第二章 復讐の魔法少女
第1話 魔法少女の誘い
式乃が俺の家に来てから、3日が経った
3日も経つと、式乃もこの家での生活に少しだけ慣れ始め、家事等も手伝ってくれるよになっていた。
一応俺が全部家事をするつもりだったが、洗濯などは下着などがあって流石に俺がするわけにもいかなかったず、それだけは頼んでいる。まあ、それもそれで俺のものがあるので拒否反応が常に出ているのかもしれないが。
火曜の夜。
「姉ちゃん」
俺は玄関で靴を履き、仕事へと出掛けようとする依華に声を掛けた。
依華は「ん?」と不思議そうに振り返る。
「どうしたの紘? その歳になって今頃お姉ちゃんが恋しくなった?」
「いや、そんなことはない絶対」
「冷たいなぁ」
ムッとする姉だったが、そんなことはお構いなく、真剣な目を向けて言う。なんかやっぱり、いいにくいな、これ。
「……夜道は、気をつけて」
「へ?」
目を丸くされる。
そりゃそうだろう。急に夜道の心配だとか、一体俺に何があったのかと思われるし。ほんっといいにくい。
でも言っておかなきゃ、もしかしたら姉ちゃんも……そう考えると、そんなこと思ってられない。
「ほら、最近あれでしょ? 変な事件が立て続けに起こってるからさ、弟として、お転婆な姉が心配でさ、めっずらしくね」
依華は固まったままだ。
冷え込む空気。とんでもなく気まずい。
だが、依華はやがて笑い出した。
「フフッ、そうだね。珍しく心配してくれる弟の言葉だもん。そんな貴重な言葉は、しっかりと胸に刻み込まなきゃだからね。うん、それじゃ行ってくる」
彼女は最後に優しい笑顔を見せると、玄関扉を開き、夜の闇中へと進んでいった。
「行ってらっしゃい」
こう、姉の背中を見送るのはいつぶりだろうか。
覚えてはいないけど、たまには悪くない、かな?
依華が家を出た後、俺は夕食で使った食器達を洗っていた。
時間は7時を回り出したばかり。8時頃になったら下黒達は集まるので、時間まではあと1時間はある。
その間に、やるべきことは済ませておこう思っていた。
そんな中————
「先輩」
背後から式乃が声を掛けてきた。
なんだろう? まだ時間じゃない筈だけど。
そう思う俺は、話し掛けてきた理由を聞いてみることにした。
「ん? どうしたの式乃さん。まだ奴らが来る時間じゃない筈だけど」
俺がそう言うと、式乃は首を横に振る。
「いえ、下黒関連の話では……いや、関係はなくもないところの話ではありますね」
「複雑だなぁ。まあいいさ。それで? どんな話?」
丁度洗い物を終え、濡れた手をタオルで拭きながら彼女の話に耳を傾ける。
すると彼女は、恐る恐る口を開いた。
「実は—————今日学校で、魔法少女を名乗る人に話しかけられました」
「は?」
発せられた衝撃すぎる内容に、俺は腑抜けた声を上げ、持っていたタオルをつい落としてしまう。
その後、しばらく固まった。正確には、脳の内容処理が追いつかず、次の行動に移るという選択肢がなくなってしまった。
「先輩?」
そんな俺に式乃は声を掛ける。
その声にハッとした俺は反射的に声を漏らす。
「あ、ごめん。ちょっと、いやかなりビックリした」
床に落としたタオルを拾いながら言う。
「無理もないです。私もその人に会った時、驚き過ぎちゃって固まりました」
「そっか……」
俺は拾ったタオルを手すりに引っ掛け、式乃を連れてリビングのソファへと向かう。
そして互いに向かいって座り、話を再開する。
「それで、どういうこと? 魔法少女に会ったって、どんな経緯で」
「はい。ちょっと話が長くなっちゃいますけど、ことの経緯を話させてもらいます」
式乃はそう言うと、今日の学校での出来事。つまり、放課後の夕方に起こったことを話し始めた————
✳︎✳︎✳︎
放課後の夕方、5時頃。空はオレンジに染まっていた。
「失礼しました」
私は職員室の扉を開いたまま礼をし、退出する。
私はレポートをさっさと提出するよう先生に催促されて、1人教室に残っていた。正直な話、とても面倒だったので、少々ピリピリしながら作業を行なっていた。
だがたとえ面倒なことでも、時間をかければいずれ終わる。そう信じて黙々と続けた結果、どうにか時間の経過を1時間程に抑え、終わらせることに成功した。
「はぁぁ、疲れた」
軽いため息を吐きながら、私は光に照らされる廊下を歩く。
時間は未だに5時だが、放課後なので生徒や教師の通りは極端に少ない。やはり下黒による殺人の影響もあるのだろう。あまりにも静かすぎる。
しかしその1人の世界は、目の前からこちらに向かって歩いてくるメガネを掛けた女子生徒によって終わりを迎えた。
1人の静かさを侵略されて少し悲しく思ったが、同時に誰かいてくれたことで安心もした。
しかし、そんなことは当然表情に出すことはなく、そのまま互いにすれ違っていく。
