて身を乗り出してきた。私は苦笑いで少し身を引く。


 やばい。この子変人だ。


「去年の文化祭の部誌が見たいの?」


「は、はい。ぜひ!」


「じゃあ、中に入って」


 私は席を立って、部室の扉を開けた。


 部室内で私が本棚を漁って部誌を探している途中、滝沢は椅子に姿勢よく座って肩を強張らせていた。単に緊張しているのか、それとも、こういうときにどう振舞えばいいのかわからないのか。滝沢だったらどちらもあり得そうだな。


「はい。これでいいかな?」


「ありがとう、ございます……」


 滝沢の隣に座って薄い部誌を差し出すと、滝沢は眼鏡をくいっと上げて、おずおずとそれを受け取った。


「……あの、先輩の名前って……」


「ん、私? 私は木野。木野アカネ」


 目次のページを開きながら質問する滝沢に答えると、滝沢はこちらに目線も寄越さないまま、ぱらぱらとページをめくって私の作品を探し始めた。


「え、待って。もしかして私の作品だけ読むつもり? 本人の前で? ちょっとやめてよ~、恥ずかしいじゃん」


 私が冗談めかしてそう言う頃には、滝沢は既に文字を目で追い始めていて、私の声も全く耳に入っていない様子だった。


 それから滝沢は完全に目の前の文字列に集中してしまって、私が何か言っても全く反応も返さなくなったので、私も頬杖を適当にスマホを弄り始めた。部誌を読んでいるときの滝沢は、眼鏡をかけているのにも拘わらず近眼みたいに本に顔を近づけていて、少ししかめっ面で、なんだか目が怖かった。


 十五分ほど経ったあと、不意に滝沢がぱたりと本を閉じて、ふーっと長いため息を吐いた。


「お、読み終わった?」


「……はい。たった今」


「どうだった? 一応それ、私が人生で初めて書いた作品だからさ、多少は甘めに見てほしいんだけど」


 私がスマホをポケットにしまいながら笑顔で言うと、滝沢はゆっくりと椅子から立ち上がった。


 滝沢は私に向いて、床に膝をついて、正座した。


「な、なに? 急にどうした?」


「……あの、先輩」


 そして滝沢は、正座したまま、私に向かって深々と頭を下げた。


 土下座だった。


「私を弟子にしてください!」


 高校一年生の女子が身体を丸めて土下座する姿というのは、誰かが上から足で踏みつけてしまえばこの子の人生の何もかもが一瞬にして全て崩れ去ってしまいそうな危うさという虚しさのようなものを孕んでいて、それと同時に見ているとなぜだか笑えてくるような面白味もあって不思議だなとか思っていたら、滝沢が床に額を擦りつけながら大声で何か言っていて、つまり私は開いた口を塞ぐことができなかった。


 やっぱりすげぇ変な奴だ、こいつ。


 たぶん友達なんか一人もいないんじゃないかな。


「…………あー、あの、ごめん、なんで弟子?」


「先輩の小説に感銘を受けました。これから先輩の下で学ばせてください」


「……私がキミに教えられることなんて何もないよ? あのさ、キミは何か勘違いをしてるんじゃない? その作品って別に、先輩や先生にものすごく褒められたりしたわけでもないんだよ。つまりさ、本当にたまたま、私のその作品が偶然にもキミの琴線に触れたっていうだけなんじゃないの?」


「いえ、違います。客観的に見て先輩の作品は素晴らしいです。あの作品の魅力には普遍性があります。そして、その作者である先輩には才能、いや、確固たる実力があります。だからぜひ、その実力のひとかけらだけでもいいので、私にご教授していただきたいんです」


