ウキウキの理由
何故、あの時の春鈴がウキウキしていたか、今なら分かる。
また春鈴と雨露と今回は九垓も連れて外に行くことになるとは思ってもみなかった。
後宮、その他、あの中にはもうないと分かれば、ここに来るのは必然だった。
「はぁ……」
大きな溜め息を吐きつつ、今回は買い食いはしないようにしようと志遠は決めて、歩き出す。
その考えに賛同できないのはウキウキしていた春鈴だけだが、これはまたあのような倒流香炉がないかと真面目に聞く為だと言えば、渋々それをあきらめたようだったが、全然役立とうという気はないのが分かった。
はぁ……とまた溜め息を吐きそうな所で、二手に分かれましょうか? と九垓が申して来たが、どう考えてもこの春鈴と一緒になる奴は大変な事になると分かる。
「そうだな、春鈴は誰と一緒に行きたい?」
「そうですね……」
これなら誰も文句を言わないだろう。
普通なら志遠様が選ぶのでは? と思うかもしれないが、今日は選びたくない。
自分の家にでも帰って、余暉の手料理でも食べてゆっくりしていたい。
「志遠様が良いです!」
「何故だ?」
がっくりと志遠は首を垂れた。
どう考えても志遠様しかおりません! 雨露さんは無口だし、九垓さんは弱そうだし、志遠様ならある程度……。
何だ? と思えば、春鈴は口をつぐんだまま答えなくなった。
許してもらえるとでも言いたそうな口を今すぐムギュッとしてやりたくなった。
「まあ、良い。その方が安全だしな」
何が? と今度は九垓がそうなる番で四人は二手に分かれることにした。
二人で出歩くということはすなわち、この感じは――なんて思う間もなく、志遠は人に聞きまくった。
役に立たなそうなら自分が役に立つしかないからだ。
この感じ、宦官だった時と似ている。
彼女が圭璋であった時の名残だろう。
だとすると今の自分は清穆か? 笑えて来る。
突然、そうなった自分におかしくなりそうだ。
清穆では出来なかった事を今の圭璋である春鈴にするのか、そんな間違った事は絶対にしない。
志遠は一人頑張った。
「お疲れではありません?」
「お前はそうでもないだろう?」
「そうですね、でも、そうして身を粉にして働いて疲れませんか? あれが出て来るのは夜なのですよ?」
そんなのは分かり切っている。けれど、何かしていないとやっていられないのだ。
「さてと、昔話でもしましょうか?」
何を突然と思ってみれば、春鈴はいかにも答える。
「お忘れですか? 私はあなたの子を産みはしないで他の人の子を産んでいるのです。それも一回ではありません。数回もです!」
知っている。
「あなたが先に死んでしまうからです。そういう時代でした」
確かに、あれはそういう時代だった。
こうして平和に暮らせるほど甘くはなかった。
戦の巻き添えは当たり前だったし、そうならない為にも戦いもした。
けれど、全て結ばれずに終わっている。
結ばれてもそれは身体だけだった。
それ以上のものはない時だってあった。
だからと言って、今の地位を使い、奪おうという気は起こらない。
前世の時はすでに自分が男として用済みになってから出会った為だったし、彼女はその事に嘆き悲しみ、その運命を呪った。
「それを言う為にわざとこうしたのか?」
「いいえ、私は幼き日に志遠様に会っているのです。お忘れでしょうが、その時もまた食べ物関係でした。私が迷子になって泣いていた所をあなたはお菓子をくれて喜ばせてくれました。そこからです、いいえ、本当は生まれる前から決まっていました。私がこうなる事は」
そう言って春鈴は志遠に近付いた。
「何が目的だ?」
「その節はありがとうございましたと言いたいのですよ。そして、これからはちゃんとやります。でも、もう少しだけ、あなたにお任せしたいのです」
「何を?」
「思い出して下さい、本当の事の発端を」
「それは――」
綺霞に頼んだことへの対価なら、俺は何を差し出すべきかと志遠は考える。
そもそも、こうなったのは自分のせいじゃない。いや、自分のせいか……。本当の始まりは自分のせいだ。
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