————その時だった。
「ねえ、アナタ」
ゾクッとした。
後ろから声が響き、呼び止められる。
先程すれ違ったメガネを掛けた女子生徒だろうか、と私は思い、振り返る。
振り返った先には、こちらに顔を向け、口元を吊り上げて柔らかく微笑む黒髪の女の子が佇んでいた。
何故そんなに笑っているのだろうか、と私は思ったが、とりあえずその子に用件を聞く。
「なんですか?」
その子は私の質問にフッと鼻で笑い、歩み寄ってくる。
そして近づきながら口を開きだす。
「こんな時間まで学校にいるなんて、可愛い顔して結構怖いもの知らずっぽいね。家族に言われなかった? 夜は気をつけろって」
少し容姿について褒められたのは嬉しいと感じてしまったが、そのプラスをマイナスに変えるくらいの嘲笑うような言い方により、いい印象を持つことができなかった。
私は少し思うところがありながらも、言葉を返す。
「……夜は慣れているので、問題ないです。貴方に心配されるようなことも」
「ふーん。結構冷たいね、アナタ。いや、神崎 式乃、って呼んだ方がいいのかな?」
「どちらでもどうぞ。それにしても、私なんかの名前を覚えていますね。でもそうですね、貴方に言われた通り、急いで帰る方が良さそうな気がします」
「ああ、そう」
「なので、私はこれで失礼します」
私は軽く頭を下げ、彼女に背を向けて歩きだす。
荷物は全て教室に置いてきたままだ。急いで回収して、さっさと帰ってしまおう。
そう考えた私は、急足で彼女から離れようとする。
すると、背後から彼女の声が響いた。
「急ぐ必要性ないと思うけど? どうせ、《アナタ魔法少女なんだし》」
「————ッ⁉︎」
足が止まる。
鳥肌が立つ。
体が一気に冷たくなる。
今……いやでも、明らかに魔法少女って……
背後で彼女がニヤリと笑った気がした。
私は頭が働かず少しだけ固まってしまった。
しかし、今の言葉に確実性を持たせる為、恐る恐る振り返り、彼女に聞く。
「貴方……今なんて……?」
俯いていた眼をカッと開き、彼女に問いただす。
すると彼女は、少し笑いながら聞き返してきた。
「あれ? 聞こえなかった?」
ふざけているのか。そう思うと、無性に腹が立ってきた。
「いいですから! ……今、貴方は何と言ったんですか?」
声を荒げる。
それに対し、彼女はハッキリと答えた。
「だ・か・ら、魔法少女なんでょ? アナタ」
「ッ!」
「ハハッその反応、やっぱり本当っぽいねぇ」
私はつい目を細め、実質彼女の言葉に頷いてしまった。
たが、完全にそうだと言うわけにはいかない。
私は言う。
「……仮にそうなのだとして、だから何なんです? それを知ったところで、貴方には何も————」
「何も? いやいやいや、そんなわけないでしょ。だって、私も魔法少女だし」
「……え?」
耳を疑った。
今度こそ聞き間違えではないかとも思ったが、そうでもない。明らかに耳にハッキリと聞こえた。
そうなると、まさか、そんな……
「信じてもらえない? じゃあ証拠でも欲しい? 私がそうだっていう証拠。なら……アナタも同じ魔法少女なら知ってるでしょ? マジカルゲームっていう言葉も。これでいいでしょ?」
マジカルゲーム。その言葉を知っているのは、魔法少女に関係している人だけだ。
つまり、彼女もそうなのだ。
「じゃあ、本当に貴方も……」
信じられないかったが、彼女の口から魔法少女にしか知り得ない単語が出てきたので、信じざるを得なかった。
それにしても、何故自分から正体をバラすようなことをしたのだろうか。そう思った私は聞いてみることにした。
「なら、何故自分から正体をバラすようなことを? 魔法少女ならお互いに敵同士なはず。なのに何故、自分から不利になるようなことを」
「何故って? まあそうね。内緒にしてた方が狙われなくて安心だし、闇討ちとかできるしね。その点だと、私のこの行動はその有利な状況を自分から破棄したバカなもの。他の魔法少女から見たら呆れられる。それこそ、今のアナタみたいにね。でも、私にとってはそれこそが理由。目的の為には必要不可欠で、避けては通れないものなの」
「目的……? 一体、どういう」
こうは言ってみたものの、教えてはくれないのが鉄板だ。
知りたければ戦えなどと言われるのかもしれないと思い、私は担いでい竹刀袋に手を伸ばそうとする。
しかし、なんと彼女はその目的をすんなりと答えてくれた。
「私の目的は、隠すつもりないから言うけど他の魔法少女と同盟を結ぶことなの」
「同盟?」
「そ。同盟。魔法少女は全5人。一人一人潰しあって行っても埒が開かないし、それこそ戦闘力の乏しい人になったら生き残ることもできないかもしれない。そこで、魔法少女同士でしばらくの同盟を結んで互いに助け合えば、少なくとも最後までは生き残れる筈。最後は1体1の殺し合いになるけど、それまでは互いに仲間としてこのゲームを戦えるってこと」
