第60話 契約証明
結局あれからデートと言ってもショッピングやゲームセンターでぬいぐるみを取得するなど学生らしい事を繰り返す。
凛華があまりそっちの方に疎いと言うのもあって大人びた行為に至れなかったのだ。
まぁ妹も居たし、そう言う雰囲気でもないし。
サプライ勢でお互いに似合う服を送り合ったりした。
似合うかどうかは開けてみてからのお楽しみだそうだ。
正月休みが過ぎれば向こうは学園生活、こっちはワーカーとしての仕事に戻る。会う時間がないからこそ、そうの手のプレゼントのやり取りがお互いの大切な時間となるのだそうだ。
明海がなぜか偉そうに講釈を垂れているのを覚えている。
シャスラの件については保留となった。
本人の古代言語と言葉遊びで俺に対する恋愛感情はないが、好意を寄せてる可能性は未知数とのことでの保留だ。
特に一番批判的だったのは妹だったのが印象的だったな。
俺の恋愛関係にまで口を出してくるとは思いもしなかったが、今や二人だけの親族。慎重になるのもわかる気がする。
つっても地上に出ても消えないだけで俺の中では使役できるモンスターである事に変わりはないんだ。
自由意志が強すぎる故の厄介さはあるがな。
凛華とは初詣デートの約束をつけて社宅へと帰宅すると、なぜか室内でシャスラと久遠が遊んでた。確かに合鍵は渡して居たが、学園の町に引っ越す際に勝也さんに渡して言ったはずだが?
「久遠、なんでこっちに居るんだ? 寮は?」
「凛華も寧々も実家に帰ってるのに、うちだけ寮暮らしはないよー。それに寮母さんも数日お休みするからご飯も出ないのよ。それを連絡したら勝也がこっちに来いって。運が良ければムックンからご飯を奢ってもらえるぞって言われたよー」
そう来たか。って言うか呼びつけたんなら自分で面倒見てほしいところだが、凛華とデートしてたと言ったら勝也さんはキレそうだ。
兄貴である以上わかるのだ。
妹の可愛さをプレゼンしたい気持ちがあると同時に、お付き合いする相手のチェックが入る。
妹が俺に対してしたように、俺も明海のお付き合い相手には執着を見せると思うからこそ未だに話せて居ないんだよな。
「その当事者は?」
「年末くらい実家に帰らないと都合が悪いそうよー?」
実家か。凛華も今頃実家なら、顔を見るだけでバレそうだ。
なんせあの子、別れ際に終始デレデレしてたもんな。
幸せそうで何よりだと思いつつ、明海も満足気だったのを覚えている。バレたらバレたで後が怖いな。
完全に普段のクールな仮面は脱ぎ去って暴走状態。
俺の女性関係にやたら過敏な事を除けばポテンシャルは高いのだが、如何せん。恋愛方面がポンコツすぎてすぐに脳みそがショートする。
一学年の首席がこの有様では、次席の寧々の苦労もわかると言うものだ。
でも、ダンジョンに入ると人が変わるんだよなぁ。
今は明海がサポートしてくれてるから、俺はそれを信じるしかないが。
「──ン、ムックン!」
「ん、どうした?」
「さっきから呼んでるのに心ここに在らずで酷いよー。ずっと聞きたいことがあったんだけど、あの子何?」
誰ではなく、何? と来たか。
それはまるで恋人を嗜める彼女のような言い草だった。
久遠とは勿論そう言う関係ではない。
好意を寄せているのには気付いていたが凛華と付き合う際、お断りを入れて今に至る。
なので今は友達としての付き合いにとどめてるはずだが、まだ諦めきれないのか、焦っているような素振りを見せた。
「シャスラだ。Aランクダンジョンの階層ボスだったが、俺がテイムした」
「モンスター、なの?」
「ああ、確かに俺の才能で地上に持ってこれるタイプのモンスターは珍しいが」
「でも、普通の人間だよ? モンスターで通すのは無理があると思うよー」
こいつ、俺の言葉をまるで信じてないな。
と言うかモンスターが地上に出てくることが既におかしいか。
でも実際にこいつはモンスターな上、テイムして能力を縛っておかないと危険な事には変わりないし。
「いや、シャスラは吸血鬼だから。種族的にはなんて言ったっけか? おーい、シャスラー?」
「なんじゃ? 妾に何か用か、人間」
「お前の種族なんて言ったっけ?」
「アーケイドじゃの。妾はその中でも王族でとても偉いのじゃぞ? その妾をテイムした汝は大したものじゃ。褒めて遣わす」
「ほら、俺のこと人間って言うし、自らを主張するように傲慢な態度で振る舞う。見た目こそ人だがその口ぶりから全く違う種族だろ?」
「むー、二人してうちを騙そうとしてない?」
「いいか、久遠。俺としてはこんなキャラが強烈な女児とは本来なら関わりも持ちたくもないんだ」
「なんじゃと!?」
久遠の瞳をまっすぐ見据えて言葉を吐く。
後ろの方でシャスラが聞き捨てならないと文句を言うが、無視した。
「そうなの?」
「そうなんだ。俺の理想はおとなしめで、それでいて性格も良く、真面目なタイプ」
「凛華の性格は良いとは思えないよー」
「多少のブレは誰にだってある! 俺は器の小さい人間にならないように日々努力してるんだ。わかってくれ!」
「うちじゃダメな理由は?」
「見た目が妹と被る」
「ガーン! やっぱりムックンはおっぱいの大きい子の方が好きなの!?」
憤り、胸に両手を当てて嘆く久遠。