「あ、あのさ……とりあえず、椅子に座って?」


 私が言うと、滝沢はやっと床から顔を上げて、膝の埃を少し払ってから、私の隣に座り直した。


「うん、師匠としてまず最初にキミに教えるべきことがひとつ思いついたよ」


「はい! なんですか?」


 滝沢は目を輝かせて、膝に手をのせて姿勢よく私の話を聞こうとしていた。


 さっきまでとは露骨に態度が変わっていた。


 ……うーん、何から何まで極端にやっちゃうタイプなんだろうな、この子。


「あのね、初対面の人に対して土下座をしちゃいけません。困っちゃうし、けっこうずるいやり方だよ、それ」


「あ……あ、えっと、その、ご、ごめん、なさい……」


 滝沢はわかりやすく狼狽して、あわあわし始めた。年下らしい可愛げもあるんだな。


「じゃ、入部希望ってことでいいのね?」


「は、はい。よろしくお願いします」


「あとで顧問に入部届出しといてね。そんで、何か活動したくなったら、放課後に二年六組の教室まで来て」


「きょ、教室、ですか?」


「どうせ私しか部員いないからさ、呼びにきてよ」


 最初にそんなことを言ってしまったのが私の最大の間違いだった。


 この発言のせいで、私は部活をサボれなくなってしまったのだ。


 幽霊部員であることを許されなくなった、と言うべきか。


 まさかその日から毎日放課後になった途端に滝沢が教室までやってくるなんて、そのときは思いもしなかったんだ。


 わざわざ教室まで来られてしまっては私も滝沢に付き合ってやるしかなくなる。最初から部室集合という形にしておけばこんなことにはならなかったのに。


 土下座されたあの日からずっと、テスト期間だろうか何だろうが、私は放課後になると毎日滝沢に手を引かれて部室に連行されていた。そして滝沢はほとんど毎日一万文字程度の小説を書いてきて、私にアドバイスを求める。はっきり言って、滝沢の行動は理解不能だった。ちゃんと朝から学校に来て授業を受けている普通の高校生が、どうやったら一日に一万文字も小説を書けるのかもわからないし、たった一度短編を書いたことがあるだけの私にアドバイスを求めてくるのもよくわからない。


 いや、もうたった一度じゃないのか。


 先日、滝沢にせがまれたので私も重い腰を上げて小説を書いたのだ。二週間ほどの時間をかけて約二万文字の短編を書き上げた。それを滝沢に読ませたら、やっぱりあのときと同じように「先輩には一生かかっても手が届きそうにないですね」とかいう過大評価をされた。


 私の作品を読んだ文芸部の先輩は一言も私を褒めたりしなかったぞと言っても、「きっと、残酷なまでの圧倒的な才能の差を認めたくなかったんでしょう。あの部誌の他の作品を拝見したところ、その先輩方はかなり努力して書いていそうな雰囲気が見受けられましたので。先輩みたいな幽霊部員が、ちゃんと努力している自分よりも小説が上手いだなんて、誰だって認めたくないでしょう」という、何とも嘘くさい話を聞かされただけだった。


 そうして今日も、私は滝沢の小説を読んで、素人なりの精一杯のアドバイスをしていた。私は別に辛口のアドバイスをしているつもりはないんだけど、なぜか滝沢はいつも私のアドバイスを聞くとしゅんと肩を落として、悔しそうな表情になる。聞いて不快になるならアドバイスなんか求めなければいいのにと思うけど、滝沢は懲りずに毎日私のもとへやってくる。メンタルが強いんだか弱いんだか。


 でも、さすがにこんな生活を続けるのもだんだん嫌になってきた。


 滝沢は友達もいないし小説を書くこと以外に生きがいもないからいいんだろうけど、私は滝沢の小説を読む以外にも生きがいがあるんだ。


 隣の滝沢は私から返された原稿をぱらぱらと捲って、何やら熱心に赤ペンで文字を書き込んでいた。私のアドバイスは赤ペンでメモをとっておくほど重要なことなのだろうか。よくわからない。


 滝沢から首を反転して、窓の向こうを見る。最近は日が長くなってきていて、五時を回ってもまだまだ明るい。気づけば夏服は完全に日常に馴染んでいるし、夏休みはもうすぐ近くに迫っている。八月になればぼちぼち文化祭の準備を始めないといけない。たぶん滝沢は部誌を出したがるだろうし、私は一応文芸部の部長だし。


