第95話 合同訓練①

 なにやら内緒のお話をしていた不審者二名を牽引し、俺たちはいつも通りの練習場五層のボス部屋までやってきていた。


 今の所全学年でこの場所までたどり着いた物達は複数名しか見当たらない。

 単独でたどり着けると慣ればそれこそこのメンツくらいか。


 一年生の出来が二年生より頭一つ飛び抜けているのは正直俺の指導のおかげと言っても過言ではない。

 それでも訓練の場に入ってこられても困るので、門番を置く。


 ★ケルベロス/ランクB9、★ユグドラシル/ランクB3だ。

 このコンビはかつてのラスボス、ブラックドラゴン並みに強く、その上無限の再生能力を持つ。

 俺の生徒なら、即座で内側で訓練が行われてると察する事ができるだろう。それを知らなくても、生徒はボーナスステージと考えてくれるかもしれない。

 なんてったってケルベロス同様、自分の消失した武器やら腕やらスキルやらが即座に回復するからだ。

 これをいい訓練と受け取れる側ならさぞかし上に行ける事だろう。


 ただし討伐覚悟できてるなら今すぐ引き返したほうがいい。

 ここに踏みとどまっても得られる物は経験値しかないからな。

 純粋に一攫千金を狙う人にとっての鬼門となってくれるだろう。


「ムックン、いつものコンビ?」


「一応強化型だから万が一にも破られる事はないぞ」


「でも使役数減るから面白みは軽減するかなー?」


 久遠の心配は別の所にあった。

 確かに俺の使役するモンスターの数には限度がある。

 でも、その問題も探索者ライセンスを獲得すると同時に解消された。


「その懸念はもう無くなったよ。同時使役数は手間を惜しまず10匹まで可能になった。おかわりも期待しろ」


「じゃあ、門番以外に8体まで使役できるの?」


「同時使役数はな」


「聞いて聞いて、朗報〜」


 そう言いながら久遠が凛華と寧々の元に駆けつけていく。


「海斗君、知らぬ間にそれ程の強さを手に入れていたのだな」


「麒麟……レッドオーガさんは複数同時使役は見せた事ないですもんね。俺のダンジョンテイマーは、ダンジョンのソロ踏破、ダンジョンのテイム、ダンジョンランキングによって獲得できるパッシブスキルが変わります。それで先ほどクリアしたFランクダンジョンでしたか? ちょうど持ち主もいない様でしたので、テイムさせていただき現状に至ります」


「待って、あんた。今ダンジョンをテイムしたって言った?」


「言いましたよ、黄色い人」


「その言い方はちょっと不快。でもそうか、あんたの力の本質が今ようやく紐解けたわ。あんた、ダンジョンを踏破すればするほど強くなってるのね? 勿論、踏破報酬以外の意味でよ。それがダンジョンテイマーの本質? なんてピーキーな才能なの」


 左近時さんの指摘に苦笑いする。

 確かに他人から見ればこの能力は扱いにくい事この上ない。


「それでも伸び代はあった。俺はそれをとことん追求したまでです。さて、皆さんお待たせしました。訓練はここからです。俺が手札を出しますので、序盤は一匹を俺の生徒と合わせて5人で討伐して見せてください」


「どんなランクを出してこようと負けないわ!」


「お手柔らかに頼む」


 黄色い方が威勢よく声を上げ、赤い方は胸を借りるつもりで武器を構えた。

 ダンジョンボスはCランクまで落ちていたのでその場でテイム。

 懐から瓶を三本取り出し、その場で開封。


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 <同時使役枠:6/10>

 ★ケルベロス/ランクB9【1/10】

 ★ユグドラシル/ランクB3【2/10】

 ☆ケルピー/ランクC5【1/10】

 ☆キングリザード/ランクB2【1/10】

 ☆ジャイアントオーク/ランクB4【1/10】

 ★メギドスライム/ランクC9【1/10】

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 このうち門番の二体を除外してランダム合成。

 出来上がったのは……ゴールドジェリー/ランクB9だった。


「さて、訓練を開始しますよ」


 「「「お願いします」」」


 凛華、久遠、寧々の誠実な返答。

 しかし残り二名の表情には影がかかっていた。


「どうされました?」


「いや、あたしらとの相性最悪なやつが出てきたなって。こいつ物理効かないんじゃない?」


「いや、多分魔法も効かないので公平に厄介な奴ですよ。そいつを俺が操りますので、難度は身をもって知るべしって所ですね」


「毎回こんな訓練を?」


「まだB上位程度なので、いつもよりはイージーですよ。俺のランダム合成、たまに厄介なの生み出しますから」


「これですらか。いいじゃない、楽しくなってきたわ」


「ええ、こちらも覚悟を決めるわよ!」


「では訓練スタート!」


 俺の掛け声と共に、五人が散り散りに飛んだ。

 スライム系のしつこさは皆身をもって知っているのだろう。

 誰か一人がヘイトを取れば、その一人が犠牲になるまでヘイトを奪いっぱなし。


 しかし、それは正攻法ではない。

 囮作戦というのだ。

 一匹を犠牲にして、生まれた隙をつく戦法。

 それを強要するメンバーはここには居ない。

 カラードコンビは状況によってはしそうだが、果たして?


