ものがたりの条件
小狸
前編
「へー、唯、小説書いてるんだ。読んでいい?」
「別にいいけど」
ネット上で小説を掲載し始めて半年が過ぎたが、まだ一度も評価されていない。
元々文章を書くことは得意だった。
相手を感動させよう、相手にこういう感情を喚起させようとして、うまく言葉を入れ替えて使い分けるだけだ。
それだけでも、充分に目立つことができた。
読書感想文の賞は、小学一年生から中一までの七回ずっと取り続けている。
そういう積み重ねが、私にとっての自信になっている。
だからこそ、中二の今年に――せっかくならその有り余る才能を発揮しようと思い、小説投稿サイトに登録をした。
創作にはパソコンを使っていたので、同世代の子よりかは、そういう方面には詳しいつもりだ。メールアドレスを登録した。
まずは投稿小説の確認だろう。
どんなものがあるのか、どんな傾向の作品があるか。ランキング上位からあらかた目を通した。
どうやら日間平均ランキングと、週間、月間、四半世紀間のそれぞれ別で序列付けされているらしい。
色々な作品に目を通せるから、ラッキーと思った。
速読は得意だった――ぱっぱと見て、ほとんどを網羅した。
が。なかなかどうしてひどいものだった。
同じような話の繰り返しである。
作り込んでいない世界観、曖昧な言動、統一性のないキャラクターの性格、どれをとっても、こんなものは物語とは言えない。ただの駄文じゃないか。
くっだらなと思ったし、なんなら口に出した。
「くっだらな」
こんなものが跋扈しているのなら、すぐに頂点に立てるだろう。ちょろいものだ。この程度の物語ならば、朝飯前だ。ご飯をお茶碗に盛るよりも早く、作ることができる――文と文を組み合わせて、できる。
どうしてこいつらは、こんな乱雑で粗だらけの物語を投稿できたのだろう。
取り敢えず年間ランキングを二十位まで見終わった後で、失笑を禁じ得なかった。
そして、いくつも小説を書いた。
文章の作り方は何となく心得ていたので、ぱっぱと書いて、ぱっぱと次のものへと進んだ。まあ、取り敢えず興味がありそうな冒頭で引き付けて、ブックマークや評価が多ければ、それの続きを書こう。
そういう魂胆だった。
再三になってしまうが、私は文章を書くことが得意だ。
読書感想文でも何度も選ばれたし、自分でも才能があると自負している。
だからこそ、それを遺憾なく発揮するために、この場所を選び、小説を書いた。
しかし――しかしだ。
一つとして、評価されない。
ブックマークをされないことは仕方がない。もうこのサイトも古いものだ。新参者がぱっぱと成り上がれる程に、簡単なものではない。そんなことくらいは分かる。
しかし、評価されない。
最後までスクロールしたところに、五段階評価をする場所がある。
五つある星にマークを付けるだけの簡単なことだ。
三十を越える作品を投稿したけれど、評価されたものは一つもなかった。
無論、評価がないのだから感想やレビュー等も埋まることはない。
最初こそ、評価されるものと思ってずっと更新ボタンを押して待っていたけれど、最近はそれさえ惰性になってきた。
別に私の全てを評価されたいとは思わない。
私だって運動はあまり得意ではない(成績五は取れるけれど)し、そこまでジャイアイズム(今作った言葉だ)な思考を持ち合わせてはいない。
ただ、得意で自信のあるもので評価されないというのは、何というか。
とてもそわそわする気持ちだった。
落ち着かない。
毎日、サイトを訪れて作品を確認したけれど、評価ポイントが上昇することはなかった。
焦って――いや、でも私は、こんなことで焦り散らす程に子どもではない。どうして評価されないのかを考えた。私の文章は完璧のはずだ。
ならば――そう、読者が悪いのだ。
読者のせいだ。
そう思った。
そもそも駄文の集合体のようなこのサイトである。
投稿者がそういう文を書くのなら、読者だってそういう文を求めているのだ。ニーズのレベルが低いのだ。ははーん、そういうことか。ここのサイトを読むような輩には、私の文章の良さが理解できないのだ。
そう思って――ついつい、笑みがこぼれてしまった。
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