第153話 学校組との再会
「さて、ということで明海」
「なぁに、お兄」
「俺は表向きこっちの女ボディで動くことにする」
「メインはボディスーツで、司令塔としての顔はそっちってこと?」
「間違っちゃいないが、いや、多くは言うまい」
「お兄はえっちだからねー」
「そこ、誤解を招くような言い方しない」
美影がじっとこちらを見てるのを居た堪れなくなりながら、誤解を解く。
「いいか、まず前提条件としてだ。俺がお前らに出会った時のボディはどっちだった?」
「女の子」
「だろう? そこで男の俺が出ていって、お前らを助けに来た! みたいに言ったとしよう」
「うん、それで?」
「助けに来た、と言う割に俺が一人。俺を知ってる人はいい、しかし知らない人はどう思う? 俺がどこから来たかわからないと思わないか?」
「あ、うん。そうだね」
「でも助けられて料理を振る舞った俺ならどうだ? 女の方としての名前と顔は売れている。ここで無理をして男で通す意味はないと思わないか?」
「まぁ、言わんとすることはわかる」
「なんでスパッとわからないかな、こいつは」
「いや、だって。凛華お姉ちゃんとの合流時はどうするのさ」
そりゃ、念話だろう。
「俺とあいつの仲だから」
それこそ阿吽の呼吸で。
「女体化させられて、妊娠させられたことを話したら、どれだけ深く愛し合ってたって百年の恋も冷めるんだからね?」
「おい、絶対にそのことだけは凛華に言うなよ?」
ほじくり返されたくない過去を真っ先に暴くのはやめろ!
たとえ乗り越えた過去のことだとしても。
あー、こいつに言うんじゃなかったな。
本当にどこでポロッとこぼすかわかったもんじゃない。
「兄上殿のことだから大丈夫だろうとは思うでござるが、ライトニング殿の心配も察してあげてほしいでござるな」
「むぅ、まぁ俺は自分のことになると途端に鈍くなるからな。心配してくれてるのはわかるが、お前は言葉が軽いからなぁ、兄ちゃん心配なんだ」
「だ、そうでござるぞ、ライトニング殿?」
「あたしだってお兄のこと心配してるんだからねー」
と、まぁおおよそはこれで口裏を合わせた。
「そして俺のブラッドが回復し次第、紹介したい眷属がいる」
「また新しい女の子たぶらかしたの?」
「お前はまた誤解を生むようなセリフを」
「流石に手にした眷属全てが女の子というわけではござらんだろう」
「そっか、ごめんごめん。てっきりお兄のことだから妹の目が届かないところでハーレムを気づいてると思ってて」
ニシシ、とまるで反省してない顔。
俺は浅く深呼吸しながら、ニョロ蔵という蛇との馴れ初めを話した。
「なるほど、そのニョロ蔵ちゃんという蛇が新しい眷属なんだー」
「ちゃんをつけるな。ニョロ蔵は男の子だぞ? いや、蛇だからオスというべきか」
「それが、人語を喋って人型になったと」
「兄上殿の血から生まれたからパパ扱いされてると」
「そういうことだ」
「で、この子がそのニョロ蔵ちゃん?」
会話をしていたら、勝手に俺の影から出てきたニョロ蔵、もといイリア。
「パパ、呼んだ?」
「ああ、そろそろお母さんの元に帰ろうと思ってな。ブラッドを大量に消耗してしまったから、お前の蘇生をする分を溜めてたんだ。待たせてしまって悪いな」
「全然だよ! お母さん、心配してるかな?」
「ああ、してると思う。世界を繋げてくれるか?」
「うん、やってみるね」
そんな俺とイリアの会話を、ヒソヒソと耳打ち撃ちしながら妹ズは語り合っていた。
「シャドウ、あれをどうみる?」
「あれ、とはどのことを言っているのでござるか?」
「あの子、まだ小さいからわかんないけど、胸、あるよね?」
「んー?」
美影がニョロ像の胸部を薄目で見通そうとする。
「それにあれ、あの顔でニョロ蔵は無理あると思うの」
「それは確かに」
こっちに聞こえるようにジロジロ、ゴニョゴニョ。
「そこの愚妹よ。うちの子になんて言い方をするんだ。確かに俺の血を分けた子供で、凛華を母と呼んでいる。それでいいじゃないか」
「別にそれでいいんだけどねー。あたしも凛華お姉ちゃんに会うの楽しみだし!」
この妹は変なところにばかり頭が回って油断ならない。
「そうだな、今ゲートを繋ぐ。それはそれとしてお前に頼がある」
