強欲の章-Ⅵ【共闘】
第101話【強欲】と【暴食】①
ようやくこの日がやってきた。
過去との決別をし、新しい舞台。
ここから先は全部自分の責任だ。
「父さん、こいつが紹介したかった新人の六濃海斗だ」
「君は……六濃晶正の息子で間違いないか?」
「はい、父さんを知ってるんですか?」
背後関係はおおよそ掴んでいたが、あまり突っ込むべきではないだろう。もう誰も責任を取ってはくれないのだ。判断を間違えない様にしなければ。
「知っているとも。彼とは同じ戦場を駆け回った同士。君は彼からそれを聞かされた事は?」
俺は首を横に振った。
「探索者であった事は聞いています。当時の俺は幼かったので、探索者は危険な仕事である事。それ以外は教えてくれなかったですね」
「ははは、彼らしい【色欲】の王は仲間を傷つけられるのを何よりも恐れるからな」
おっと、この人。父さんが王とか言い出したぞ?
だがそれで妙に納得する。
王、色欲。そして被験体として提供された妹。
来る決戦への切り札としての運用。
もし父さんが“家族を愛しているのなら”、まず間違いなく同盟相手の御堂と仲違いするだろう。
「知らなかったです、父さんも王だったとは」
「そうだろうな、王の戦いに一般市民を巻き込ませない為に彼は秘密裏に暗躍していた。本来ならハーレムを築いて力を強化する能力なのだが彼は頑固でね、愛妻家だったんだ。君のお母さん、紫乃さんただ一人を愛し、授かった子供達を愛した。故に序列では最低の十位。私は彼に何度も違う相手と契約を交わしたらどうかと促したよ。疲弊していく彼を見たくなかったんだ」
「そうでしたか……父のお話はわかりました。でも今日は俺との対話をしてくれると助かります」
「君は、この世界を救ってくれた英傑を蔑ろにすると言うのか?」
「違いますよ、その先を聞くと俺は貴方を非難しないといけなくなります。これから会談を進める方と、わざわざ関係を悪くしてどうするのですか」
「そうか……晶正のことは誰から聞いた?」
「麒麟字プロから」
「ああ、彼女は晶正の優秀な教え子だったからな。そうか、全てわかっていて自分を売り込みに来るか、【暴食】の王よ」
「なにぶん後戻り出来ない生活を送ってますので、このチャンスをモノにできない様であれば俺に先はありませんよ【強欲】の王殿?」
「ふふふ、そうだな。時に大胆な裁定を決めるのも王の特権だ。分かった、私の若かりし頃の思い出話はこれぐらいにして私に何を売り込む?」
「そうですね、俺をそちらのダンジョンチルドレン計画に協力させてもらえませんか?」
「ほう、自ら狂気の道を歩むか! 晶正の息子とは思えぬ発想だ。この道は他人から石を投げられる道だぞ? それでも共に歩むと言うのか?」
自分でわかっていてやっているのだろう、この人は。
他人から石を投げつけられようと、曲がらぬ決意を彼の横顔から感じ取る。
「俺なら被害なく、失敗者を生かして元の生活に戻すツテがあります。そして貴方もご存知の通り、俺の才能はダンジョンテイマー。同時に10体まで使役できて、強化・合成する事で未知のモンスターを作り上げることができる。これっていい経験値稼ぎになりませんか?」
俺の提案に御堂総帥の表情が強張る。
「今、なんと言った? 同時使役数が10体!? バカも休み休み言え! 晶正ですら三体が限界だった。その上で強化? 合成!? そんなものは知らん! 私を騙すならもっとマシな嘘をつくのだな、【暴食】の王よ」
信じてくれないか。でも父さんが三体までしか使役できないとは知らなかった。いや、あえて周囲にそう見せていた可能性もあるな。
使役と仮契約は違う。
咄嗟に仮契約して攻撃を逸らす為にわざと開けていたのなら全て合点がいく。父さんは幼少時の俺から見ても無駄な事を嫌う性格だったからな。
が、王になったのにも関わらず、ダンジョンテイム報酬を知らないのは少し疑問が残るな。
「こればかりは実際に見てもらう必要がありますね。俺のホームにご案内します。ここじゃ些か狭すぎる」
「ホームだと? まさかその場で私を始末する気か?」
「違いますよ、なんでそんな物騒な話になるんです? 俺は自分の能力を売り込みにきてます。ダンジョンテイマーは表の世界じゃ扱えないことは貴方ならよくご存知のはずだ。それを表の世界で証拠を見せろと言うのは些か酷です」
「そうか、そうだった。それで晶正は表では無能呼ばわりされたんだ。私としたことが、そんなことも忘れて……」
「大丈夫、安全は保証しますよ。なんなら貴方の信頼のおける護衛をつけても構いません」
「ならば静香、刹那。ついてこい」
「はい、旦那様。貴方が海斗君ね? うちの愚息が世話になってるそうね?」
影からすぅっと現れたのは、忘れもしないユグドラシルを燃やした張本人。
「その節はどうも。当時は情報の行き違いがありましたが、今は味方です。そう言って信じてもらえるとは思いませんが」
「なんのお話?」
「あの時はサンタルックでしたので、俺と結びつけるのは難しいでしょう。ちょうどクリスマスの頃です」
「あーー、ダンジョンブレイクの使者!! 貴方が、あの時の?」
ようやく思い出してくれた様だ。
一瞬にして空気が悪くなるが、当然ここで事を起こすことはしない。今日は売り込みにきてるのだ。なぜ喧嘩をする必要がある?
「まさか勝也さんのお母様だとは露知らず、随分とお若いので少し上くらいに思ってました。ですが王の特性だと言うのなら納得が行きます」
「そう、勝也が手放しで褒めるはずね。ダンジョンブレイクの使者が貴方の仕業なら、紹介するのも納得がいくわ。その上で新たな王ときたら始末するのも独断では行えない。うまく逃げ仰たものね!」
今始末って言ったか? おっかねー。
勝也さん、あんたのお母さん暗殺者か何かかよ!
まあ勝也さんも暗殺者じみたスペックしてるけど。
そっかー。
「あら、私は全てわかっていましたよ?」
そう言って、出てきたのは着物の似合う京美人。
はんなりと言う言葉が似合うお嬢様だ。
これまた若いんだが、実年齢はもっとずっと上なんだろうな。
「刹那! 知っているのなら教えてくれてもいいでしょう!?」
「誰が娘の想い人を貴方のストレス発散人形として渡せるものですか。改めまして海斗君? 獅童刹那と申します。いつも娘の凛華からお話を聞いてます。随分と仲良くしてくださってるそうね? お正月なんてずっと惚気話を聞かされたものよ? あの自分の人生を諦めていた子が、恋を知って一端の女の顔になってた時は驚いたものだわ」
「貴方! 相手を御堂と知りながら手を出したの!?」
お母さんズはまるで同年代の女子高生の様に姦しい。
やはり見た目が若いからか、気持ちも若い様だ。
「騒がしいぞ、二人とも。彼が困ってるじゃないか」
「大丈夫ですよ。この程度の騒ぎは慣れてます」
「あら大物ね!」
「浮気性とも言えるわ!」
「いいから私の顔に泥を塗る真似はやめなさい! あまりに騒ぐなら連れて行かないぞ?」
王からそう言われたら流石の暗殺者も黙るほかなく……物言わぬ人形の様に後をついてくる。
感情を殺すのが上手いのか、それとも別の要因か。
俺は転移の魔道具を通じて三重にあるAランクダンジョン深層に赴き、そして能力のお披露目会をした。
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