 ぼーっと窓の向こうを眺めて、西日の眩しさに目を細めていると、「あ! 先輩危ない!」と滝沢が大声で言って、そのまま滝沢に押し倒された。


 がたがたっと派手な音がして、私は尻を床に打ち付ける。滝沢が私に覆いかぶさるような体勢で、私の肩を押さえつける。


 ただひたすらに困惑した。


「えっ……え、な、何? 何が危ないの?」


「……ご、ごめんなさい、先輩……」


 西日がちょうど陰になって、私に馬乗りになる滝沢の表情は窺いしれなかった。


「ちょっと……もう少しだけ、このまま……」


 ただ、滝沢が赤面していることだけはわかった。


 人に押し倒されたことなんてこれが初めてだった。身体の自由を封じられた状況で人に密着されるというのはこんなにも不安なのかとか、いや滝沢に密着されて何が不安なんだろうとか、とにかく頭が混乱していたとき。


 ぱりーん、と。腑抜けた硬質な音が聞こえた。


 視界の端に、ころころと床を転がる野球ボールが見えた。


「あっちゃー、ごめんなさーい」という、男子の間延びした陽気な声が聞こえてきて。滝沢が押さえつけていた手を離したので上体を起こすと、穴の開いた窓から私たちの様子を見ている制服姿の男子と目が合って。


 私が上体を起こしたせいで、私と滝沢はちょうど床で抱き合っているような体勢になっていて。


 その男子は見てはいけないものでも見たかのように目を見開いて、口元を手で覆っていた。


 それから、逃げ出すように校庭の奥へ走り去っていってしまった。


 野球ボールは部室に転がったまま。


「あの人、野球部じゃないよね」


 私が立ち上がって、背中の埃を払いながら言うと、滝沢も気が付いたように慌てて立ち上がった。


「あ、そ、そうですね。坊主じゃなかった、ですし……」


「野球部が活動してるところはちゃんとネット張ってるし、こっちまでボールが来ることはないからね。友達とキャッチボールでもしてたのかな?」


「……おそらく、そうでしょうね」


 私は床に転がる野球ボールを拾い上げて、滝沢に差し出した。


「あの男子どっか行っちゃったし、このボール職員室に届けて、窓割れちゃいましたーって言ってきて。そしたらそのまま帰っていいよ。今日の活動は終わり」


「え……、もう、終わりですか?」


「だって滝沢の原稿はもう読んじゃったし、このまま二人でいてもやることないじゃん。ね?」


 私が微笑むと、滝沢は困惑したような表情で私から野球ボールを受け取った。


「……なんだか、最近はいつも終わるの早くないですか」


「んー? 別に、一刻も早く終わらせたいと思ってるわけじゃないよ。ただ、やることがないから終わりにしているだけで」


「わ、私は、……私は、もっと……」


「ん、なに?」


 滝沢は首を触りながら、不服そうな顔で口ごもった。


「……いえ、ごめんなさい。なんでもないです」


「そう? じゃ、また今度ね」


 一緒に部室を出て、鍵を閉めて、私は昇降口へ、滝沢は職員室へと、それぞれ違う方向に歩き出す。 


 自然と歩調は軽くなり、馬鹿みたいに頬が緩んでくる。


 実を言えば、私はいつも、一刻も早く文芸部の活動を終わらせようとしている。


 私には、文芸部の活動よりもずっと大事なことがある。


 文芸部の活動よりも、可愛い後輩に構ってやる時間よりも大事なことが、私にはある。


 けれど、滝沢にとっては文芸部の活動がとても大事なことであることも理解している。早く終わらせたいからといって滝沢の原稿を適当に斜め読みすることはなく、滝沢が本気で書いた原稿に本気で向き合っているし、その上でちゃんと率直なアドバイスをしているつもりだ。


 滝沢が小説に対して本気であることは私も理解している。何かに本気で打ち込んでいる滝沢を尊敬すらしている。だけど、私まで小説に本気になる必要はない。


 私にだって、私なりの生き方ってものがあるんだ。


 それを滝沢に邪魔されてはかなわない。





 滝沢と別れた後、薄暗い夕暮れの街中を自転車で疾走して辿り着いたのは、隣町のゲームセンター兼バッティングセンター。


 本来女子高生が一人で入るには少しハードルの高い場所なのかもしれないが、そんなことをいちいち気にするような段階はとうの昔に通り過ぎている。


 適当に自転車を駐輪して店内に入って、入り口付近に設置してあるUFOキャッチャーの間を縫うようにするすると進んでいき、奥地へと入り込んでいく。


 音ゲーやらカードゲームやらの筐体が並んでいる区画のさらに奥、照明が少なくひと際薄暗いその場所には、前時代の忘れ去られたあらゆるアーケードゲームがずらりと並んでいる。


