第40話 ロンギヌスの目的

 佐咲さんの実家での研修が終わり、ギルドのホームに帰ってくるなり恭弥さんに呼ばれた。

 クエストポイント的に美味しくはない依頼だったが、技術面や仕事、業界についての暗い噂なんかの情報面で教わることがたくさんあった。

 

 正直金はいくらでも稼げるが、この手の情報は金を出しても手に入らないことがほとんど。

 貴重な体験を得られたと言っても過言ではない。

 そういう意味では恭弥さんに感謝していた。


「海斗、研修はどうだった?」


「なんかめちゃくちゃ世話になりました。ワーカーの仕事も大変ですけどやりがいありますね!」


「そうだろう? 正直才能がないからって搾取しすぎだとは思うんだが、駆け出し探索者ほど素材を蔑ろにするからな。ギルドである以上、TPは一定数支払って全員で維持していく必要がある。うちはあまりノルマは設けないが、ほとんどのギルドにはノルマがあるんだ。だからどこも人手が足りなくて嘆いてるんだよ」


 恭弥さんは学園を卒業したばかりの生徒がプロの現実のつらさを直視して辞めていく現状をなんとかしたいと言っていた。

 才能のない相手を無能と落ち占めているうちは無理なのでは?

 そう尋ねたら苦笑される。

 分かりきってることだからだろう。


「幹二先輩達も言ってました、ギルドには世話になってるって」


「あいつらも頑張ってるんだけど境遇に恵まれなくてさ。ウロボロスの連中がダンジョンを独占さえしてなきゃもっとランク上げられてるはずなんだ」


「そう言えば、ランクアップの選定基準てなんなんです?」


「同列ランクダンジョンのソロ踏破、またはパーティでの複数回踏破、ダンジョン協会への討伐部位納品、探索者協会に一定金額分のTP贈呈。これでランクアップだ」


「Gだと?」


「見習い期間はTPの贈呈で可能だが、基本的にクエスト以外の蓄積TPしか見ない」


「それは、ランクをお金で買うことを禁じているからですか?」


「若いうちから楽をすんなってことだよ。研修をおろそかにする奴はどこ行ったってやってけねぇよ。お前はワーカーとして扱うから探索者協会の研修には行かせない」


「目立つからですか?」


「僻まれるからだ。ウチのギルドって俺と勝也の二人でのしあがった経緯があるから、そのギルドのメンバーってだけで金魚の糞扱いされるんだ。たいした実力もないくせにって方々で喧嘩売られる」


 だから幹二さんと三雄さんはあんな自信なさげなのか。

 クラスで威張られてたからと、逆に低いランクの時に高位ランクからいびられて縮こまってしまっていた。


「俺ならいびられたって問題にせず対処しますよ?」


「本当にやりそうだから怖いんだよ。俺も勝也も、お前を心配して言ってるんだぜ? 稼ぐなとは言わない。目立つな。お前だってそれを望んでないだろ?」


「そうでした。理解のある上司をもてて幸せです」


「ただ、久遠の様に借金を背負う子には今後とも手を貸してやってほしい。あれは俺らには真似できないことだ」


 例の“命の雫”を使った治療のことだろう。

 どういうわけか品薄状態で高騰が続いてるからな。

 ドライアド自体が生まれにくいのもあるが、原因は他にもある様だ。


「ウチの妹と同じ魔石病患者のことですか?」


「ああ、その患者はとある実験のために人為的に作られたモルモットなんだ。ダンジョンチルドレン計画と言ってな。お前にこれから話すことは内密に頼む。正直、この話はあまり外に漏らしたくないんだ」


 防音の効いた談話室で恭弥さんが語ってくれたのは今まさに勝也さんが凛華を救い出そうとしている実験で、

 それは俺の妹にも関係しているモノだった。


 人工的に才能者を強化した人間を作り出す計画。

 ダンジョンの最下層にある魔石プラントから出土した魔石は芳醇な魔力を通わせている。

 それを人体に適合した相手をダンジョンチルドレンと呼び、12才〜16才まで魔力を定着させ続ける。

 その結果、寿命が激しく削れてしまうが一騎当千の力を引き出せる様になるらしい。

 人間の命をなんだと思ってるんだ!


 話を聞いた俺は拳から血が出るほど力を込めていた。


 その被験体の第一号は凛華で、卒業と同時に実の父の人形として来るべきダンジョンブレイクに尖兵として駆り出されるらしい。

 借金を背負わせてるのは期日までに逃さない為。

 そこには俺をいびり倒した例の親戚も関わっているらしい。


 あいつらがしつこく妹を追い回しているのか。

 

「じゃあ、妹を凛華に預けたのは実際ファインプレーだったんですか?」


「お前、名前で呼び合うほど親密になってたのか? 勝也の前で名前呼びするなよ? あいつはシスコンを拗らせすぎてる節がある」


「茶化さないでくださいよ。これは彼女からの提案です。妹を預かるんなら名前同士で呼んでくれと頼まれたんですよ」


「妹ちゃんからの提案か。あのブラコン少女がなぁ……」


 なぜか遠くを見てしみじみとする恭弥さん。

 凛華ってやっぱり極度のブラコンだったんだな。

 ウチの妹とは大違いだ。

 妹は俺より早く兄離れしたからな。お兄ちゃん寂しいぞ!

 それはさておき、本題に戻る。


 妹はもう既に目をつけられてること。

 凛華が卒業すると芋づる式に引っ張り上げられること。

 久遠も該当者だそうだ。


「じゃあ寧々が一人だけ例外なのか」


「その彼女ってワーカーギルドの娘さんの?」


「ええ、彼女とはFクラスでご一緒して、あとは努力でAに上がった子です。お父さんを首にした凛華を見返してやるんだーって噛み付いて行きましたよ」


「あれ? でもあそこの家庭って中学生と小学生のお子さんだけだった様な?」


 恭弥さんが首を傾げておかしなことを言う。

 そんな訳ない。親父さんやお袋さん、妹達も姉や娘と慕う子だぞ?

 確かに一人だけ才能に覚醒したのはおかしいと思うが、流石に勘ぐりすぎだ。


「何を言ってるんですか。寧々と合わせて三姉妹ですよ。親父さんも自慢の娘だって言ってましたし」


「同じクラスってことは同級生なんだろ? ちょっと待て、少し調べ物してくる」


「ちょっと、何事ですか?」


「もしかしたらその寧々って子、三年前の大規模事故で逃げ出したダンジョンチルドレンの一人かもしれない!」


 談話室を駆け出る恭弥さんの背中を、俺はただ見送ることしかできなかった。


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ここまでお読みいただきありがとうございます。

これにて二章完結となります。

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