第46話 ダンジョンブレイクの予兆

 俺は一つの仮説を立てて居た。

 かつて学園にいた頃、たった一度だけ使役枠を5→10にした事がある。

 その方程式は初期ある使役枠を五枠全部『種族枠解放』タイプで埋めた時に出てきた『使役枠解放』。

 これらは苦労して増やした五枠ある種族枠をして使役枠の上限を5→6と一段ずつ増やすものだった(上限が10枠)。

 階層ボスのブラックドラゴンは強敵だったが、使役枠のゴリ押しでなんとか勝利をもぎ取れた訳だ。


 今はそこまで苦労しないが、当初はダメージをもらったら即死だったことを鑑みればよくやれた方である。

 寧々や凛華からクラス毎に理不尽な格差があると聞いた時は変な声が出たものだ。

 よもや上からの攻撃にデバフがかかってる以外にも、こちらから上位に攻撃してもデバフがかかってるだなんて思いもしない。

 

 ま、俺の攻撃手段はモンスターが主体。

 最初弱い奴からスタートするのを除けば、どんな奴にだって勝てる情報を入手できる手段があるからな。

 使役することで見えてくる、されたら嫌な攻撃。

 得意分野と苦手分野。それが同時に知れるのがメリットでもありデメリットだった。


 と、話がずれたな。

 俺が言いたいのはそこじゃなく、枠を強化する手段があるのなら、モンスターそのモノも合成の対象にできるのではないか? という話。

 俺は当時集めるのに夢中になり過ぎて種族を無視してテイムしてきた。

 そこで思いついたのが同族・同属性、同タイプで五枠埋める。

 種族強化も種族枠強化もせず、ただ増やせる限り10枠埋めたら予想した通り出てきたその情報。


<種族合成が可能です>


 ・全ての種族を消費して全く新しい上位種族を誕生させる

 ・ランク、グレードが高いほど成功率アップ

 ・只今の成功率30%


 その時揃えていたのはアントのような虫属・甲殻類だった。

 ランクはD*Ⅱ〜C*Ⅷと多岐にわたる。

 ユグドラシルがあればその場で復活させられる恩恵から、何度も倒して枠を増やしては埋める作業の効率が爆上がりだったのだ。

 ユグドラシルは使役下に置いたモンスターのみならず、その場にいるモンスターも対象。

 範囲は定まっているが、リポップ地点を強制的にその位置にとどめるのもあってわざわざ探しに行く必要がないという優れもの。

 種族タイプは聖霊なので本体が現実にない。

 精神攻撃されたらやばいが、手間だけど増やせるから何本か作っておこうと思う。

 

 以前凛華から貰った魔封じの瓶、まだ在庫があるんだよな。

 なんせドライアドを出現させる為に使うぐらいで、それ以外の用途が他にない。

 命の雫一本で1000個は買える。

 まぁ一本3万TPとお高いので貧乏学生だった俺には手に余った。


 凛華は首席ということもあって購入時の上限が課されてないって言うのもあるな。Fクラス生だと日に一本までと嫌がらせにもほどがあったので、入手は凛華に任せたら最初の二十本は手持ちので、追加で200本買い付けてくる始末。


 ユグドラシル誕生までに使う瓶は100本だったが、ユグドラシルが居るなら一回ドライアドまで出現させれば、あとは流れ作業となる。

 なんせ即座に復活するので、再度作り上げる手間賃が0なのだ。

 ユグドラシルのお陰で俺は種族合成が失敗してもなんら損益なくガチャを回し続ける事ができるってわけ。

 

 なんでそんな事が可能かと言えば。

 種族合成に使う命は、即死判定。

 ドロップがその場に残って新しい命が生まれる仕組み。


 死んだら即座に生き返らせる超チート。

 そして瀕死でも即座に正常時に回復させる超チート生物がユグドラシル君だ。

 このモンスター(?)がいる限り、手間はかかるが当たりが出るまでガチャを回せるのだ!


 さぁて、そろそろ成功してくれよ?