 その中の格ゲーの筐体の硬い椅子に座って、五十円玉を投入する。


 滝沢の生きがいが小説であるなら、私の生きがいは、この格闘ゲームだった。


 中学生の頃にワンプレイ五十円だったからなんとなく興味を持って一度触ってみたら、それからすっかりハマってしまった。


 現代の最新ゲームにはない、当時のドットの質感とか、特有の角張ったような操作感とか、絶妙にチープなSEとか、色々あるけど、やっぱり一番の魅力はそのゲーム性にある。


 この時代のゲーム特有の、とてもシンプルでわかりやすいゲーム性。余計に派手な演出や、覚えきれないほどの対戦要素が全て削ぎ落された、プレイヤースキルが如実に表れる良い意味で単純な対戦システム。


 現代にある全ての対戦格闘ゲームの元祖ともいえるそのゲームに、私はすっかり魅了されていた。


 道中のコンビニで買ってきたカップ型のスティック菓子を横に置いて、それを口に咥えながらがちゃがちゃとコントローラーを動かす。基本的にはいつもCPUと対戦するだけなんだけど、ごくたまに、無言で向かい側の筐体に座って私に対戦を申し込んでくる人がいる。


 そして今日も、ワンプレイが終わって私がもう一枚五十円玉を入れようとしたとき、筐体を挟んだ向こうに人の気配を感じた。


 薄暗くて顔はよくわからなかったが、どうやら女性のようだった。その女性は軽く私に頭を下げてから、筐体の前に座り込んだ。


 互いに無言のまま、流れるように対戦が始まる。女性プレイヤーと戦うのは初めてだったけど、まあゲームに男も女も関係ない。たぶん勝てるだろう。


 だって私は、このゲームで一度も負けたことがないんだから。


 そして対戦が始まり、女二人がゲームセンターの隅っこでコントローラーをがちゃがちゃ激しく動かし合って、約五分ほどの死闘を繰り広げたのちに。


 私の身体中の血管はこれまでにないほど熱く激しく震えていた。


 歯を食いしばって、目をガン開いて、震える拳を握った。


 目の前のゲーム画面を叩き割ってしまいそうなくらいに、頭が沸騰していた。


 ふーっふーっと口で深呼吸してなんとか精神を落ち着けようと試みるけれど、私のイライラは全く冷める気配がない。


 ――つまり私は、この女性に敗北した。


 それもただの敗北ではなく、完膚なきまでの敗北。


 手も足も出なかった。本当に文字通り、私の操作キャラは相手キャラに手先も足先も触れることができなかった。


 その女性と私とではまるでレベルが違った。いや、次元が違う。


 私の行動が全部読めているような動きだった。私の攻撃は全て悠々と防がれて、逆に私が防げないタイミングで的確に攻撃を入れ込んでくる。


 相手はノーダメージで私に勝った。いわゆるパーフェクトゲーム。


「……あの、すみません」


 悔しさに打ち震えていた私の肩が不意に叩かれて、私が歯をくいしばった見るに堪えない表情のまま振り返ると、そこにはさっき別れたはずの後輩の姿があった。


 滝沢はなんだか気まずそうな様子で、変な表情の私を見下ろしている。


「あ、あの……、ご、ごめんなさい。つけ回すようなことをしてしまって」


「は? つけ回す?」


「え、気付いてなかったんですか?」と、滝沢は面食らった様子で言う。なんなんだこいつ。今の私にあんまり意味不明なことを言うと怪我するぞ。早く離れてくれ。


「先輩が部活が終わった後にものすごく急いだ様子で自転車で走り去っていくので、何か変なことをしているんじゃないかと思って、後をつけてみたんです」


「変なことって、なぁ……? 私が変なことをするように見えんのかぁ……?」


 私のクラスの眼鏡をかけた低身長の男子は、毎日放課後になるととんでもない速さで一目散に教室を出て行くけれど、だからって彼が放課後に何か変なことをしているんじゃないかと勘繰ったりする人はいない。