同盟……なるほど、そういうこと。確かにそれならば生き残れる可能性がグンと上がるかもしれない。
すると彼女は歩み出し、私との距離を少しずつ狭めてきた。
私は聞く。
「なるほど。なら、私に正体を明かして目的を話したのも」
「そう、全ては同盟を結ぶ為……それで、どう?」
彼女は私の前に立つ。
そして彼女は手を差し出してきた。それは、ボロボロの筈なのに異様に綺麗な矛盾している手だった。
彼女は言う。
「私と協力しない? 互いに助け合って、生き残れる。悪くない関係だと思うけど」
私は差し出された手に向けていた視線を彼女の顔に向ける。
「あ、そうなったら私も名乗る必要があるみたいね。私の名前は羽河《はねかわ》 薫子《かおるこ》。よろしく。お互いに助け合って、最後まで生き残ろう」
薫子と名乗る彼女の顔は、嘘偽りなく思えた。
心からそう思っている、そうしたいと考えている。そういう意志が伝わってくる。
ならば、私もそれに答えよう、と思った私は、口を開いた。
「……私は————」
✳︎✳︎✳︎
「————断りました。そしたら激怒して去っていきました」
「は? え、え?」
サラッと今の流れを式乃はぶち壊した。
式乃は俺の反応を不思議に思ったようで、首を傾げる。
「何をそんなに驚くんですか?」
「い、いやその、断ったの? 今の流れ。協力しましょうってならないの?」
「何です? 協力して欲しかったんですか?」
「違う違うそうじゃなくてさ。雰囲気、雰囲気よ」
俺の言葉に、式乃は頭上にハテナを浮かべている。
何故これが分からない……まあいいんだけど。
俺は式乃に聞く。
「それはそうと断った理由、聞いていいかな? 話を聞く限り、協力することに関してはデメリットが無さそうなんだけど」
気になったのはそれだった。
デメリットがない。その協力で彼女が不利になることがないのだ。
では、何故? 何故断らなければならなかったのか。
式乃は答える。
「はい、確かに先輩の言う通りです。私もこの協力には悪いところがないと思っています。いっそあの時、協力関係を築いていた方がよかったかもしれませんね」
「じゃあ、どうして? 分かっていながら、その提案を拒否したんだい?」
そう聞くと、式乃は少し黙りだす。
やがて話す言葉がまとまったのか、口を開いた。
「そうですね……私、自分でも自覚していることがあって。それが自分の精神、メンタルの弱さです」
「精神の、弱さ……?」
「はい。もし、私が誘いに乗って協力することになったら、その最後、2人だけの戦いになった時、私は……躊躇うかもしれないからです。一時的なものとはいえ、一緒に戦った仲間です。赤の他人ならまだしも、親しくなりすぎた人を殺せるかと言われると……」
「そ、そう、だよね……」
難しそうに、悔しそうに話す式乃。
俺はそれを聞いて意外に思った。
式乃は今まで願いの為なら誰でも殺せると思っていた。殺すことができるのだとしても、何かしらの負荷が心に掛かる程度だと思っていた。
しかし、行動にまでその影響が現れるかもしれないと自分で言っているのが、俺には驚きだった。
「じゃああくまで生き残る為、躊躇なく人を殺せる為の自己防衛ってことかな?」
「はい。そうなりますね」
式乃は話が終わった直後、時計を見た。切り替えが早い。そこのところは割り切れてるんだよなぁ。
「ちょっと、体を温めに外に出てきます」
彼女はそう言いながら立ち上がり、刀を手に持ち外へと向かおうとする。
「式乃さん」
俺は式乃の名を呼び、彼女はそれに足を止めた。だが、振り返ることはない。
そのままでも耳を傾けてくれればいいので、俺は言った。
「俺が言うのもおかしなことだし、俺なんかに言われるのも嫌だとは思うけどさ、そんな立場の俺でも言わせてほしい。式乃さん、これからはより一層気をつけて日常生活を送ってほしい。今回は運良く相手の魔法少女が仕掛けてこなかっただけで、前みたいに急に襲ってくることだってあるんだ。だから、その、とにかく気をつけて」
戦いもせず、口だけの俺なんかに言えることではない。
だとしても、俺が今関与しているのは死ぬか死なないかの世界だ。そんな世界で、何もせず見ているだけなんて、俺にはできない。
式乃は俺の言葉を聞くと、振り返り、素直に頷いてくれた。
「はい、分かりました」
そして優しい笑顔をし、俺に安心と心配の両方を与えた。
だが案の定、翌日、異変が起こった————
※文章のクオリティ低下と僕のリアルでの多忙により、投稿頻度を3日に1回に減らさせてもらいます。つまり次回の投稿は11月5日土曜日になります。
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