 俺は50回目の種族合成に挑戦し、産まれたのが……

 

 ◇◆◇◆


「クソ、一体この規模の群れはどこから湧いたんだ!」


 忌々しいと朱音の鞭が振るわれる。

 しかしグレーターワームにダメージが通った様子は見られず、天井に届くほどの巨体を鞭を打つように横たわらせた。

 数百メートル規模のボディプレス。回避しようにも規模が規模だった。


「朱音さん、これにお捕まりください」


「お世話になります」


 静香は『ドッペルゲンガー』で高所に先行させていた個体から縄梯子を投げさせて、それを獅童朱音へ掴む様に指示する。

 掴んだのを確認してから一本釣りの如く引っ張り上げ、ボディプレスを回避。

 しかし上空に逃げても敵の追撃は緩まない。


「キュォオオオン!」


 キマイラが上空に舞い上がり、炎のブレスを吐きつける。


「防ぎなさい、レッドオーガ!」


 静香が懐から取り出した魔封じの瓶を叩き割り、呼び出したのはCランクグレードⅤのモンスター。炎に耐性を持つので壁として使える。

 魔封じの瓶は本来このようにして使うのだ。


 現れたレッドオーガは炎のブレスの直撃を受けてかろうじて生き残るも、反撃する間も無く追撃するグリフォンに鷲掴みにされ、その肉体を消滅させた。


「Cランクをこうも易々と!」


 本来なら6人パーティーで挑むBランクモンスター。

 これをソロ、またはパーティーでも複数回討伐できてようやくAランクへと辿り着く。

 朱音にとってそれは乗り越えるべき壁の一つだった。


 魔封じの瓶で封じ込められるのは自身のランク以下に限るが、それでもグレードが高いと割合で失敗する事から魔封じの瓶の運用はコストがかかり過ぎると朱音は諦めた道である。

 しかしAランクの先輩がこうも華麗に使って見せたら、運用次第では隙を減らす用途にもなるのかと考えさせられていた。

 

 その為Aランクでも上位である静香は攻撃する時も、受け身を取り時も、技の発動直後の隙が全く見当たらない。

 朱音にとって静香はいつか追いつくべき人物の一人。

 しかし一緒に行動してわかる実力の差。


 能力に頼ってばかりではこうも動けない。

 自分の弱点を極力消す姿勢。

 しかしそれでもダンジョンブレイクの使者の攻撃は緩まない。


『Merry’Christmas!!!』


 鮮血でその身を染めたのかと思うほどに全身を赤で染めた変態が電飾まみれのもみの木の上から叫ぶ。

 見やれば静香がなんとか葬ったモンスターが、モミの木の麓から復活しているではないか。


「これは悪い夢かしら?」


 多勢に無勢とはこの事か。

 Bランクモンスターと言えど疲労せず、その上倒しても復活するなんて聞いてない。

 これにはBランクモンスター相手に攻勢に出ていた静香でさえも苦い顔をした。


「やはりこれはダンジョンブレイクの予兆でしょうか?」


「そうかもしれないわ。ここは撤退するが吉でしょう、時間は稼ぎます。朱音さんはその隙に」


「ですが入口が!」


 朱音の言葉通り、入口に通じる階段前には謎のサンタクロースが陣取っていた。


「とっておきを出します。貴女は旦那様がまだまだ活用する駒。無くしては文句を言われるのは私だわ。借しにしておきます」


 静香が懐から魔封じの瓶を二本取り出し、それをもみの木に向けて投擲。

 爆炎がもみの木を襲った。

 先程から攻勢だったモンスター群の攻撃の手が止まり、もみの木が真っ赤に燃え上がる。


『グァアアアア!!』


 もみの木の上でサンタクロースが絶叫する。

 初めて通った攻撃に、一体どんな借りを作ったのか内心穏やかではない気になりながら朱音は一気に駆け出した。

 八階層から七階層へ抜けると、そこには重症者が複数の戦場が広がっていた。

 その中にはクラスメイトの五味(弟)も混ざっていた。


「芥、あんたがいながらこの有様かい?」


「面目ねぇ。突然横合いから殴られて、気絶しちまってたようだ」


「何人死んだ?」


「死人は出てねぇ。不思議なことに怪我人は多いが、死者は0だ」


「……モンスターなのに人を襲わない?」


 それはおかしい。では何故自分達は襲われたのか?

 いや、どちらにせよ自分達は生かされたのだ。

 生かすメリットがダンジョンブレイカー側にあったのだとしたら、癪だが朱音にはそれに乗るしかなかった。

 

 その日、ダンジョンブレイカーの出現によってDランクダンジョンは封鎖される事になった。


 そして、なんとか生きて帰還することができた静香もまた、ダンジョンブレイカーとは違う存在を感じ取っていた。


は一体なんだったのかしら?」


 よく分からない、出鱈目な力。放置しておけばその牙はいずれ主人に向けられる。それだけは許してはならない。


「どこの誰だか知らないけど──次は、殺すわ」


 静香は殺気を極限まで強めたあと、それを霧散させた。

 煙に撒くように静香の存在もまた薄く消えていく。

 気配さえも消えて、最初からそこには誰も居なかったように闇が広がっていた。


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    ┃本日は19:10にも二話目が投稿されます。┃

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