「ち、違いますね。えっと、先輩のことが、気になったんですよ。ほ、ほら! 私って先輩の小説のファンじゃないですか。だから、作者の先輩が気になっちゃうっていうか……」


「……ぃいーみがわからん」


「……その、ごめんなさい……」


「そんなに謝らんでいいよ。別に悪いことしたわけじゃないし、私は怒ってないし。いや今は怒ってるんだけど、滝沢に対して怒ってるわけじゃないから」


「えーっと、じゃあなんでそんなにイライラしてるんですか?」


「さっき負けたからだよぉオー」


「じゃあ、やっぱり私に怒ってるんじゃないですか」


「は?」


「え?」


 私は立ち上がって筐体の向かい側を覗き見た。そこには誰も座っていない。そしてまた座って、隣の滝沢を見る。滝沢は不思議そうな顔で私を見つめていた。


「さっき私と対戦してたのって、滝沢?」


「そうですよ。他に誰がいるんです?」


 あくまでも不思議そうな顔で首を傾げる滝沢。確かに周りには私たち以外に人の姿はないけれど……。


 ……やべぇ。一瞬でも滝沢の顔面を殴りたいと思ってしまった自分を呪いたい。


「ま、まぁ、まあまあまあまあ。とりえず座りたまえよ、戦友」


「え、あ、はい……」


「そしてこれを食べたまえ」


「あ、ありがっ! とございます……」八つ当たり気味に、スティック菓子を滝沢の口に無理矢理入れ込むと、滝沢は口を噛みながら慌てた様子で咀嚼した。ふむ、やっぱり可愛いなこいつ。


