第7話 踏破報酬
「っと、これで地下五階まで制圧かな? グリーンスライムも荷物持ちありがとな?」
「キュイ♪」
結局俺は二階層から三階層、四階層と順調にクリアし、四階層で数日過ごした。
いや、ひと思いに五階層をクリアしてもよかったんだが、レアアイテムがザクザクでお宝回収に勤しんでいたのだ。
まだ今年の学生はここまできていなかったのだろうか?
いや、来れてもこんな場所にあるなんて気づいてないんだろうな。
なんせ地上数百メートルの崖の上。飛行タイプのモンスターをテイムしなければ来られないような浮島の上だ。
最終的な使役モンスターはここまで増えていた。
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<使役枠:10/10>
★レッドキャップ:ランクD_グレード5【1/1】
★グリーンスライム:ランクD_グレード5【1/1】
★シーホース:ランクD_グレード6【1/1】
☆ウィルオーウィスプ:ランクD_グレード7【2/2】
☆ドライアド:ランクD_グレード9【1/1】
☆ヒュージスネイク:ランクD_グレード9【1/1】
☆コカトリス:ランクC_グレード1【1/1】
☆エルダートレント:ランクC_グレード1【1/1】
☆サーペントドラグーン:ランクC_グレード2【1/1】
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◎使役リスト
<ランクF>
30/30種 complete!
<ランクE>
20/22種
<ランクD>
23/23種 complete!
<ランクC>
3/18種
<ランクB>
0/15種
<ランクA>
1/ 9種
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五層のボスはブラックドラゴン!
ダンジョンのボスに相応しい風格と強さだった。
攻撃手段は灼熱ブレスに猛毒ブレス。
石化の魔眼と状態異常のオンパレード。
三層のボスから恒例になるお供呼びも付属している。
だが、俺は使役モンスターを強化しながらどうにか倒し、肉体のアップデートをしていた。
ダンジョンをクリアしたものに与えられる栄誉。
それこそが肉体の強化だった。
これはダンジョンが現れた頃から噂になっていた情報だ。
本来なら複数パーティでの参戦が予想されるので一人一人に与えられる能力は微々たるもの。
が、俺はモンスターを使役する力でソロでの討伐達成を果たした。
本来ならエリートの数名が手にする力を、俺一人で独占する!
初回クリアボーナスは、二回目以降の比ではない。
五倍、どころか十倍の差はある。
それでも俺の素の力が大したことはないので、学園に戻ればまた底辺に逆戻りだ。
残念ながらブラックドラゴンのリポップはなかった。
ラスボスだからなのか、はたまたそういう仕掛けなのか。
せっかく下克上で空いた使役枠が無駄になったな。
だが、ドロップが美味しいのでまずはよしとしておく。
宝箱からは持ってるだけで『耐久<A>』の効果がつく【宝剣】と、腕輪型の【マジックバッグ】を手に入れた。
これは一度装着すると本人登録した相手以外使用出来ない盗難防止付き。まさにレアアイテムの代表格だ。政府が欲しがるのも無理はない。莫大な金が動くのだろうが、無能な俺が手放す道理はないな。
こいつはありがたく俺の資産になってもらう事にした。
どれだけ物が入れられるか分からないが、荷物持ちを使役する分枠が空くのは助かるな。グリーンスライムの空間保管庫も優秀だが、地下三階まで降りなきゃ会えない。
次のダンジョンアタックに会える確率は0だ。
地下三階はAクラスの狩場だからな。弱いグリーンスライムはカモにされるだろう。
そしてこの腕輪は偽装効果もあるのか、普段はくたびれたミサンガとなって腕に巻き付いている。
千切れたら願いが叶うみたいなアレだ。
宝剣は腕輪に仕舞い、俺はダンジョンの一階層に戻ると使役枠を解放した。
みんな一緒に激闘を乗り越えた仲間たちであるが、使役を解けばまた普段の生活に戻るのだろう。
過ごすごと元の街道に戻っていくモンスター達。
俺はダンジョン内でTPの更新を行なった。
想像以上に稼げていたことに驚愕する。
なんせ一回のダンジョンアタックだけでポイントランキング上位を塗り替えてしまったのだから。
手に入れたポイントは四捨五入して540万TP。
これが五階層踏破者の獲得できるポイントかと思えば夢があるな!