「はじけろ! “マッハブレイク”!」


 先手を取ったのは助走をつけて駆け出した久遠。

 スライム系に取っての天敵、それが久遠の『ルーンブレイカー』だ。

 物理も魔法も効かなければ、根源であるコアに直接攻撃を仕掛ければいい。

 久遠にはそれが実際にできた。

 しかも今回はスキルなしでの挑戦だ。

 単純にスピードを出してのタックルだが、こっちもタダでやられてやるわけにはいかないな。


「甘いぞ、“ガードマイン”!」


 ゴールドジェリーのボディとても高い揮発性のガソリンでできている。物理も魔法も効かないが、一つだけ通じる手段。

 それが火属性。だがこいつは弱点でもなんでもなく、自らを燃やすことによって新たな能力を獲得するスイッチでもあった。


 これを今回は自ら仕掛ける。

 要は分体を生み出して、全方位に大爆発を起こす代物だ。

 爆発の熱で勢いと対象の目を焼く狙い。

 だがこれはあっさりと回避される。


「ひゃー、近接できないタイプよー、これ!」


「見たこともないカラードジェリーに特攻かけるあんたが悪い」


 全員が寧々の“セイントバリア”でことなきを得ている。

 司令塔の寧々がいる限り、彼女らの安全は保証されてるな。

 だが当の本人は苦虫を噛み潰した様な顔だ。

 それほどスキルを使わせるほどの広範囲攻撃だったのだろう。

 だがそれでこそ訓練になる。


 それぞれの課題を示すのがこの訓練の本質にあるからな。


「寧々さん、次からは私にバリアを貼る必要はありませんわ」


「突破口が見つかったの?」


「いいえ、まだ。でもこれは訓練。仲間に頼りきりでは己が成長できません。次回からは不要で願います」


「それを言われたらうちも成長できてないってことになるかなー? 次はうちのもいらないから」


「久遠まで……ったく、それでこそよね。分かったわ。私も次から安易にスキルに頼らないわ」


 本当に、うちの生徒は逞しすぎて本当に感動的だな。


 ◇


 おおよそ30分くらいか。

 俺も新しく見るスライムの性能を掴みあぐねていた。

 だが、ある程度切手飛ばしたりしていくうちに、一つの可能性を生み出した。


「よーし、だいたい掴んできた。こっから本番行くぞー」


 俺の声に、凛華や久遠、寧々は身構える。

 ただし今回参加組はまだ本気じゃなかったのかとゲンナリしていた。

 そこは本当にすまないと思ってる。

 こっちだって使役できても、初見のモンスター運用方法は少し梃子摺るのだ。これくらいは許してもらいたい。その代わり休憩時の飯は楽しみにしててくれよ。

 心の中で念じて、俺は新しい可能性の輪を広げた。


 ゴールドジェリーのスキルは以下に限られる。

【変幻自在】

【触腕乱れ打ち】

【ジャンピングボディプレス】

【爆発体質】

【誘爆】

【高速分裂】

 ここから導き出される結論は……


 ヘリに擬態してからの空中爆撃だ!

 近接されたら【触腕乱れ打ち】

 触腕も叩きつけた先で爆発させる。

 これぞ隙のないスキル運用法ではないかな?


「嘘でしょ! ヘリに擬態して上空からの攻撃!?」


「こらー、卑怯だぞ、降りてこい!」


 特別参加枠は両方とも地上特化。対空手段は持ち得てないのか地上で叫んでいるだけだ。

 もちろんその場へ分体を投擲して絨毯爆撃を開始する。


「でもそれって、分裂中を狙えば本体にも攻撃が届くのよね?」


 冷静な判断力で大盾を構えた寧々が三角飛び出ダンジョンの壁を飛び回り、ゴールドジェリーに肉薄すると上空から叩きつけた。

 残念、ジェリーに物理は無効だ。


 が、地上に落とされたらされたで厄介だな。

 そこには血に飢えた探索者が4名、モンスターが降りてくるのを待っている。

 物理無効、魔法無効、爆破体質。これらで守っても迎撃できない連携攻撃でフィニッシュを決められた。


 久遠のルーンブレイクは文字通り生命力に防御力を無視してダメージを与えるスキルがある。その中の一つ“見えざる凍える腕”は、対象に氷結の状態異常を付与するタイプだ。

 これの恐ろしいところは、相手が状態異常無効を持っていても、強制的に数秒間その状態にさせることにある。

 無論、状態異常によるダメージは受けないが。


 流動型が無理矢理凍らされることによるデメリットは確かに存在した。

 それが落下ダメージだ。

 受け身の取れない状態でのダメージはゴールドジェリーの鉄壁の防御に確かな風穴を開ける。

 そこへ待ってましたと駆け寄る暴力の化身。


「芯まで通せ! “ビートハンマー”!!!」


 麒麟字さん不審者Aの強烈な振り下ろし。

 ゴズン! 

 それこそコアに直接ダメージが入ったのか、ゴールドジェリーのHPがごっそり減った。


「からの〜“トール・ハンマー乱れ打ち”!!!」


 左近時さん不審者Bは肉体を独楽の様に回して、ハンマーの連続撃ちをゴールドジェリーに与えて見せた。


「参ります! “桜花終閃・朱雀”!!」


 そこへ凛華の剣舞が着火。

 爆発してゴールドジェリーは消滅した。

 ドロップ品は『オイルジェル』


 どんな場所でも着火が可能な可燃性のゼリーである。

 少し大人向けの味わいで、ほんのりアルコールの香りがした。


「お見事! じゃ、訓練の第一工程はおしまいな。飯にするぞ〜」


「わっふー、待ってました! 北海道のお土産あるんだよね?」


 いの一番に駆けつけたのが久遠だ。

 蟹や魚介類の鍋食わせただろうが。まだ食い足りないのかと呆れつつ、新しい素材と色々組み合わせてみるのも楽しいかもなと「期待してろ」と答えてみせた。

 さーて、軽い運動の後のメシはガッツリ系よりさっぱり系がいいよな?


 俺は全員に濡れタオルや消臭スプレー、シャワー室への入り口を案内して飯の準備を始めた。

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