「滝沢は、このゲームけっこうやってるの?」


「いえ、今日で二回目です。昔、スーパーファミコンで一回だけ同じゲームをやったことがあります。お父さんが持っていたので」


 ちなみにこのゲームがスーパーファミコンに移植されたことはない。だから滝沢が言っているのはきっと違うゲームだ。


 つまり、滝沢がこのゲームをやるのは今日が初めてということになる。


 今日になって初めてこのゲームを触ったような奴に、私は完全なる敗北を喫したというわけだ。


「先輩は、こういうゲーム好きなんですか?」


「え、私? 私は、まあ……あんまりやらないかな~。このゲームも今日初めてやったしねぇ、うん」


 プライドが勝手に口を動かしてすぐにバレるような嘘を吐いてしまう。


 イライラはまだ治まらないまま、胸の中がどんどん黒く濁っていって、自分の胃が何かに押しつぶされそうになる。


 腹の奥で、静かにふつふつと燃え上がる、黒い炎のような、不健康な感情。


 どうにかしてこの滾る感情を発散したくなる。でもこの感情を発散する方法なんか皆目わからなくて。


 なんなんだ、これ。


「……ごめんなさい、私はいつも先輩に気を遣わせてしまいますね。さっきだって、私のほうが気を遣うべきだったのに……。本当に、ごめんなさい」


「な、何を言ってるの?」


「私、五秒後の未来が見えるんですよ」


 滝沢は真面目腐った表情で、そう言った。


 ……やっぱりどこまでも変な奴だ、こいつ。


「……キミは本当に何を言ってるの?」


「五秒後の未来が見えるって言ってるんです」


「いやいや、意味がわかんないって」


「だから、そのままの意味です。私には五秒後の未来が見えます」


 一度深くため息を吐いて、私は滝沢の肩に手を置いた。その手で滝沢の肩を握りつぶしてしまわないように注意しながら。


「「一旦外に出ようか。ここじゃ色々騒がしくて落ち着かないし、声も通りづらいからね」」と、滝沢が私と全く同じタイミングで、寸分違わず同じ台詞を口にした。


「な、何、今の」


「五秒後の未来が見えるので、先輩が次に何を言うのかもわかっていたんです」


「は、はあ……そう……」


「これで信じてくれましたか?」


「おうおうおう、わかったわかった。とりあえず黙れ」


 私は乱暴に滝沢の手を引いた。





 ゲームセンターを出ると、外はすっかり夜の闇に包まれていて、少し冷たい風が頬を撫でた。


 私が自転車を押して、滝沢がその隣を歩いて、近場の公園に辿り着く。


 砂場に玩具が残されていたり、お菓子のゴミが落ちていたりと、夕方に遊んでいたであろう小学生の残滓が感じられる公園のベンチに二人並んで座って、間にスティック菓子を置いた。さすがの私も、ここまでくればイライラもだいぶ治まっていた。


「で、さっきの話は何?」


「つまりですね、私には五秒後の未来が見えるので、私があのゲームで先輩に勝てるのは当然のこと、なんですよ」


「はぁ……? はあ……」


 いやまあ確かに、仮に本当に五秒後の未来が見えるのだとすれば、あのゲームで勝つのはとてつもなく簡単になる。だって相手が次にする行動が全部把握できるのだから、自分もそれに合わせて適切な行動を選べばいいだけだ。


 滝沢が本当にそんな能力を持っているのなら、私があれほど完膚なきまでに敗北したのも納得できるけれど。


「あのさ、キミこそ私に気を遣いすぎていないかい? そんな下手な嘘までついちゃって」


「いえ、これは嘘ではなくただの事実です。確かに私は、先輩があのゲームを数年前から熱心にプレイされていることは知っていましたが、気を遣っているわけではありません」


 知ってたのかよ。いやなんで知ってるんだよ。


「あの、先輩。今日、野球ボールが部室に飛んできたじゃないですか」


「え? ああ、そうだったねぇ」


「それで私は、あの野球ボールが飛んでくる五秒前に先輩を押し倒しました」


「うん、そうだね。あれはびっくりしたよ」


「……いや、あの、わかりませんか?」


「え? 何が?」


「私は、先輩の頭に野球ボールが直撃する未来を見て、咄嗟に先輩を床に押し倒したんですよ」


「……はぁ? あんなのたまたまでしょ」


「たっ! たまたまじゃ、ないって……!」


 滝沢が迫真の表情で身を乗り出してきたので、「じょ、冗談じゃん~!」と言いながら滝沢の肩を抑え込んだ。


「わかったよ。滝沢には五秒先の未来が見えるんだね。だったらさっさとテレビ局とか雑誌編集社に行ったみたらどうかな。きっといっぱいお金がもらえるよ」


「いえ、それはできません。私がこんな能力を持っていることが世間に知られたら、私は明日から生きていけなくなっちゃいますよ」


「……んー、まあ、そっか、そうだね」


「たぶんみんなに薄気味悪がられて、学校ではいじめに遭って、卒業した後も私を雇ってくれる就職先なんかどこにもなくて、どうしようもなく路頭に迷っていたところで、海外のどこかにある危ない研究所に拉致されて、好き勝手に私の脳みそを解剖されたりするんですよ、きっと」


「そっか、想像力豊かな滝沢には、そういう突飛な未来が見えるんだね」


「……? 私に見えるのは五秒後の未来だけですよ」


 そういうことを言っているんじゃないんだけどな。もういいや。


「別に有名人にならなくても、その能力でお金を稼ぐ方法はいくらでもあるでしょ。例えば、さっき私を負かしたみたいにして、プロゲーマーにでもなったらいいんじゃない? そんな能力があるんだったら、どんなに技術のある人にだって勝てるよ」


「え、でも……先輩は、いいんですか?」


「え?」


「先輩は、プロゲーマーを目指していたんじゃないんですか?」


「…………」


 私は滝沢の無表情から目を逸らして、自分の膝に肘をついて、長い息を吐く。私たち以外に誰もいない夜の暗い公園で、一日の疲れを肩に感じて。


 私は顔を手で覆って目を閉じた。


 私はプロゲーマーを目指していた。いや、正確に言えば、今も目指している。


 私がプレイしているあのゲームは二十年以上も前のゲームであるのにも関わらず、今でも年に一回世界大会が開かれていたりする。


 ちょうど一年ほど前、県内でも最大規模のゲームセンターで、偶然にもあのゲームの大会が開かれていたことがあった。もちろん私もエントリーしたのだけど、私はそこですんなり優勝できてしまった。小さな大会で出場者は八人しかいなかったけど、決勝戦でもかなりの大差をつけて私が勝利した。