別にそうは言ってないが、知り合いの中で一番スタイルが女性らしいのは凛華であることは必然だ。
凛華を選んだ時点でそう白状しているもの。
寧々は付き合ったらあれこれ指図してきそうでちょっと。
いや、面倒見がいいのは理解してるんだけどさ。
俺としてはそばで支え合うような関係を築きたいんだよ。
分かってくれと言いたいが、俺が自分でも薄情な事を言ってることは理解していた。
「そんなことはない、久遠だって可愛いさ」
「じゃあうちが彼女でも良いよね? ね!」
彼女不在の時に押しかけてくる刺客。
男としてはモテて嬉しい反面、妹がNGを叩きつけそうで困ってしまう。そこで食料を食い漁ったハイエナガール、シャスラが痴情のもつれに難癖をつけに来た。
「なーにをやっとるんじゃ汝ら。小腹が空いたぞ、摘めるものを献上せよ」
「チビッコは黙ってて!」
「言うに事欠いてワシを童扱いするとは許せん! これでも妾は王とちゅうしたのであるぞ」
ちゅう? あの首を噛まれたやつか。
「ほ、本当なのムックン? こんな得体の知れない子と、く、くちづけしたなんて。はわわわ〜」
妄想を爆発させた久遠が顔を真っ赤にして跪いてしまった。
「おい、嘘を言うな。キスなんてしてないだろ? お前は俺の首筋にカプっと吸い付いただけだろ? 久遠も誤解しないでくれ。俺の恋人は凛華だけだ。こいつは虚言癖があるみたいでな」
「首筋に噛み付く? ああ、吸血鬼って言ってたもんね。あー、びっくりしたよー」
「血は王の命そのものじゃろ? 汝の血を吸い、妾の血で満たす。これを交尾と呼ばずしてなんと呼ぶのじゃ?」
「こ、交尾! ムックンのえっち!」
またもや口車に乗せられた久遠の音速ビンタ。
俺はAランクまでの攻撃が無効化できるから平気だが、この子たまに力加減せずに壁にヒビを入れるからな。
「羨ましいなら久遠もするか?」
「えっ……くちづけ?」
「いや、指に傷を作るからそこから血を吸ってみるか?」
「それ……ムックンは痛くないの?」
「大丈夫だ。久遠にむくれられたままの方が気になるからさ。吸血鬼的に性交渉に例えられても俺たちは人間だ。これくらいなんてことはないだろ?」
「そ、そうだね。ちゅう……」
針で指を傷つけると、ぷくっと血が上ってくる。
それを久遠の口元に差し出すと、すごく興奮した顔で吸い付いた。
なんでえっちな顔してるんだろう?
まるでいかがわしい何かをしてるかの様に、久遠は指をぺろぺろちゅぱちゅぱと音を立てて吸った。
そして満足したのか、満足げにその場で座り込む。
<北谷久遠との仮契約が完了しました>
ん?
仮契約ってなんだ?
「すごく興奮したよ。あと何か、仮契約したって頭に出てきたよ?」
「久遠もか。俺の方にも出てきてな」
「説明しよう!」
俺と久遠が困惑していると、シャスラが出番が来たかと胸を張った。
シャスラ曰く、血の契約は相手に吸わせた量によって自身の支配契約を結べる様になるらしい。
「ちなみに本契約するには対象の首筋に食いつく必要があるぞ? 妾が行ったようにの?」
「いや、俺吸血鬼じゃないし」
「王の特権じゃ。無機物でも取り込めるとあったであろう? あれは本来なら自分と全く合わない血すら取り込んで己の力とする能力じゃ。契約する時は相手に身を委ねる必要があるからの。それこそ心で通じ合ってないとできんわい。妾の首はいつでも空いておるぞ? 王になら遠慮することもないわい」
それを聞いた久遠は「考えさせてほしいよ」と言って首筋を抑えた。
「それ、俺は平気でも相手は無事じゃないだろ?」
「ふむ? 王と契約を結べば一蓮托生じゃ。契約者は王と一心同体となり、存在が不滅となるんじゃ」
「それってデメリットとかないのか?
「わからん。アーケイドである我らにとって日光は大敵であったが、お主らはそれらが苦手か?」
「いや……?」
「ならばそのままじゃ。ただ血を吸える相手は無制限でも、相手に自分の血を吸わせる相手は数が限られておる。これは契約者の中でも選ばれた者のみに与えられた特権じゃな。妾達はこれを寵愛と呼ぶ」
「仮契約とは違うのか?」
「ガッツリ吸われるからの。己の能力を相手に手渡したい時に渡すが良い。妻を娶るときに妾の種族ではそれらを睦言として扱うたものじゃ」
「なるほど、それがアーケイド流の結婚式か」
「血痕式というのじゃが、意味合いはあっておるの」
よくわからんが、俺は王になった事で人間とは全く別の存在になったようだ。
ベースが人間なだけで、吸血鬼? と似たようなことが出来るとか。仮契約と言うのもよくわからない。
それはそうとこの後凛華と初詣の約束がある。
よくわからないイベントで気を取られすぎてヘマをしなきゃいいが。
「じゃ、俺出かけてくるからお前ら仲良くしてろよー?」
「いってらっしゃい、ムックン。凛華によろしくねー」
「王よ、土産を期待しておるぞ」
勝手な事を言うシャスラにため息を吐き、久遠に留守を任せて俺は一人待ち合わせ場所の神社へと向かった。
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ここまでお読みいただきありがとうございます。
三章はここでおしまいです。
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