「何?」
「もしお前の才能が、地上、帰る場所までも内包できるのだとしたら」
「ああ、収納が可能かって話? うん、平気そうだけど」
「良かった。俺たちのもっぱらの懸念案件がそこにあってな。俺たちばかりが戦う力を持っていて、救出した相手が生きていくのもやっとな場所にずっと閉じ込められているというのが問題だったんだ」
凛華たちだけでなく、北海道のギルド『アロンダイト』モ救出したはいいが、ダンジョンの中に置き去りにしていることを仄めかした。
「そこをあたしのディメンジョントレーダーですっぽりと覆うわけだ?」
「そういうこと。守るべき人たちを安全圏に置いておきたい。そうしないと俺たちはずっと後手後手に回ることになる。うちの契約者はそんな状態で全力を出せる薄情者じゃないからな」
「うん、まぁ確かにね」
「パパ、つながったよ」
言ってるそばからイリアが仕事をしてくれた。
「では代表して明海だけ、きてくれ」
「まぁ、あたしだけいれば他は才能の中で生活させるだけだしね」
「そういうことだ。もちろんその中に俺の女性隊を仕込ませてもらう。あくまでも表向きの救助者がいきなりいなくなることはないと思う」
「ほんとお兄って、そういうところだけ用意周到だよね」
「どこかの誰かさんが手間かけさせてくれたからな。ひねくれてしまったのさ」
どこの誰かとは言わないが、親戚筋に大層迷惑をかけられた。
今思えばあの時培った反骨精神が俺の中で大きな支えになっていると思う。
「ついた、懐かしき学舎よ」
「お兄は自主退学したから二学期もいなかったでしょ?」
「お前、本当余計なことしか言わないよな?」
校門にて2人、並び歩く。
「六濃君! おかえり」
「ただいま」
「お兄、この人は?」
「兄ちゃんの同級生だ。お前の先輩に当たる方だぞ?」
「お兄が随分とお世話になってます」
「あれ、その子って?」
「妹だ。イリアに繋げてもらった世界で出会って、ここに帰ってくるまで随分と時間を掛けた」
「うん?」
呼びかけてくれた親友の1人、シャドウナイトの秋庭君は顎に手を置いて唸り出す。
「あ、六濃くん! 随分お早いおかえりだね。何か忘れ物でも取りに帰ってきたとか?」
そこにガーディアンの木下くんも現れて。
ちょっと待ってくれ。
秋庭くんが唸っていたことに違和感を覚える。
そして木下くんのこの言動から察するに、天界で過ごした時間や、明海と出会った時間経過がまるでなかったことにされてるみたいな言い方。
「あ、言ってなかったね。あたしのディメンジョントレーダーの中って。外との世界と時間の流れに結構な差があるみたいなんだよね」
「どれくらいだ?」
「多分、外の世界の一時間が、中の世界の一週間くらい?」
俺は無言で妹の後頭部にチョップを喰らわした。
「痛った、何すんのさお兄!」
「そう言う大切なことはもっと早く言いなさい!」
「ちょ、そんなに怒んなくたっていいじゃない。ちょっと伝え忘れちゃっただけだってば」
まるで反省の色が見えない妹を見据えながら、秋庭くんが呼んでくれたのだろう、凛華たちと再会を果たす。
明海の言っていた通り、まるで時間が経ってないのに期間を果たした俺は、荷物を忘れたあわてんぼうという顔で呆れられていた。
しかし傍の妹の存在を認知して、驚きの声を上げた。
「明海さん!? 無事だったんですか?」
「話せば長くなるんだが、まずは安全な場所に移動しよう。明海、早速やってくれるか?」
「やるとは何を?」
「へへへ〜ん、実はあたし、囚われの世界でパワーアップを果たしてたんだよねー」
「そうなのですか?」
凛華が俺に聞いてくる。
実際に俺も見たのは変身後なので、どうパワーアップしてるかまでは知らないんだよなぁ。
なので適当に頷いて対応した。
「らしい。そしてパワーアップした妹は、才能の中に世界を丸々閉じ込めることも可能なんだそうだ」
「では、同級生や他に囚われていた周王学園生たちは?」
「すでに確保済みだそうだ」
「そうだったんですか。なら私の方からアナウンスいたします。学園の景色が変わると言う認識でよろしいでしょうか?」
「ううん、変わらないよ。もうここはあたしの才能の中だから」
いつの間に移動させたんだ?