 思えば、あの大会で優勝したときから、私は本気になり始めたんだんだ。


 それまでただの娯楽に過ぎなかったゲームが、生きる理由にまで昇華していった。


 いつか世界大会に出るために、まずは日本国内でトッププレイヤーにならなければならない。


 そのために、放課後に部活を早めに切り上げて、滝沢と早々に別れて、ろくに友達とも遊ばずに、毎日ゲームセンターの薄暗い隅っこを一人で陣取って、ひたすらゲーム画面と向き合っていた。


 今まで、ありとあらゆる時間を、私はあのゲームに捧げてきた。

 

 いや、時間だけでなく、私のあらゆる大切なものを犠牲にしてきた。


 それなのに。


 それなのに、私は滝沢に負けた。


「……別に、そんなの目指してないよ。私にとってあのゲームはただの遊び」


「で、でも、仮に私がプロになっても、なんかインチキっぽいってうか、なんていうか……」


「インチキなんかじゃないでしょ。それは滝沢が持っている純粋な能力なんだから。反射神経が良いとか、そういうのと一緒でしょ。何のタネも仕掛けもないんだったら、不正じゃないよ」


「そう、なのかもしれませんけど……」


「いいじゃん。私がそんな能力持ってたら絶対やるけどなぁ、プロゲーマー」


「……でも、私は小説家になりたいんですよ」


 少し震えた声で、滝沢が言った。


「小説を書く上では、こんな能力、何の役にも立ちません」


「えぇ……まあ、そうかなぁ……」


「そうですよ。五秒後の未来が見えたって、何か良いアイデアが思いつくわけではありません。五秒後の未来を見たって、美しい文章も、魅力的なキャラクターも、何も降ってきません」


「…………」


「私はこんな変な能力よりも、小説家の才能が欲しかったんです」


 ……ふむ、つまり、こういうことか。


 きっと神様は、私と滝沢という人間を造り出す際に、その中身の能力を取り違えちゃったんだろうな。


 滝沢いわく、私には天性の小説家の才能があるらしい。そして滝沢には、五秒後の未来を見通す能力、言い換えればあのゲームで勝つための才能がある。


 しかし、私たちの意志はその能力とはまるっきり違う方向へと突き進んでいる。


 小説の才能がある私の意志はゲームへ、ゲームの才能がある滝沢の意志は小説へ。


「ままならないもんだね」


「いや、基本的に世界はそういう風にできているんですよ。自分が本当に望む生き方なんてできないんです。自分のやりたいように、自分のためだけに生きることはできない。世の中の大抵の人間は、与えられた役割をまっとうするだけで生きていくしかないんですよ。たとえ能力が自分の望むものではないにしても、役割を与えられているというだけ私たちはまだマシなのかもしれませんね」