<初回ダンジョンクリア報酬>
Fランクモンスターcompleteにより『忍耐<F>』を獲得!
Dランクモンスターcompleteにより『自然治癒<D>』を獲得!
ダンジョン踏破により『攻撃無効<C>』『恐怖耐性<B>』を獲得!
「……あん?」
ダンジョンから学園に戻る時、聞き慣れたメロディが響く。
また何か条件を満たしたかと思えばきちんとそれは記されていた。
しかしすぐに消えてしまう。
まるで俺が確認できればそれでいいとばかりに、ページは白紙になっていた。
残されたのは獲得TPだけ。
これで少しくらいは妹にいい暮らしを用意させてやれる。
治療費には届かなかったが、ダンジョン内でできることに確かな手応えを感じていた。
この力があれば、俺は変われる。妹だって助けられる。
あとはどうやってFクラスから脱却するかだな。
先に別れたクラスメイト達に弁明する事を思い浮かべてクラスに帰ると、そこには見知らぬ生徒が複数いた。
うちのクラスメイトが根こそぎ上位クラスに編入したからその皺寄せを食らったもの達だろうか?
何かと俺に意見があるらしい。
「あれ? 誰だお前ら」
「テメェが行方不明になんてなるから! 俺らが割りを食っちまったんだろうがよぉ!」
回答後、振るわれた拳を少ない動きで回避する。
遅っそ。あくびが出るほど鈍い攻撃。
いまだに五階層の死闘が脳裏に焼き付いているからか、ついついそれらと比べてしまう。
「テメェ、避けんな!」
「なんで当たってやらないといけないのさ?」
「杉くん退いて、そいつ蜂の巣にしてやるわ“ガトリングボルト”!」
開幕攻撃を仕掛けた男子生徒が失敗するなり、女子生徒が敵意をむき出しにして魔法スキルを放ってきた。
ついつい身構えるが、いつまで経っても魔法が発動する様子がない。ついついあくびが出てしまう。
そういえば、熟練度の低い生徒は魔法発動までタイムロスがあるんだっけ?
彼らが元どこクラスに所属していたか知らないが、こっちには攻撃無効<C>がある。
この学園はクラス分けでも生徒にバフがかかるので、所属クラスによっては受け止めきれない攻撃もあるのだ。
しかし彼女の襲い発動魔法は簡単に片手で払えた。
「今、何かしたの?」
「嘘よ、ゴブリンだって仰け反るのよ?」
比較相手を出されて笑ってしまう。
あぁ、居たね。ゴブリン。
一回層〜二階層に生息している彼ね。
元気してる?
ついつい懐かしさに笑みが溢れる。
「お前は一体なんなんだ?」
「なんだと言われても俺は俺だよ。唯一残ったFクラス生。逆に聞くけど君たちの方こそ何? 旧友に向けるには随分と手荒な歓迎だけど」
「俺達は……お前がFクラスに長い事在籍しなかったから代わりにあてがわれた生贄だ!」
「ふぅん」
結局は俺に責任をなすりつけたいだけの才能覚醒者ってだけでしょ?
そして切り捨てられたってことは才能の上にあぐらをかいて生きて来たってことだ。
切り捨てられて当たり前じゃない、そんなの。
それよりも才能さえ覚醒しちゃえば一生安泰だって安易に思ってた?