全く知覚できなかったぞ。
「お前、移動させる時は事前に俺に言う約束だろ?」
「え、さっきやっていいよって言ったよね?」
微妙に話が噛み合わない。
よく考えたら、こいつから細かくさい脳の仕組みを聞いていない俺も悪いのだ。
「悪い、凛華。うちの妹が今後も苦労をかけると思う」
「ぶー、何よそれー、あたしが迷惑をかけるのがまるで決定事項みたいじゃないのよー」
「決定事項であってるだろ?」
「ぐぬぬぬ、ああいえば、こういう。でも」
最初こそ心の底からの反骨精神で俺に争っていた妹だが、凛華や周王学園の校舎を見てホッとしたのか、安堵の表情になっていた。
全く情緒の不安定なやつめ。
「あたし、ここに帰って来れたんだ」
「お帰りなさい、明海さん」
「ただいま、お姉」
「積もる話はたくさんあるの。すこしはゆっくりしていけるんでしょう?」
何かを言いたげに、俺の方を見やる妹。
念話で少し自由にして良いと告げれば、久しぶりの再会を味わうことにしたようだ。
そして俺は……凛華以外の契約者に報告を行う。
一緒に行うのが本当は最善なのだが、2人きりの時間も大切だろうと後回しにした。
「ムックン! 出かけたと思ってた。まだ出かける前だったのー?」
「よお、久遠。随分と久しぶりだな」
「わっわ、ムックンがすごく大胆だよ。もしかしてこれ偽物?」
「誰が偽物だ」
「あいた」
俺は久遠の後頭部に無言でチョップを落とした。
「何やってんのよ、2人して。漫才?」
「寧々も久しぶり……って、そんな怪訝な顔で見てくるなよ。俺の感覚では本当に久しぶりなんだ。なんていえばいいのかな? 俺はみんなが思っている以上に濃い時間を過ごしてきている。それこそ向かった先で死を覚悟したくらいにはな。サキエルも、イリアも失った。事前に契約したおかげでブラッドでの復活が可能になった。これがなかったら俺はここに帰って来れなかったくらいに消耗した」
「また無理をしたのね。あなたって本当、目を離した好きに無理をするんだから。マゾなの?」
「誰がマゾじゃい」
「あなた」
寧々ときたら、これ幸いとばかりに俺にどぎつい言葉の応酬を浴びせてくる。
そう言うお前こそエスじゃないのか?
そう言ったら「そうよ」と返してきそうで怖い。
昔から寧々はこう言う子だったからなぁ。
「今失礼なことを考えてたでしょ?」
「そんなことないぞ」
「嘘おっしゃい。海斗はわかりやすいのよ」
「うちは全然わかんなかったよー?」
「あんたは鈍感」
「ムックン、寧々がいじめるよー!」
帰ってきた。俺はこの日常に。
妹と、恋人と、クラスメイトが一堂に会した空間に。
「随分とご機嫌だな【暴食】の」
そこで御堂さんやその奥様の刹那さん、静香さん、飛鳥さんと出会う。
「ただいま戻りました、お義父さん」
「随分時が早い呼び名だな。そう言うのは平穏を取り戻してからだと約束したはずだが?」
「つい急かしちゃいました。仮初の平穏が手に入ったもので」
「さっきから変よ? 海斗」
「寧々や、久遠にも積もる話がたくさんあるんだが……俺たちは今回の序列戦、無理に戦わなくても平和を保てる状況にいると知ったらどう思う?」
「理解に苦しむな。君のそう言う自分だけわかってるような言い方、フェアじゃないと僕は思うんだよね」
「あなたが向かった先で何かを得たのね? その何かこそが平和をもたらしてくれると」
「寧々は話が早くて助かるな」
本当に、手間が省ける。
そして示し合わせたように妹と凛華が目の前に突然現れた。
どうやらこことは違う空間で話をして、戻ってきたらしい。
空間の中での移動が自在とか、神様は本当にこいつに与えちゃいけないタイプの才能を渡したと思う。
「あら、みなさんお揃いで」
「みんな、ただいまー!」
突然現れた凛華よりも、当たり前のようにそこにいる明海に視線が集中した。
「海斗の妹さん?」
「あ、明海!」
「ほう、行方不明の妹を取り戻したか。まさか彼女が?」
「ええ、俺たちに平穏をもたらしてくれる象徴です」
「え、え? 何? みんなしてそんなジロジロ見て。照れるんですけど?」
ことの大きさをいまいち理解していない妹によって、緊張感は一歳ないままに俺は口を開く。
これからのこと。
そして敵の能力。
序列戦を静観できる鍵を。
話した。
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