「…………」


 ……やっぱりこの後輩、あんなに多くの小説をとんでもないスピードで量産できるにしては、少し頭の回転が鈍いんだよな。


 視野が狭いっていうか、思慮が浅いっていうか。


 私みたいな先輩がいなかったらどうするつもりだったんだろうなぁ、本当に。


「おい滝沢」


「な、なんですか?」


「滝沢はさ、今現役で活躍している世の小説家たちが全員、才能のある人間だと思うか?」


「えっと、そうですね。……やっぱり、才能がある人なんじゃないですか」


「……ッハァーーーーーーーー……」


「何ですか。その心底人を馬鹿にしたようなため息の出し方は」


「そんなんだからいつまで経っても小説が上手くならないんだよお前は」


「はっ、……は、はぁ?」


「才能がないと小説家になれないなんて考えてるからお前は一向に上手くならないんだろぉ~?」


「……で、でも、実際そうでしょう。才能がない人が小説家になることは難しいです」


「じゃあ貴様は一生かかっても小説家になれないってことになるなぁ~?」


「……それは……で、でも」


 私は滝沢の手を軽く握った。滝沢は気まずそうな様子で口をすぼめている。


「さっき滝沢が言ったように、自分の目的と能力が奇跡的に一致している人なんてとても少ないんだ。滅多にいない。たぶん現存している小説家の数より少ないだろうね」


「…………」


「そもそも、私に小説の才能なんかないんだよ。そんで、滝沢にもゲームの才能なんかない」


「それは嘘でしょう。先輩は明らかに私とはスタート地点が違います」


「でもね、私は滝沢と違って小説を書かないんだ。これから書きたいとも思ってない。ああやってちまちま文章を書いていく作業なんかやっていられないからね。能力を発揮していないんだったら、そんな能力はないのと一緒でしょ?」


「……で、でも、私には先輩みたいな小説を書く力は……」


「滝沢は小説を書くことができるでしょう。一日に一万文字も書けるし、ちゃんと技術を磨くために努力する姿勢もある。それって才能よりもよっぽど貴重で重要な能力なんじゃないかな?」


「そう、なんですか、ね?」


「師匠の言ってることなんだから素直に信じなよ。滝沢は才能のある私よりも小説家になれる可能性が高いんだ」


「そ、そうですよね! きっとそうですよね!」


 滝沢は私の言葉にいたく感動した様子で目を煌めかせているけれど、しかし私の言っていることは所詮綺麗ごとに過ぎない。


 滝沢が私に小説で勝つことは絶対にできない。一生かかっても、絶対に不可能だ。


 けれど、だからといって滝沢がプロの小説家になれないということはない、というのもまた事実だろう。


 もし私が本気で小説に向き合って、滝沢と同じくらいのスピードで書いて日々努力するようになれば、きっと私は一瞬にして滝沢の心をへし折ることができるだろう。


 だけど私はそんな真似はしない。


 滝沢は本当に真っ直ぐで純粋で、ひたむきに頑張っていて、愚直に何でも実践しようとする。滝沢は他の人間が持ちえない唯一無二の絶対的な才能を持っている。


 その溢れ出る無限の活力が、滝沢の最大にして最強の才能だ。


 私が滝沢の立場だったら、おそらくあの日、初めて部室に来たときに私の小説を読んだ瞬間、もう二度と小説を書かなくなっていたと思う。自分よりも圧倒的に才能がある人間を目の前にして、しかもそいつが私みたいな腑抜けた女だったのだから、自分のやってきたことの全てが馬鹿らしくなってしまって、何もかも投げ出してしまうだろう。


 しかし滝沢は、あろうことかその場で土下座して、私に弟子入りを申し出た。


 それから毎日、一日に一万文字ずつ書いて、師匠である私の元まで持ってきて、アドバイスを求めている。


 滝沢に天性の才能はないのかもしれない。けれど、滝沢はいつか絶対に小説家になるだろう。滝沢なら、小説家になれるまでいつまでも無限に頑張り続けるだろう。小説家に慣れるまで絶対に諦めない。だから、どれだけ時間がかかっても、滝沢はいつか必ず小説家になれる。


 滝沢は明日からも無限に小説を書いて無限に私にアドバイスを求めてくるだろう。そして私は明日からもそんな可愛い後輩のために、無限にアドバイスをし続けるだろう。


 そうして滝沢は、自分の才能とは全く逆方向の夢に向かって、明日からもひた走っていく。


 だけど私は。


 私は、滝沢のようにはできない。


 だから私はもう、明日から二度とゲームセンターに行くことはないのだと思う。


 それでもいい。それが人生っていうものだ。


「先輩にはいつも、学ばせてもらってばかりですね」


 そう言う滝沢の、こちらへの憧憬に満ちた表情が眩しくて、私は思わず目を細めた。


 私は少し、疲れてしまったのかもしれない。


 そんなことを思いながら、私は滝沢を殴るための拳をそっと引っ込めた。

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私からキミへの小説レッスンNo.∞ ニシマ アキト @hinadori11

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