「で? 君たちが無能なのを差し置いて俺に攻撃をして鬱憤を晴らそうと思った分けだ?」
「私達は才能覚醒者よ!? 未覚醒のあんたに敵うはずがないのよ? どうして抵抗するのよ!」
「え? さっきの攻撃のこと言ってる? ハエが近くに寄ってきたら誰だって払うでしょ? 俺は鬱陶しいハエを払っただけだよ?」
「この、バカにして! みんな、見せしめにこいつをぶっ殺すわよ!」
「「おう!!」」
一致団結して俺をとっちめる様だが。果たしてどの程度やれるのやら。
ゴブリン相手にあれほどの時間をかける相手に殺される俺ではないが、彼女の実力がどの程度あるか調べるのも面白いな。
実際に上位クラス生がどの程度の実力者か知的好奇心が勝る。
普通なら命の危機であるはずなのに、彼女の行動は非常に微笑ましいものに思えた。
ダンジョンを踏破してからというものの、肉体以上に精神が成長したのかもしれないな。
「どうぞ、やれるものならやってみろ。俺は逃げも隠れもしないから」
手招きすれば簡単に釣れた。
こいつら、俺のゴブリン軍団と戦わせたら一網打尽にできそうだ。
それくらいに挑発に弱く、堪え性がない。
「どうした、才能があってもこの程度か?」
スキルの発動には溜め時間や発動後の硬直時間がある。
これの隙が少ければ少ないほど有能とされるが、新しい生徒は発動前の隙と発動後の硬直がどちらも致命的なくらいに長かった。
確かに威力はすごい。当たればそれこそモンスターを駆逐できるだろう。
しかしモンスターとてバカではない。
連携だってするし、その地で生活してきた知恵も持つ。
力技で通用するのはそれこそ一回層のモンスターくらいだろう。
なんせスキルには回数制限がある。むやみやたらに使っていてはすぐに足を掬われてしまうのだ。
こんな風にな。
一人、また一人床に転がして行く。
今の俺は才能も持たない一般人だが、潜った修羅場の数々が洞察力と体捌きを極限の域に至らせていた。
「もうへばったのか? 才能覚醒者。こんなんで俺たちFクラス生に威張り散らしていたのか? 呆れるぞ?」
これならまだ秋庭君達の方が動けた。
潜った死地の数が違うと言えばそれまでだ。
ただでさえ満足に授業も受けられない境遇。
実質いじめと変わらないクラス対抗試験。
ぬるま湯育ちの才能覚醒者と、劣悪な環境で生き延びた一般人は心のあり方からして別物なのかもしれないね。
「なんだ、帰っていたのか。才能は……覚醒していないようだな。他の生徒は上に行ったというのにお前は本当にどうしようもないな。一週間も無断欠席してからに。追ってペナルティの通知を送る。それと朗報だ。この後のクラス対抗試験、お前達Fクラス生の相手はCクラスに決定したぞ。元級友も居るそうじゃないか。せいぜい胸を借りるんだな」
いつの間にか入ってきた教師は、特に誰を特定するでもなく、基本人称の『お前』『お前ら』でFクラス生に接する。
ただの大きな一人言かの様に振る舞い、俺たちに無慈悲な通達をする教師を俺達はオウム先生と呼んでいた。
あの鳥のオウムである。
鸚鵡返しという言葉がある通り、上から言われたことをそっくりそのまま言葉にするしか脳のない人物であるという皮肉だ。
俺としては今の自分が元クラスメイトとどこまでやれるか楽しみだったが、逆に床に這いつくばった新しいクラスメイトが震え上がった。今まで散々Fクラス生にいじめを行ってきたもの達が、今度は逆の立場を体験する。それは何者にも耐えられない事なのだろう。
先ほどまでの上から目線を維持しながらこう命令してきた。
「おい、お前Cクラス生に友達居るんだろ? ちょっと加減してくれる様に頼んでくれないか?」
「え、なんで?」
「だって上位クラス生よ!? Cクラス生の攻撃なんて受けたら私達死んじゃうわよ!」
「その死にかねない力をさっき俺に奮ってきた君たちが、立場が変わったらお願いするのは滑稽だね。そんなんだから用無しと切り捨てられたんじゃないの? この学園は弱肉強食だって入学式でも言ってたでしょ? 聞いてないの?」
「それは……だってあたし達は才能があるのよ? なんでこんな目に遭わなきゃいけないのよ! こんなの間違ってるわ! あんたが全部の試合に出なさいよ!」
やれやれ。どうやら彼らはぬるい環境に居すぎて自分の置かれた立場をきちんと把握できていないらしい。
Fクラス生に配属された時点でそれ以上からストレス発散のサンドバッグになる運命だと言うのに、自分がその立場になったことを受け止めきれない様だ。
「それを先生が認めてくれたらいいね?」
結局才能を覚醒させても、扱うもの次第で光りも腐りもする。
そういう意味でも学年毎にカースト制度を分けたのもわかる気がした。
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